夏草が邪魔をする
ヨルシカ / 2017 / CD
今月七月末から八月のあたまにかけて、僕にとっての現時点での最重要バンドであるヨルシカとずとまよの新作がつづけて出るので、前祝いに両者のデビュー・ミニ・アルバムについて書いて、カタログをコンプリートしておこうと思う。
ということで、まずは2017年のいまごろの時期にリリースされたヨルシカのデビュー・ミニ・アルバム。
ヨルシカ――というかn-buna――の特徴は抒情性と厭世観だと思うんだけれど、これはデビュー作だけあって、厭世観のほうは比較的控えめな印象がある。
次回作の『負け犬にアンコールはいらない』では持ち前のネガティヴさを隠そうともしてない感じになるけれど、ここではとりあえず初お披露目なので、あまりそういう部分が露骨に出ていない曲を選んでいる感じがする。
とはいっても、そこはナブナ。最初の『カトレア』でいきなり「札束で心が買えるなら本望だ」なんて歌わせちゃっているのだけれど。
でもこの曲の場合、それにつづく歌詞がいい。そのフレーズだけ取り出して聴くと、人の心を金で買おうとするろくでなしっぽいけれど、それのあとすぐに「傷一つない新しい心にして」とつづく。買い替えたいのは自分の心かいっ!
その辺の一連の歌詞のニュアンスが個人的には最高に好き。
その次の『言って』はヨルシカではもっともポップで人気の高い一曲だと思うし(新海誠がツイッターでMVを絶賛していた)、「いつもの通りバス停で、君はサイダーを持っていた。」という歌詞がとても印象的な『あの夏に咲け』へとつづく、この序盤の流れが秀逸。そのあとにインストを挟んで、最後はミディアム・テンポの穏やかな二曲で締めている。
ペシミスティックで抒情性たっぷりの歌詞にキャッチーなメロディー、気のきいたギター・サウンド。そしてそんな楽曲の魅力を余すことなく引き出すsuisのボーカル。
三十分たらずという短いトータル・タイムのなかにヨルシカというバンドのポテンシャルがぎゅっと詰まった素晴らしいデビュー・アルバムだと思う。
(Jul. 04, 2020)