2012年1月の音楽

Index

  1. The Whole Love / Wilco
  2. Watch the Throne / Jay-Z & Kanye West
  3. I'm Just A Dog / The Birthday

The Whole Love

Wilco / CD / 2011

Whole Love

 ウィルコの通算八枚目となるスタジオ・アルバム。僕が彼らの音楽を好きになってからアルバムが出るのはこれが初めて。
 このアルバムは始まりと終わりが振るっている。
 まずは一曲目、『Art of Almost』のイントロを聴いて、お~っと思う。ウィルコらしからぬ、まるでレディオヘッドかって斬新なリズム・パターンを聴かせてくれるからだ。
 でも、おおっ、これはカッコいい──と思わせたそのフレーズがそのままつづかないところがおかしい。そのイントロのビートは歌が始まらないうちに、交響曲的な大音量の和音のなかへとフェードアウトしていってしまい、ようやく歌が入ってくるところでは、リズム隊は休憩に入ってしまっているんだった。で、歌のメロディはいかにもって感じのメローなウィルコ節。わはは、なんだこりゃ。
 それほど間をおかず、再びリズム隊は戻ってくるんだけれど、いったんフェードアウトしたもんだから、そのときにはイントロで感じさせた斬新さはすでに感じられない。いたってまったりとした定番のウィルコ・ナンバーって感じになっている。なんかこの、「新しいことしてみようと思ったんだけれど、なんとなく自分たちらしくない気がしたので、やめておきました」みたいな感じがやたらとおもしろかった。
 もう一曲、すごいなと思ったのが、ラスト・ナンバーの『One Sunday Morning』。これ、曲調はいたって穏やかな、それこそよくあるミディアム・テンポの小品って感じの曲なんだけれど、驚いたことにトータル・タイムが12分もある。それも特別に長いギター・ソロがフィーチャーされていたりはしない。3分くらいで終わってもおかしくない淡々としたシンプルな歌とメロディが、延々と12分間もつづくのだった。それでいてこの曲、不思議なことにそれほどの長さを感じさせない。気持ちよく聴いていると、気がつけば知らないうちに12分が過ぎている。そんな感じがするところがすごい。地味ながらすごいなと思う。
 そのほかのナンバーでは、今回はメロディーがかわいい曲がけっこう多い。多いというか、だらけというか。おかげで派手さはないけれど、全体にとてもポップでキュートな仕上がりのアルバムになっている。一見むさくるしいルックスをしたジェフ・トゥイーディらが、こういうかわいい作品を作っているのがなんとも微笑ましい。
(Jan 29, 2012)

Watch the Throne

Jay-Z & Kanye West / CD / 2012

Watch the Throne

 前作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』で世界中から最大級の賞賛を受けたカニエ・ウエストが、今度はジェイZとタッグを組んで作りあげた最新作。
 なんたってヒップホップ界の頂上を極めたもの同士のコラボだ。ゲストにはジェイZの奥さん、ビヨンセも参加しているし、もう問答無用の注目作……なのだけれど。
 もとよりラップには疎く、ジェイZのどこがいいのか、まったくわからない──申し訳ないけれど、これを何度も聴いたいまなお、よくわからない──、そんな僕のようなリスナーにとっては、あまりそのこと自体は関係がない。コラボのせいでカニエ・ウエストのカラーは薄くなんだろうし、その分かえって楽しめなくなりそうな気がしていた。
 ところがどっこい。そんなことになっていないところがすごい。
 いや、いいです、このアルバム。そりゃ前作の完成度にはさすがに及ばないけれど、それでも十分、僕などでも楽しめるポップ・レコードに仕上がっている。通常盤はトータル46分と昔ながらのボリュームなところもよくて、聴き終わるとすぐにもう一度、聴き返したくなる。ヒップホップをちゃんとポップ・ミュージックとして鳴らすバランス感覚という点において、現在この人の右に出る人はいないんじゃなかろうか。カニエ・ウエスト、おそるべしだ。
 ふだんの僕だったら絶対好きにならないようなこのジャケットの金ぴか趣味も、この人たちならばありかなという気がしてしまう。
(Jan 29, 2012)

I'm Just A Dog

The Birthday / CD / 2011

I'M JUST A DOG (初回限定盤)(DVD付)

 The Birthday のアルバムも、はやこれが五枚目。
 ファーストのときにも書いたと思うのだけれど、僕はミッシェル・ガン・エレファントを(きちんとフォローしきれなかったという後悔を)引きずるあまり、バースデイというバンドに対して、これまで好意的になれないでいた。ことギタリストを比較した場合に、アベフトシというカッティングの極みを見せてくれたギタリストに比べて、イマイアキノブという人のスタイルがあまりにオーソドックス過ぎたからだ。
 チバくんのやっていること自体は、ミッシェルのころと変わったとも、質が低くなったとも思わないのだけれど(というか、熟練してますます格好よくなっている気さえする)、こと「チバユウスケのバンド」という視点で見た場合には、どうしてもミッシェルのころよりも後退しているとしか思えなかった。イマイ氏個人に対して特別な悪意はないけれど、そう感じてしまったんだから仕方ない。
 そんなわけで、バースデイのギタリストが変わると聞いたときには、おーっと思った。そしてフジイケンジという人を新しいギタリストに迎えてリリースされたこの最新作の出来映えは、そんな僕の期待を裏切らないものだった。
 前任者のギターが古典的なロックンロールのフォーマットから一歩も踏み出していない印象だったのに比べれば(まぁ、そこがイマイ氏の持ち味だったわけだけれど)、新加入のフジイ氏のギターは確実にそれ以降を感じさせる。少なくても彼は王道一本槍というプレーヤーではない。そんな彼の加入によりバースデイの音はアップデートされて、より軽快になった。
 まぁ、うちの奥さんの言葉を借りると、「今回のバースデイはなんとなく軽い」ということになる。もしかして同じように感じて、「前の方が重厚でよかった」と思う人もいるのかもしれない。でも僕にはそこがよかった。軽いというか、風通しがよくなった感じ。チバくんの歌のそこはかとないユーモアをはらんだハードボイルド・ワールドが、より開けてきた感じがして、とても気持ちいい。僕はこのアルバムがとても好きだ。
 気がつけば、ミッシェルが解散してから今年でちょうど十年目になる。アベフトシがいなくなってからも、もう二年が過ぎている。
 いい加減、ミッシェルがどうとか言っていても仕方ないんだろうなと。このアルバムを聴いて、僕はそう思った。そしてはじめて、バースデイを生で観たいと思った。
(Jan 30, 2012)