2024年2月の音楽

Index

  1. Accentuate The Positive / Van Morrison
  2. No more cry / エレファントカシマシ
  3. ROUNDABOUT / キタニタツヤ

Accentuate The Positive

Van Morrison / 2023

Accentuate The Positive

 前回ヴァン・モリソンについての文章を書いたのが2021年で、そのときの『Latest Record Project Vol.1』以降の二年のあいだに、ワーカホリックなモリソン先生は三枚のアルバムをリリースしている。
 2022年にはオリジナル・スタジオ・アルバムの『What's Is Gonna Take?』(前作のVol.2ではなく)。その翌年である去年は、スキッフルのカバー・アルバム『Moving On Skiffle』と、黎明期のロックンロール(というかR&B?)のカバーアルバムであるこの『Accentuate The Positive』の二枚を世に送り出している。
 本当はあともう一枚『Beyond Words』というインストゥルメンタル・アルバムもリリースしているのだけれど、これはオンライン・サイト限定販売なもんで買いそびれて、聴けていない(ファン失格)。
 それも含めるなら計四枚。ほんとにもう働き者。
 いまさら遡ってそれらすべての文章を書くのも大変なので、そのうちからあえて一枚を選ぶとするならば、ふさわしいのはオリジナルの新曲を集めた『What's Is Gonna Take?』――だと思うのだけれど、いちばん気持ちよく聴いたのはこの最新作だったので、こちらを取り上げることにした。
 というのも、最近はずとまよをはじめ、日本の若い子の音楽ばかりに慣れ親しんでいたから、いまさらこういう昔ながらのオーソドックスなロックンロールで盛り上がったのは、われながらちょっと意外だったから。
 好きな曲がたくさん入っているならば楽しくても当然だけれど、そんなこともない。僕の知っている曲はチャック・ベリーの『バイ・バイ・ジョニー』とリトル・リチャードの『ルシール』だけだ(選曲渋すぎ)。
 そもそも古いロックンロールということでいうならば、前作のスキッフルだってロックンロールの従兄弟みたいなものだし、そちらはふーんって感じで聴き流してしまった僕が、なぜこのアルバムはこうも気持ちよく聴けるのか?
――って考えても理由はいまいちよくわからない。
 あえて答えをひねり出すならば、それは楽曲の短さにあるんだろうと思う。
 前作はCD二枚組で一時間半というボリュームに加えて、ラストには九分を超える長尺のバラードが入っていたりして、オールディーズのカバーといいつつ、ヴァン・モリソンのオリジナルに通じる彼らしさが溢れていた。
 それに対して今回はどれもコンパクトな三分前後の曲がずらり。しかもバラードは抜き。この曲の短さがポイントなんだろうなと。
 前々から僕のずとまよ好きは曲の短さに負うところも大きいと思っている。ACAねの曲は基本四分前後がほとんどで、五分を超える曲はほとんどない。基本BPMが速いせいで、どんな凝った曲でも四分台でさくっと終わる。そこがいい。
 決して長い曲が悪いと思っているわけではなくて、長くても好きな曲はいくらでもある。僕が一生モノと思って愛聴しているザ・キュアーの『From The Edge Of The Deap Green Sea』やスプリングスティーンの『Rosalita』は七分超えの名曲だ。
 でも、どちらかというと、やはり長い曲よりも短い曲のほうが、リピートしやすいため、あとを引く。適度な長さのアッパーな曲が次々と入れ替わり立ちかわり鳴りつづけるのって、とにかく気持ちいい。
 このアルバムはそんな気持ちよさが溢れている。
 やっぱポップソングにおいて曲の短さは正義なんだなと思った次第。
(Feb. 10, 2024)

No more cry

エレファントカシマシ / 2023

No more cry (初回限定盤)(DVD付)

 エレカシが去年リリースした二枚目のシングル。
 テレビCMのタイアップ曲だった『No more cry』と、どことなくコミカルでEMI時代を彷彿とさせる『Hello I love you』の二曲入り。いや、あとおまけのカラオケ二曲も入っているので正確には四曲入り。
 まぁ、いずれにせよ新曲としては二曲。どちらもミディアムテンポで、宮本らしいメロディのキャッチーな出来。特に後者は個人的には好きなタイプの曲だ。
 だがしかし。
 どうにも素直に好きといい切れないのは、今回もその英語のタイトルと半端な英語まじりの歌詞のせい。
 なんで宮本浩次という人はこんな歌詞ばかり書くようになってしまったんだろう?
 とくに問題ありは二曲目。『Hello I love you』というタイトル、僕としてはこれは禁じ手だと思う。
 後半の歌詞に「Heartに火をつけてくれ!」とあるので、これがドアーズの同名曲へのオマージュであるのは明らかだ。
 だとしても、そのタイトルは使っちゃ駄目でしょう?
 「Hello I love you」という言い回しは、使っている単語は小学生でもわかるくらいシンプルだけれど、決して自然な表現ではない。組み合わせが変で、ふつうの日常英語とは思えない。いきなり「こんにちわ、愛しているよ」なんて人、いないでしょう? いたとしても、せいぜいラジオのDJくらいだ。
 つまりこの言葉の組み合わせには、それ自体にある種のオリジナリティがあるはずだ。だとしたら他人が軽々しく流用していいものではなかろう。
 たとえば夏目漱石の『吾輩は猫である』というタイトルは――英語にしたら "I am a cat" だから――シンプルきわまりないけれど、そこには確実な独創性がある。唯一無二の漱石のシグニチャーがある。
 そのタイトルを別の作家がそのまま借用して、別の小説を書いたとしたらどう思います? そんなことをする小説家がいたら、軽蔑されて当然では?
 宮本がしているのはそれと同じことのように僕には思える。
 なまじ『Hello I love you』という曲がいいだけに、安直にそんなタイトルをつけた宮本の感覚にはどうしてもがっかりせずにいられない。
 『No more cry』に「かっこわるい/かっこつけてた昨日の俺」って歌詞があるけれど、『遁世』なんて曲を書いていたころよりも、話せもしない英語を適当に使いまわしているいまの宮本のほうがよほどかっこわるいと思うのは、たぶん僕だけじゃないだろう。なんで「Heart」って英単語がこんなにたくさん出てくるのさ……。
 そもそも世界中で大ヒットしたYOASOBIの『アイドル』を筆頭に、いまや日本語の歌を日本語のまま聴いてくれる外国人がたくさんいるのに、かつて誰よりも日本語を大切にしていた宮本が、なんでいまさらこうも安直に英語を使うようになっちゃったんだろう?
 ――と不思議に思っていたんだけれど、去年ABEMAで配信されたアビー・ロード・スタジオでのスタジオ・ライヴを観て、その理由の一端がわかった気がした。
 というのも、番組の最後に収録されたYO-KINGとの対談で、同世代のふたりはともに最近の若いアーティストの曲を知らないことを告白していたから。
 そうかぁ。つまり、いまの若者たちがどれだけ鋭い言語感覚を持っていて、どれだけ素晴らしい歌を書いているのか、ぜんぜん知らないわけだ。
 ならば洋楽に憧れ、国内にはサザンやスライダーズしかロールモデルがない宮本が、こういう歌を歌ってしまうのも仕方ないのかなぁ……と思ってしまった。
 やっぱいくつになっても勉強って大事だと思うんだけれどなぁ……。
 誰か宮本に米津玄師やヨルシカを聴くよういってくれないかな。
(Feb. 19, 2024)

ROUNDABOUT

キタニタツヤ / 2024

ROUNDABOUT

 キタニタツヤを知ったのは二年前に「THE FIRST TAKE」で公開された『ちはる』だった。
 ヨルシカのn-bunaがギターで参加したというのでその曲を聴いて、おぉ、いいじゃないかと思った。
 曲はキャッチーだし、歌も上手い。男性なのになんともいえない色気がある。長身だし見た目もすっとしてスマートだ――まぁ、くちピアスはちょっとあれだけれど。
 そうかぁ、僕の知らないところでこういう人が人気を博しているのかと。
 そう素直に感心した。
 でもそのあと、オリコン・チャートを調べてびっくり。
 ぜんぜん売れてないじゃん!
 その時点でチャートインしていたのは、メジャーでのデビュー・アルバム一枚だけで、そのときの順位が何位だったかは覚えていないけれど、少なくてもベスト30とかには入っていなかったように思う。
 だから彼の才能を疑ったとか、そういう話ではない。逆。
 こんな才能ありそうな人が売れてないなんて、いまの日本の音楽シーンってどこか間違ってない? 大丈夫?
 ――そう思った。
 さて、それからおよそ一年半が過ぎ、アニメ『呪術廻戦』の主題歌に抜擢された『青のすみか』でようやくブレイクして、『紅白歌合戦』への出演も果たしたキタニタツヤのメジャー・サード・アルバム。
 いやぁ、売れてよかったねぇって。しみじみそう思う。しかるべき才能がようやく正しい評価を受けたようで他人事ながら嬉しい。
 いやしかし、あらためてこのアルバムを通して聴くと、キタニくんがヨルシカでベースを弾いている理由がよくわかる。
 『私が明日死ぬなら』で始まって、『大人になっても』(夕焼けが綺麗すぎて死にたくなる)という歌で終わる。その歌詞のネガティヴな世界観が完全にn-bunaと同系統。そりゃこのふたりは気があうだろうなと思った。僕がこのアルバムを聴いていたら、横でうちの奥さんが「暗い」って驚いていた。
 きけば東大卒だというし、それだけの知性と才能に恵まれていながら、こんな厭世的な世界観を持っている人は間違いなく信頼できる。――少なくても個人的には。
 なんにしろ、曲はどれも性急でポップで粒ぞろいだし、全十曲34分というトータルタイムの短さもいい。いま現在のJ-POPシーンの豊かさを象徴する一枚ではと思います。
 なかでもお気に入りは、前の年にヨルシカのsuisをゲストボーカルに迎えて録音した『ナイトルーティーン』のセルフカバー・バージョン。
 どちらかといえばsuisのバージョンのほうが好きだけれど、差は僅差で、キタニ版も甲乙つけがたい。なによりこちらにもバックコーラスでsuisが参加しているのにぐっとくる。自分の曲なのにあえて後発のこちらを「カバー」と銘打っているのもいい。
 この曲は本当に大好きです。
(Feb. 25, 2024)