昇れる太陽
エレファントカシマシ / 2009 / CD+DVD
ひさしぶりにオリコン3位という好セールスを記録したエレカシ通算18枚目のオリジナル・アルバム。
『おかみさん』。まずは目を引くこの珍妙なタイトルの曲がいい。
『おかみさん』。
いまの時代にこんなタイトルでどんな歌を聴かせるんだと思っていたら、これがすごい。2100年におかみさんがベランダで布団干すんってんだから、わけがわからない。
でもって、そんな歌詞を亀田誠治プロデュースによる王道ロック・サウンドで聴かせるんだから、おもしろすぎてたまらない。こんな曲を作る人――作ろうと思う人 or 作れる人――、おそらくいまも昔も、宮本のほかにはいない。ゴリゴリとしたギター・リフに乗せて、意味不明な近未来の日常風景をがなる宮本の力強いボーカルが最高だ。
これと並んでもう一曲、タイトルで目を引いたのが 『ジョニーの彷徨』。またもやジョニーですよ、ジョニー。おそらく前作の 『まぬけなジョニー』 のアンサー・ソングなんだろうけれど、歌詞からも曲調からも、あまり連続性は感じられない。でもこの曲も 『おかみさん』 同様に音がいい。サウンドのアグレッシヴさという点では、このアルバムのベスト3に入る。こちらのプロデュースは蔦谷くん。
そうしてもう1曲、こちらも蔦谷プロデュースで、アルバム・タイトルの「昇れる太陽」というフレーズをフィーチャーした怒涛の一曲目、『sky is blue』。ギューンギュンというスライド・ギターとラウドなリズム・セクションが印象的なこのナンバーで、宮本はアルバムしょっぱなから、別に売れ線にひよってばかりいるわけじゃないんだぜと高らかに宣言してみせる。
この3曲に僕は救われた。今回のアルバムは先行シングル3枚がどれひとつ好みといえない作品だったから、アルバム全体がこの調子で統一されてしまったら、ほとんど聴かずに終わりそうだなあと思っていたんだった。そもそもシングルとそのカップリングにCMソングの 『ハナウタ~遠い昔からの物語~』 を加えると、アルバムの半分はすでに知っている曲だったし。新鮮さはない、楽曲は好きになれないでは、浮かぶ瀬がない。
ところがそんなアルバムは、あまり売れ線とは思えない 『sky is blue』 でかなり濃厚に始まる。この曲をはじめ、まっさらな新曲はどれも粒ぞろいで、なおかつ先に書いたとおり、過半数がシングルの聴きやすさとはうってかわった宮本ならではの個性的でアグレッシヴなロック・ナンバーだった。シングルのポップさにこれらが加わった結果、このアルバムは非常に起伏に富んだ、個性豊かな作品に仕上がっている。シングルのカップリングとして聴いていたときには、いまひとつぱっとしないと思った(失礼) 『to you』 も、アルバムの流れのなかで聴くと、思いのほかしっくりとくる。
そうそう、個人的な印象としては、かなり 『ココロに花を』 に近いと思う。あれも 『悲しみの果て』 や 『孤独な旅人』 など、僕としてはあまり歓迎できないタイプの曲ばかりが先行していたので、期待できないかと思っていたら、いきなり 『ドビッシャー男』 で始まって意表を突かれたんだった。そうだった、エレカシというバンドは──宮本という人は──いつもこんなだったんだ。20年もつきあっているくせに、いまだにそんなこともわかっていない自分は、なんてなってないんだろうと思う。
なにはともあれ、この作品は 『ココロに花を』 に感触こそ似ているけれど、音響がよりよくなっている分、ロック・アルバムとしては、あれよりもさらに強力かもしれない。おまけに、今回はとくに宮本のボーカリストとしての魅力が際立っている。先行シングルのすべてで感じたことだけれども、本当にこのアルバムの彼の歌はどれも明朗で、とことん抜けがいい。メッセージ性うんぬんは抜きにして、ただひたすら宮本の声が好きだというような人にとっては、これくらい気持ちのいいアルバムはないんじゃないだろうか。
いまだ浮世の汚れに染まらぬ純真さを持ちあわせた、日本一力強く明朗な歌声。そんな宮本浩次の歌の魅力を堪能するんならば、これぞまさにうってつけ。そんな最新作だった。
(May 17, 2009)