STARTING OVER
エレファントカシマシ / 2008 / CD
わが人生最愛のバンド、エレファントカシマシの通算17枚目のスタジオ・レコーディング・アルバム。これがなんとも突っこみどころの多い、なかなか充実した作品に仕上がっている。
まずは一曲め 『今はここが真ん中さ!』 のイントロで、おっと思う。いままでになく録音状態のいいダイナミックなギターのリフに続いて、パッパラッパーっとホーンがかぶさってくるゴージャスなアレンジがエレカシとしてはあきらかに新機軸。おおっ、今回のアルバムは違うと思わせる。
ほかにも先行シングル 『笑顔の未来へ』 のようにストリングスをフィーチャーした曲があったり、 『俺たちの明日』 では Dr.キョンがオルガンを弾いていたりと、音作りはいつになく凝っている。印象的には小林武史プロデュースの 『ライフ』 に近い感触だけれど、バンドとしての力量があがった分、より安定感が増した感じ。プロデュースはこのところ懇意にしている蔦谷好位置が6曲、YANAGIMAN という人が4曲で、宮本の弾き語りの 『冬の朝』 のみノー・クレジット (ちなみにこの手のタイトルの曲が増えすぎて、区別がつかなくなっているのは僕だけですか)。アルバム通してひとりの人に任せるんじゃなく、曲によってプロデューサーを変えてみせたのも初めじゃないかと思う(【追記】ハズレ)。
そのほか、ほとんどの曲にゲストでギタリストが参加しているのも目新しい。クレジットに Guitar tech やら Drum tech とクレジットされている人たちがいるのをみると、どうやら今さらその道のプロから演奏の指導も受けているみたいだし、これまでのエレカシは──というか宮本は──単一民族的な
その姿勢のおかげかどうかは定かじゃないけれど、結果として出てきた音は、とても素晴らしいものになった。ことサウンド面に関しては、おそらくこれまでのキャリアでの最高傑作といっていいと思う。ここまで完成度が高く、プロフェッショナルな印象のエレカシは、これまでに聴いたことがない。
ただし彼らの場合、いままでは下手なところ、素人っぽいところに、いつまでたってもロックの原点を忘れませんとでもいった感触があって、それが魅力になっていたところもあるので、今回は完成度が高くなった分だけ、逆に一般的な音になってしまって、おもしろみが減ったという感がなきにしもあらず。
楽曲の面では、先行シングル二枚の感触から想像していたとおり、『ココロに花を』 からのポニーキャニオン三部作に近い雰囲気の曲がそろっている。よくいえばポジティブな曲が多いし、悪くいえば歌詞が月並み。日常生活における怒りや鬱屈を、独特のセンスで真正面から歌う宮本を愛してきた僕のようなリスナーにとっては、ややもの足りない作品になっている。もとより僕は「僕」という一人称を使ってラブソングを歌う宮本には、ほとんど共感したことがないので、ここしばらく登場しなかったその手の楽曲が復活しているこのアルバムには、若干の不満をおぼえないではいられなかった。
それでも、月日を重ねてきた成果か、『ココロに花を』 の頃にくらべると、そうしたありきたりなラブソングや、どうにもすわりが悪いポジティブなメッセージ全開の楽曲も、以前よりは自然体でやっている感じを受ける。それに今回は音響がとてもいいので、あまり好きではないタイプの曲も、それなりには聴けた。
それに、なんだかんだケチをつけても、エレカシはエレカシ、宮本は宮本。コアとなる部分はやっぱり変わっていないじゃんと思わせることもしばしばだ。
一番のいい例が、ラストナンバーの 『FLYER』。この曲、乗っかっている歌詞は、「あふれる熱き涙」なんて月並みなフレーズがならぶ、『ココロに花を』 以降に典型的なものだけれど、ことリズムパターンにおいては、初期のエレカシを
もうひとつ、おもしろかったのが 『まぬけなJohnny』。初めてタイトルをみたときには、チバユウスケでもあるまいに、なにがジョニーだと思ったものだけれど、きちんと聴いてみたところ、その駄目男へ捧げるエレジーとでもいった詩の世界には、ある意味かつての 『珍奇男』 に通じるものがあると思った。正月のライブで宮本が語っていた言葉を借りるならば、主題は同じ。見てくれは違っても、どちらもあわれな道化者の歌だ。珍奇男が年をとって、いまやジョニーになったと──これって、ある意味じゃ、非常にリアリティがありやしないだろうか。正月公演で初めて聴いたときにはそれほどいいと思わなかったこの曲だけれど、スタジオ・バージョンではツイン・ギターの絡みがとてもかっこよく、あきらかに 『ジョニー・B・グッド』 へのオマージュだとわかるエンディング近くの滑稽なバックコーラスもおもしろくて、思いのほか気に入っている。
ということで、変わった部分、変わらない部分、あれもこれも含めて、全部が全部、宮本印のエレカシの新作。若干の不満はあったりもするけれど、それでも今回もやっぱり好きでした。
(Feb 17, 2008)