2007年9月の音楽

Index

  1. The Biggest Bang / The Rolling Stones
  2. ALL!!!!!! / 100s

The Biggest Bang

The Rolling Stones / 2007 / 4DVD

ザ・ビッゲスト・バン(初回生産限定版) [DVD]

 ビガー・バン・ツアーの模様を収録したローリング・ストーンズの最新ライブDVD。今回も前作に続き、またもや4枚組となっている。
 前回のリックス・ツアーは、ライブハウスからスタジアムまで、大中小、三規模の会場でプレーするというので話題になったので、そのツアー映像がDVDで四枚組(うち一枚はドキュメンタリー)というのも最初から納得だった。今回はそうした話題性があったでもない。なのに、なにゆえまた四枚なんだろうと観るまでは不思議に思っていた。でも、観てみて納得。今回は長期にわたるワールド・ツアーのドキュメンタリー的な性格の強い作品に仕上がっている。なるほど、これは一枚じゃ収まらない。
 まず一枚目は、テキサス州オースティンでの公演を収録したもの。これは東京ドーム公演と同じ立体駐車場のようなステージセットでのライブで、今回のツアーの定番といった感じ。ミックが御当地テキサスのカントリー・ソングを歌ったり、キースがテキサス出身のバディ・ホリーのカバーを聞かせたりと、珍しいナンバーを取りあげているのもポイントだ。
 続いて二枚目が今回のツアーの目玉、リオ・デ・ジャネイロのビーチで行われたフリーコンサートの模様。百万人が集まったという噂のこのコンサートがすさまじい。いや、ひとことで百万人というのは簡単だけれど、あまりに人が多くて、なにがなんだか。なんでもステージから一番離れたところは2キロも先だったらしい。ステージにたどり着くのに30分かかる。いくらスピーカーを並べたからって、そんな距離でライブが観られるというのが不思議だ。とにかく経験豊富なストーンズのメンバーをして、生まれて初めての体験だと言わしめた空前絶後の大観衆の前でのコンサートは、一見の価値あり。
 同じディスクに収録されている、このコンサートに関するドキュメンタリーもおもしろい。会場の設営からライブの開始直前までをたどる内容で、これを見ると、現代の大規模なロック・コンサートが、いかに多くの人々の尽力と多大な出費の上に成り立っているのかがわかる。会場の設営の準備だけしてライブが始まる前に次の会場に移動しちゃうスタッフがいたり、キースが泊まるホテルのスイートをキースの好みにあわせてコーディネイトする人がいたりと、なかなかびっくりするような内容だった。
 三枚目は、日本、香港、アルゼンチンそれぞれのコンサートのダイジェストを、ドキュメンタリーを交えて紹介したもの。
 日本では、今回のツアーで東京ドームでの入場者数が、累計で百万人を超えたとのことで──そんな会場は世界で唯一だそうだ──、日本公演が取り上げられているのは、どうやらそれを記念してらしい。ただし、収録されているのは東京ドームではなく、さいたまスーパーアリーナの模様。スタジアムとは違ったアリーナでのステージセットの映像や、欧米人から見たエキセントリックな日本の風物を盛り込みたいという意図もあったんだろうと思う。それにしても、百万人という数字はリオのコンサートと同じ。東京ドーム公演二十数回分の観客が、リオでは一晩に集まったということだから、あのフリーコンサートがいかにすさまじかったか、あらためてわかる。
 つづく香港は、初めての中国での公演だということで、これもおそらく記念碑的な意味合いのもの。さすがは中国で、選曲には検閲がかかったのだそうだ。 『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』 が演奏できないと聞かされたミックが、「エド・サリバン・ショーの悲劇ふたたび」みたいなことを言って苦笑していたり、「でも 『ビッチ』 は、やっていいんだ?」 とその検閲の基準の曖昧さを皮肉ったりしている。でもって、そのあとに収録されているのは当然のように 『ビッチ』 。この辺がじつにストーンズらしい。
 この国ではミックが崔健{ツイ・ジェン}という中国のアーティストと 『ワイルド・ホーシズ』 をデュエットするなんて企画もある。でも、この崔健という人が、いやになっちゃうくらい見事にかっこわるい。同じアジア人として、見ていて恥かしくなってしまった。中国のロックは30年以上遅れているとみた。
 三枚目のディスクのトリを飾るのは、ふたたび南米に戻って、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでの模様。ここもライバル、ブラジルに負けずにすごい。南米の人たちが熱狂的なのはサッカーを見ていてもわかるけれど、ここでの熱狂はホント、はんぱじゃない。もうストーンズのメンバーが空港に降り立った瞬間からフィーバーしまくり。街中いたるところに人があふれていて、まるで四十年前のビートルズの来日公演みたい。キースをして「世界中を回ったけれど、アルゼンチンは普通じゃない」と言わしめるほどの過剰な盛りあがり方だった。民族としてのパワーが違いすぎ。南米のチームにサッカーで勝てないのも当然だという気がしてしまった。
 以上、それぞれのお国柄がよく出た五カ国分のライブ映像に加え、ツアーを通じての長編ドキュメンタリーが別ディスクについている。ローリング・ストーンズのワールド・ツアーというものが、いかにすさまじいかを疑似体験できる、とてもおもしろい作品だった。
 まあ、本来ならば一番重要なはずの演奏自体については、いまさらつべこべ言うことはないというか、なんというか。最近のストーンズについては、衰えないその姿を確認することができれば、それでオーケーみたいな感じがある。家族写真を見て「いつも同じ顔でつまらない」とは言わないように、ストーンズについても、その元気な姿さえ見せてもらえれば、それでいいやと思う。少なくても還暦をすぎてなお、百万人の観客を熱狂させることのできるバンドなんて、ほかにないんだから。
(Sep 05, 2007)

ALL!!!!!!

100s / 2007 / CD+DVD

ALL!!!!!! (DVD付)

 中村一義ひきいる100sのセカンド・アルバム。蛇足ながら、バンド名は100sと書いて「ひゃくしき」と読む。そのこころは、もちろん『機動戦士Ζガンダム』でシャアが乗っていた金色のモビルスーツ、百式。バンド名を決めるときに誰かがこれはどうだと言い出して、いいねということになり、でもそのままじゃなんだからと表記をひとひねりしたのだそうだ。僕らの世代以降の日本の男子にとっては、ガンダムは青春時代の基礎知識だなあと思う今日この頃。
 さて、全21曲と破格のボリュームだったファーストとくらべると、今回は1コーラスのみのカバー曲『蘇州夜曲』(服部良一作曲)を入れても全11曲、収録時間も40分と、アルバム自体のたたずまいは非常にオーソドックス。中村くんも今回はボーカリストに徹して、いっさい楽器は演奏していないのだそうで、そのせいか、バンドとしての輪郭は、よりはっきりした感じがする。
 まあでも、サウンドとしては平均的だし、曲も最初はちょっと地味かなと思った。けれど、そこはさすが中村一義。やっぱりいい曲、書いてます。何度か聞きかえしているうちに、すっかり耳になじんでしまった。先行シングルの 『ももとせ』 とか、とても好きだ。サウンドに変にひねりがない分、彼独特のソングライティングの魅力が、よりストレートに楽しめる作品に仕上がっている気もする。前のように長すぎないのも正解。やっぱりロック・アルバムはこれくらいのボリュームがいい。
 あと、このアルバムはスペシャル・エディションのDVDが素晴らしい。これが単なるおまけなんてものではなく、収録曲のうち、カバーの『蘇州夜曲』をのぞくオリジナル曲すべてのビデオクリップがフル収録されている。日本ではこういうのを別商品として5千円とかで売っているアーティストが多いなか、通常盤より2割増でビデオクリップ集をまるまるつけちゃうというサービス精神があっぱれ。商売は度外視して、ひとりでも多くのリスナーに自分たちの演奏を見てもらいたいという姿勢、これこそエンターテイナーの基本でしょう。100s、えらいっ。こういうバンドこそ、もっともっと売れて欲しいと思います。
(Sep 26, 2007)