朗らかな皮膚とて不服
ずっと真夜中でいいのに。 / 2020 / CD
いま現在の僕にとっての最重要バンド・ナンバー・ワン、ずっと真夜中でいいのに。の三枚目のミニ・アルバム。
先行配信された『低血ボルト』『お勉強しといてよ』『MILABO』の三曲がアッパーなダンス・チューンで、これぞ「ずとまよ」って出来映えなのに対して、その他の三曲はスローでおとなしめ。要するにアルバムでいちばん盛り上がるのはアルバムのリリース以前から聴いていた曲ってことなので、前の二枚のミニ・アルバム――それまで知らなかったがゆえに個人的には全曲が新曲だった――に比べると、いささか中毒度が低い感は否めない。
でも、そうはいっても、気がつけばiTunesでの再生回数は、全曲すでに五十回を超えている。リリースされてから一ヵ月半くらいだから、つまりほぼ毎日聴いているも同然。そんなアルバムほかにない。同時期に出たヨルシカや米津玄師の新譜もくりかえし聴いているけれど、さすがにその数はずとまよには及ばない。やはり現時点で僕にとっての最重要アーティストがこの人だってことは数字が証明している。
ずとまよのなにが特別かって、やはりその言語感覚なのだと思う。
エレカシやBUMP、RADWIMPSなど、日本語で素晴らしい歌を聴かせてくれるアーティストは過去にもたくさんいたけれど、そのほとんどは歌詞が共感できて感動的だから、音楽の感動が相乗効果でなおさら深まるってタイプだった。
でもACAねの場合は違う。歌っている内容の大半は意味が通じない。でもそれでいて、そんな意味不明な言葉がビートに乗ったところから、掛け値なしに快感が湧きあがってくる。その感動は英語の歌では絶対に味わえないたぐいのものだ。
例えば『低血ボルト』の「頭でっ価値 ずっとうんと砕いてもっと」というフレーズ。この何気ない一節が僕にとってはこのアルバムのクライマックスだ。否応なしに身体を揺さぶられる。
つづく『お勉強しといてよ』はタイトルからして最高だし、『Ham』の「息が痛いよ あざになるくらい」という比喩の見事さ、『JK Bomber』のヒップホップ系の「重たいビート」が、途中からいつものアッパーなディスコ・チューンに転調するアレンジや、『マリンブルーの庭園』での松本隆が松田聖子に歌わせそうな歌の世界観の意外性、そして個人的に大好きな『ハゼ馳せる果てまで』と同系統の明るいポップ・チューン『MILABO』で最後を締めるまで、そのすべてが日本語だからこそという魅力を持って僕の心と身体を揺さぶってくる。
そりゃベースとなる音楽自体の構成要素はすべて洋楽からの借りものだろう。でもACAねとコラボレーターたちは、それを日本語の節まわしならばこそ可能な見事なアレンジでもって、唯一無二の音楽として鳴らしてみせている。こんな音楽、おそらくいまの日本でしか聴けない。
長年洋楽ありきで音楽を聴いてきた僕にとって、洋楽では代えが効かないなんて思わせるアーティストなんて初めてじゃないかと思う。それだけでも特筆もの。
とにかく、ずとまよが聴かせてくれる音楽のすべてがいまの僕にとってはかけがえのない宝物だ。この先も末永く彼女の音楽が聴きつづけられることを願ってやみません。
(Sep. 20, 2020)