2020年5月の音楽

Index

  1. Kicks / Rickiee Lee Jones
  2. Western Stars / Bruce Springsteen

Kicks

Rickie Lee Jones / 2019 / CD

Kicks

 去年のオーチャード・ホールでの来日公演からかれこれ一年。つまりそのライヴの直前にリリースされたこのアルバムも一年前の作品ということになるのだけれど、やっぱひとことくらいなにか書いとかなきゃってことで、いまさらながら。
 リッキー・リー・ジョーンズの最新作は『Girls at Her Volcano』からカウントすると通算五枚目となるカバー・アルバム。
 ライブ盤だった『Girls at Her Volcano』やオールディーズ集の『Pop Pop』を別とすると、それ以降の三枚はどれも普通に好きなロック・ナンバーをカバーしましたって感じの作品なので、僕みたいな平凡なロック・ファンにとっては、とても聴きやすい。
 まぁ、ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』なんかを聴かせてくれた前回の『The Devil You Know』とは違って、今回の作品では僕になじみのあるアーティストの曲はひとつも取り上げられていないけれど、それでもバッド・カンパニーやエルトン・ジョン、アメリカ、スティーヴ・ミラー・バンドなど、聴く人にとってはとてもポピュラーなんだろうってナンバーが並んでいる(とはいえ、いちばんメジャーそうなのは『マック・ザ・ナイフ』?)。
 音作りの感触は前作の『The Other Side of Desire』と同系統。弦やホーン、電子ピアノにスティール・ギターなど、けっこう多彩な音が加わっているわりには、全体的に印象はとても控えめで、アコースティックで温かみのあるバンド・サウンドがとても心地よい。
 個人的なお気に入りは去年のライブで聴かせてもらったアメリカの『Lonely People』。電子ピアノとチェロの音が印象的なとても可愛い曲。
 ほかだと『Nagasaki』なんてタイトルの曲があるのも、日本人としては気になるところ。この曲はベニー・グッドマンなどのバージョンが有名なオールディーズとのこと(なにがどう長崎なのは知りません)。
 あと、最後から二番目に収録されているスキータ・デイヴィスという女性のヒット曲『The End of the World』は、『この世の果てまで』という邦題で、カーペンターズや竹内まりや、原田知世も取り上げている大ヒット曲らしい。いわれてみれば聴いたことがあるような……というレベルなのがわれながら残念だ。
(May. 17, 2020)

Western Stars

Bruce Springsteen / 2019 / CD

Western Stars -Digi-

 これも去年の六月リリースだから、ほぼ一年前の作品。『Western Stars』というタイトルといい、馬のイラストのジャケットといい、「カントリー・ウエスタン?」って思ってしまうようなブルース・スプリングスティーンの最新アルバムは、その音作りでも意表をついていた。
 このアルバムで印象的なのはなんといっても、アルバム全体に彩りを添えているストリングスの存在(ちっともカントリー・ウエスタンじゃない)。
 ロックにストリングスを使うこと自体はとくに珍しくないし、たぶんスプリングスティーンだって過去にやったことがないわけではないと思うんだけれど(いつといわれてもお答えできませんが)、でもこのアルバムではそれが大成功して、作品をひとつ上のグレードに引き上げている。
 アメリカン・ロックの象徴としてバンド・サウンドには誰よりもこだわっているだろうスプリングスティーンが、そのソロ作品に積極的にオーケストラを取り入れて成功を収めるなんて誰が思うかって話で。
 いや、べつにスプリングスティーンにそういう方面の才能やセンスがないと思っているわけではなく、そっちのほうへ行こうと思うとは思わなかったという話。
 でも考えてみれば、E・ストリート・バンドと一緒にやっているときは別として、ソロ名義でプライベート色の濃い作品では、ボスはけっこういろいろ試行錯誤をしてみせているんだった。
 全編アコギの弾き語りだった名盤『Nebraska』に始まり、『Tunnel of Love』でのホームレコーディング感のあるシンセ・サウンドしかり、『Devils & Dust』での弾き語りに繊細に音を重ねたようなアプローチしかり。今回のオーケストラの起用はそういう流れの最新版(豪華版?)なんだろうなと思う。
 とにかくこのアルバムは、弦楽を取り入れたウェルメイドで豊かな音の感触と、スプリングスティーンの朗々たるボーカルの組み合わせが素晴らしい。近年のボスの作品でもっとも評価が高いのも納得の一枚。
(May. 17, 2020)