Lotta Sea Lice
Courtney Barnett & Kurt Vile / 2017 / CD
去年そのギター・プレイで僕を魅了したオーストラリア人のギター・ヒロイン、コートニー・バーネットと、ペンシルバニア州出身のオルタナ・アーティスト、カート・ヴァイルとのコラボ・アルバム。
男女の共作というと、ふつうならデュエットが聴きどころになりそうなところなのに、このアルバムは違う。いや、世界は広いから、もしかしたらそこに魅了される人もいるのかもしれないけど(もともと歌の上手さが売りのふたりじゃないと思うし、ハモったりもほとんどしていないんだけど)、少なくても僕にとっては違う。
なんたってコートニー・バーネットの作品ですから。注目すべきはまずはそのギター。のみならず、カート・ヴァイルも過去のジャケ写ではギターを手にした写真が多いので、ギターを弾くことには人一倍のこだわりがあるんだろう。そんなふたりのコラボ作品だけあって、このアルバムの主役はとにかくギターだと思う。
ただ特徴的なのは、そこで鳴っている音が、昔ながらのブルースやハード・ロックのギター・バトルとかじゃないところ。
ふたりともどっちかというと力みのなさが魅力なタイプなので、音のほうはいたってローファイ。最初から最後までしゃらんしゃらんと脱力している。だからギターと聞いて、クラプトン的な泣きのソロや、ハードなエッジが聴いたディストーション・サウンドを期待したら期待はずれに終わる可能性大。
でも技術うんぬん以前の話として、ギターの弦の響きがそれだけでもう好きでしょうがないという僕のようなタイプには、この音がたまらなく気持ちよかった。
全体的に力が抜けまくった感じの作品ながら、そこでは二本のギターがきちんと自己主張しあいながら絡みあっている。ふたりのギタリストがおたがいの才能をぶつけあった結果としての、そこはかないテンションの高さがある。ところどころでわずかに火花が散っている。この感触がとてもいい。
共作とはいっても、ふたりで一緒に曲を書いたりはしていないらしく、楽曲のクレジットはそれぞれ個人名義だ。ただ自分が書いた曲は自分で歌うとかいうこだわりはどちらにもないらしく、なかにはカート・ヴァイルが書いた曲をコートニーがひとりで弾き語りしている曲があったりもする。要するにそれぞれが書いた曲を持ち寄って一緒に演奏してみました、というような内容になっている。
なんにしろ、この作品にはソロでは味わえない、コラボならではのうまみがある。最初にこういうアルバムが出ると知ったときには、正直コートニー・バーネットのソロ・アルバムのほうが嬉しいんだけれどな……とか思ってしまったのだけれど、いざ聴いてみたら、そんなことを思ったことが申し訳なくなるような気持ちのいい一枚だった。
(Nov 23, 2017)