エレカシ自選作品集 EPIC 創世記
エレファントカシマシ / 2009 / 2CD
どかっとリリースされたエレカシのレーベル別ベスト・アルバム三部作、まずはほとんど売れていなかったというエピック編。
いきなりどうでもいいようなつまらない話から入るけれど、今回のこのベスト盤はなんたってタイトルがすごい。だって 『エレカシ自選作品集』 ですもん。日本では長いバンド名をこんなふうに縮める風習がすっかり定着しているとはいえ、それはあくまで非公式の話。ふつうはバンド側がみずから率先して「エレカシ」なんて呼び名をアルバム・タイトルにつけたりしない。ミスチルだって、ドリカムだって、イエモンだって、おそらくやってない。それを恥ずかしげもなく堂々とやってみせ、なおかつ 「自選作品集」なんてかしこまった言葉と並べて、『創世記』 なんて壮大なサブタイトルをつけてしまう。そんな気取りと滑稽味が同居した宮本浩次という人のセンスが、僕はとても好きだ。
このアルバムについては、二十代のなかばから後半にかけて、数かぎりなく聴き込んだ曲ばかりなので、当然、同時発売された三部作のなかではもっとも愛着がある。それこそ、これらの歌がなかったらば、いまの僕はないだろうってくらいの楽曲ばかり。リマスターの効果か、はたまたひさしぶりに聴いたためか、音もやたらと
楽曲のよさはもとより、この時期は宮本の声がとても強烈。いまなおすごいけれど、若いころは粗削りでさらにすごい。聴いていると、心にこびりついた汚れをガリガリと削りとられるような気がしてくる。こんな感覚を味わわせてくれるボーカリストなんてめったいにいない。この声だけでも唯一無二の価値があると思う。
まあ、思い入れが深い時期の作品だけに、なんであれが入っていないんだと思う曲もあるけれど、じゃあ代わりにどれをはずすんだと問われると、かなり悩ましいところだし──かつてはあまり好きではなかった 『太陽ギラギラ』 とかも、ひさしぶりに聴いたら、その後の文芸大作の布石となるような味わいがあって格好よかった──、なによりすべて宮本自身の選曲ということなので、基本的には文句はない。――いや、ないと言って終わりたいんだけれども。
ただひとつ、アルバム 『奴隷天国』 の曲が2曲しか選ばれていないのだけは、どうにも不満。ほかのアルバムからはすべて4曲ずつ選ばれているし、残り二組のベスト盤も含めてみても、フル・アルバムで2曲しか選曲されていないのはこれだけだ。個人的には非常に思い入れのあるアルバムなので、せめてもう1曲だけでも都合して欲しかった。以前、宮本がライヴで 『奴隷天国』 が絶版になっていたことについて愚痴っていたけれど、本人がこんな調子じゃ、とやかく言えないじゃんと思ってしまった。
(Nov 01, 2009)