UBU
illion / 2013 / CD
RADWIMPSの野田洋次郎の海外進出ソロ・プロジェクト、illion のファースト・アルバム。
「illion」はバンド名だと思っていたら、CDのクレジットを見たところ、作詞・作曲・演奏・プロデュース、すべてが illion 名義になっているので、小山田圭吾の CORNERIUS と同じように、野田くんのソロ名義らしい。
セロなどのゲスト・ミュージシャンが参加した曲もあるけれど──なんと東京事変の亀田師匠も一曲ベースで参加している──、基本は全曲、野田くんがひとりで演奏まで手掛けているらしい。まさに純然たるソロ作品。ということで、このところキーボーディストとしての成長著しい野田くんらしく、ラッドウィンプスよりも鍵盤や打ち込みが前に出た音作りになっている。
海外向けとのことなので、歌詞は英語オンリーかと思っていたら、予想を裏切って日本語の曲も数曲ある。
おもしろいのは、それらの曲がラッドウィンプスでは聴かせたことがないくらい、日本っぽい旋律を持っていること。日本人として海外に向かって作品を発表することになって、そういう風に日本らしさを意識的に打ち出してきたところにも意外性があった。
僕は野田洋次郎という人を日本でもっとも才能のあるミュージシャンのひとりだと思っているので、これをほとんど全部ひとりで作っていると聞いて、その才能の大きさを改めて再確認した。ソロ・アルバムとしては、十分な出来栄えだと思う。
でも、だからといって、これが世界水準で広く受け入れられるほどの傑作かというと、残念ながらそこまでとも思えない。洋楽ファンとしての僕の耳には、このアルバムは音響的にそこまで飛び抜けた作品しては響かない。それゆえ海外でどれだけ受け入れられるのかというと、いたって心もとない。
エキセントリックな日本的メロディを強調した打ち込み多用のこのアルバムの音よりも、逆にギター・ロックとしての RADWIMPS の音の一般性のほうが、世界的にはより広く届くんじゃないだろうか。そんな気がして仕方ない。
アルバムでもっともシンプルで美しい曲のひとつ、『HIRUHO HOSHI』を国内盤のみのボーナス・トラックとしたことをも含めて、海外戦略的にはやや疑問の残る一枚。こんなに美しい曲を海外の人には聴かせないなんて、なんてもったいないんだと思ってしまった。
(Apr 21, 2013)