秋の日に
宮本浩次 / 2022
先月ひさびさに音楽について文章を書いたら、もっと書けそうな気分になったので、いまさらだけれど、ここからは落穂拾い的に何枚か。
まずは去年の十一月に出た宮本浩次の女性歌謡曲カバー・アルバムの第二弾。タイトルは『秋の日に』(猛暑日がつづくさなかに取り上げるにはいまいちふさわしくない)。
これはいろんな意味で意外性のある一枚だった。
そもそもミニ・アルバムとはいえ、『ROMANCE』と同じコンセプトでもう一枚アルバムが出るなんて思ってもみなかった。よほど歌いたい曲が多かったんだろうか。
収録された全六曲のうちに、またもやユーミン(『まちぶせ』)と中島みゆき(『あばよ』)の曲が入っているのもささやかなサプライズ。このお二方に対する宮本のリスペクトがすごい。
さらには中森明菜が二曲入り(『飾りじゃないのよ涙は』と『DESIRE』)。松田聖子だけじゃなくて中森明菜も好きのかっ!――って思った(まぁ、僕も好きだったけど)。
以上を含め、宮本がこれまでにカバーしてきた曲は、僕らの同世代ならば、好き嫌いにかかわらず誰もが耳にしたことがあるようなヒット曲ばかりだったから、『ROMANCE』の収録曲はすべて知っていたし、このアルバムも同様――かと思ったら、今回は違った。平山みきの『愛の戯れ』、この曲だけは聴いたことがなかった。
調べたら1975年の曲だから、当時の僕らは九歳。音楽を聴かない家庭で育った僕なんかが知らなくて当然なこの曲を取り上げるあたりに、母親が音楽好きだったという宮本の家庭環境が垣間見える貴重な一曲だと思う。
アルバムの最後を飾る小林明子の『恋におちて -Fall In Love-』は音がいい。アルバム全体は小林武史氏プロデュースのいつもの整った音作りで、僕としてはいまひとつ引っかかるものがないのだけれど、これだけは宮本のギターの弾き語りをベースにしているせいで、音が妙にラフで生々しい。そこがすごくよかった。これぞ宮本って気がする。最後がこの曲ってのがよかった。終わりよければすべてよし。
振り返って聴き返してみたら、『ROMANCE』のラストの『FIRST LOVE』も同様のアレンジだった。あちらでは特になんとも思わなかったのに、この曲はミニ・アルバムで曲数が少ない中にあるせいか、なんか妙にぐっときてしまった。いまさら『恋におちて』を聴いて、そんな風に感動した自分に驚いた。
ということで、短いながらにいろいろとサプライズが多い一枚だった。
(Jul. 16, 2023)