Hit & Fun
パフィー / 2007 / CD
パフィーもデビューしてもう10年だそうで。『アジアの純真』でブレイクした時には、まさか自分が10年後に彼女たちのベスト盤を買うことになるなんて、思ってもみなかったものだけれど、いざこうしてその間にリリースされたシングルを中心としたこのコンピレーションを聴いてみると、そのヒット・ナンバーのオンパレードぶりにはあらためて感心してしまう。10年のキャリアはだてじゃない。
パフィーの強みは素材としての癖のなさだと思う。決して歌がうまいわけではないけれど、下手で聴けないというほどでもない。女性としての色っぽさを売りにしているわけではないけれど、でも女性ならではのしなやかさはきちんとある。変にどこかが突出していなくてニュートラルな分、どうにでも演出できる柔軟さがある。
そんな彼女たちのキャラクターは、奥田民生を始めとした当代きってのロック・ミュージシャンたちが、自分たちの音楽を女性に託して表現する上で、うってつけだったのだろう。だからこのベスト盤にはメローなバラードは皆無。とにかくにぎやかで楽しげなロック・ナンバーがずらりと並んでいる。ほとんどすべてが踊れる曲だというところが、なによりもいい。
収録曲のなかでも一番感心したのは『サーキットの娘』。いまさらながら、この曲は傑作だと思う。まったく異なった3つのパートを違和感なくつなげて見せた、意外なほど技巧的な楽曲。レース・クィーンを戯画化しつつ、きちんとラブソングとして成り立たせて見せたコミカルな歌詞の見事さ。サーキットという曲のモチーフとアンマッチなマージービート風アレンジメントの与える脱力感。それらの要素をなにげなく組み合わせてみせたこのナンバーは、奥田民生という人のもつ才能の大きさが遺憾なく発揮された、極上のポップ・ソングだ。まさに天才の
でも、この曲が素晴らしいのは、奥田民生が天才だからというだけではない。なんたって彼が自身のアルバムでこの曲を演奏しているバージョンよりも、あきらかにこちらのパフィーのバージョンのほうがいいんだから。
やはりこの曲は女性ボーカルでなくちゃいけない。それもソロでは駄目で、二人いないと。なんたって一番の聴かせどころは、「誰より速く帰ってきてね」というサビのフレーズの「ね」の部分。ここで「ね」だけがユニゾンになるところが本当に最高だと思う。この曲を歌うのに、パフィー以上にうってつけのアーティストなんて、おそらくいない。ちょっとばかり歌は下手でも。
(Mar 24, 2007)