僕は当初このアルバムにまったく関心がなかった。よりオリジナルに近いフォーマットだった『Yellow Submarine Songtrack』 や 『Let It Be...Naked』 も一度聴いたきりCDラックに放り込んでおしまい、みたいな僕のようなすちゃらかビートルズ・ファンが、こんな添加物入りまくりのビートルズ作品を楽しめるとは思えなかったからだ。だから発売日を過ぎてもずっと無視したままだった。今回入手したのだって、年末年始のバーゲンで輸入盤があまりに安くなっていたからだ。こんなに安く手に入っちゃうならば、聴いてみてもいいかなと思った。
そうしたらばだ……。これが意表をついて、むちゃくちゃおもしろかった。聴き始めたとたんにニヤニヤ笑いが引っ込められなくなってしまうようなアルバムだった。
なんたってビートルズは僕に洋楽を聞くきっかけを与えてくれたアーティストだ。いくらすちゃらかだとは言っても、これまで二十数年にわたり、それなりに繰り返し聴き続けている。いかにずさんな聴き方をしてきたとは言っても、記憶の隅にこびりついている印象というものは当然ある。このアルバムはそうした僕の“ビートルズの記憶”を、いい意味で裏切ってみせる。
典型的なのが、オリジナルのコーラスの部分だけを抜き出して、アカペラ仕立てにした1曲目の "Because"。アカペラにしただけならば、ふーんという感じで終わったんじゃないかと思うのだけれど、この曲ではさらにそこにひと工夫加え、ワンコーラスごとの曲間のブレイクを少し長めにとってある(少なくても僕にはそう聴こえる)。このブレイクがやたらとおもしろい。無音部分を長めにとったことでオリジナルとの違いが際だち、単にアカペラにしたという以上の効果を発揮している。音のなさにものを言わせるとは、さすが手練の音楽プロデューサー、ジョージ・マーティン(とその息子)。とても感心してしまった。
まあ、音源が限られているだけあって、大半の楽曲はそれほど変わってはいない。大半は微妙な違いという程度のものだから、一曲一曲をとりあげて聴かされただけならば、これほど感銘は受けなかったと思う。ところがそうした微妙な違いも、アルバム一枚分、80分近く続けて聴かされるとなると、塵も積もれば山になる。その違和感の蓄積がもたらす新鮮さはかなりなものになる。だからこの作品のおもしろさはアルバムでないとわからないと思う。最初はこんなものおもしろんだろうかと懐疑的な姿勢で聴き始めた作品だったけれど、気がつけばその後もけっこうくりかえし聴いてしまっている。"Lady Madonnna" の間奏に "Hey Bulldog" のリフが入るところなんか、聴くたびに思わずニヤついてしまう。
まあ、これを「ビートルズの新作」と言うのはさすがに言いすぎだと思う。けれどそう言いたくなる人がいるのもわかならいでもないかなという、意外な新鮮さのある作品だった。むかし、スターズ・オン45で盛りあがったことのあるロートル・ファンならば必聴だ。あれを不届きにもビートルズのオリジナル音源を使ってやっちゃいました、みたいな感じで笑えます。どうせならば、次はもっとマイナーなナンバーを使った第二弾を出しちゃって欲しい。
(Jan 28, 2007)