これもUKのニューカマーで、ロンドン出身の三人組、クラクソンズのデビュー・アルバム。
このバンドもやたらとよく名前を見かけるなと思っていた折に、輸入盤がとても安く売っていたので──なんたって iTune Store でダウンロードするよりも安かった──、聴いてみようかという気になった。ザ・フラテリスもそうだったのだけれど、最近、英米では新人アーティストのアルバムは、なるべく多くのリスナーをつかもうということで、あえて安く値段設定したものが多いみたいだ。
それはともかく、このバンド。ザ・フラテリスが一聴したとたんに「おっ、これは」と思わせてくれたのに比べると、第一印象はあまりよくなかった。
このアルバムの音響には、不思議な古めかしさがある。三人組といいながら、音作りはいわゆるスリーピース・バンドのものとは程遠い。中心となるのはベースとドラムなのだけれど、それ以外の音が渾然一体となっていて、どんな楽器が鳴っているんだか、いまひとつよくわからない。音のエッジが削れているというか、シャープさに欠ける印象で、基本的にはダンサブルな音楽であるにもかかわらず、あまりそういう印象を受けない。デジタル・レコーディングがあたりまえの時代の作品だというのに、妙に80年代的なレトロ感が漂っている。
そんなレトロ感は、SFタッチのタイトルがついたドラマチックな楽曲群のせいで、いっそう強くなっている(なかにはアメリカ文学の奇才、トマス・ピンチョンの大作 『重力の虹』 をタイトルにした曲なんかもある)。ほぼ全編にあふれるファルセットのバックコーラスも胡散臭いし、なんだかB級SFカルト・ムービーをモチーフにしたコンセプト・アルバムみたいだ。深いんだか、浅いんだか、よくわからない。
なんにしろ、音響的にあまりフレッシュさが感じられないその作風ゆえに、最初に聴いたときには、まるでいいと思わなかった。これは買って失敗だったかなと思った。ところがだ。
二度、三度と聴き返すうちに、だんだん印象が変わってきた。メロディは思ったよりもフックがきいていてチャッチーだし、曖昧模糊とした音響も意外と悪くなくない。そして、なにより印象的なのは、UKオルタナらしい朴訥としたボーカルを支える、チープでおおげさなコーラスワーク。この下手上手さ加減は、妙にくせになる。
はて、これはいったいなんだろうと思いつつ、繰りかえし聴くことになった。ほんと、全11曲36分という短さも手伝って、何度聴いたことか、わからない。第一印象に反して、すっかり、はまりまくっている。結果的に、聴いた回数はフラテリスよりもこっちのほうがぜんぜん多い。それでいて、いまだに僕はこの作品をどう評価していいんだか、わからないという、なんとも説明しにくい、不思議な魅力を持ったアルバムだった。
ちなみにバンド名となっている Klaxon という単語は、車の「クラクション」のことだそうだ。どうせならばオアシスやポリスと同じように外来語扱いにしてしまって、「クラクションズ」と呼んだほうが、語呂がいい気がする。
(May 09, 2007)