2021年10月の音楽

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  1. Latest Record Project, Volume 1 / Van Morrison

Latest Record Project, Volume 1

Van Morrison / CD / 2021

LATEST RECORD PROJECT VOLUME 1

 去年は『ノー・モア・ロックダウン』だの『自由になるため生まれたんだ』だの『表に出たら(通りには人っ子ひとりいなかった)』だのと、新型コロナウィルスによる不自由な生活に対する鬱憤をそのまま歌にしたような配信シングルをぽつぽつとリリースして苦笑を誘ったヴァン・モリソン先生だったけれど、そんな大御所の新譜はなんとCD二枚組で全二十八曲という過去最大の大作になった。
 いやー、なんなんですかね、このボリュームは。うちにこもっていたらたくさん曲ができちゃいましたってことなんだろうけれど、それにしても過剰。しかも『ボリューム1』とかいって、つづきが出ることをあらかじめ宣言していたりするし。{よわい}七十六にして、どんだけ創作意欲にあふれてんだか。いやはや、恐れ入りました。
 まぁ、内容ははいつも通りのブルーアイドソウルの金太郎飴状態で、新たなる代表曲と呼べるほどの曲はないけれど、でもいつもの歌声といつもの音をこれだけのボリュームで届けられて文句をいうファンはいないでしょう?
 ――と思ったんだけれど、やはり世界は広いらしく、英米のメディアでは賛否両論あるそうだ。やはりコロナ禍に対する老人の愚痴っぽい歌詞が多いのか――『フェイスブックでなにしてるの?』みたいな曲もある――、はたまた過剰なボリュームにへきえきした人が多いのか。その辺の事情はよくわからない。
 ひどいメディアだと星一つとかつけているところもあるらしいけれど、いやいや、絶対にそんな低評価に値する出来じゃないでしょう? できるもんならば、新曲を二十八曲もこのポテンシャルで用意してみなさいよって話だ。それだけでもう尊敬に値する。これにケチをつける人はきっと初めからヴァン・モリソンのファンじゃないんだろう。
 僕は日本のミュージシャンが「ライヴができない」って嘆いているのを見るたびに、だったら一年くらいスタジオにこもってアルバム作りゃあいいじゃんって思ってきたので、それを過剰な熱意でもって実践してくれたこのアルバムはまさにわが意を得たりでした。
 先生、第二弾も楽しみにしてます。――って、本当に出るのかな。
(Oct. 19, 2021)