エレファントカシマシ
コンサート1999日本武道館/1999年1月4日/日本武道館
去年に続いての正月武道館公演。客の入りは若干減少気味のようだった。二階席の上の方には空席が見られる。昨今の作品では無理もないと思う。
僕らの席はステージに向って左のさらに左、一階席の前から3列目。左側が通路だったため、前の席の人が立ってもステージが隠れない。おかげで今回も座ったまま観ることができた。今回のライブに関しては、これが失敗だった印象だけれど。
アルバム 『愛と夢』 の2曲目 『愛の夢をくれ』 がこの日のオープニング・ナンバーだった。これには意表を突かれた。去年の 『奴隷天国』 にも驚いたけれど、今回はそれに劣らずの意外さだった。
かつてのパターンだと、一発目の定番は 『優しい川』 だったり 『夢のちまた』 だったり、 『奴隷天国』 だった。最近なら 『明日に向って走れ』 だろうか。それぞれ、その時のアルバムの一曲目の曲だ。それがバンドにとってその時期の姿勢を一番良く表している曲だからだろう。だからアルバムのトップになるのだし、ライブでも最初に演奏される。姿勢として大変わかり易かった。
ところが今回は 『愛の夢をくれ』 だ。恥ずかしながら、僕はタイトルさえ覚えていなかった。アルバムの中でもそれほど重要な曲とは思えない。それが突然一発目だ。いったいどうしたのかと思った。
ただし、よく考えてみればこの曲は、曲名がそのまま今回のアルバム・タイトルにつながる曲だったりする。あとで知ったのだけれど、次のシングル・カットはこの曲なのだそうだ。どうやら僕の注目度の低さに反して、バンドにとっては意外と重要な曲だったらしい。そう考えるとこれが一曲目というのも、別に彼らにとっては不自然なことではないんだろう。逆にシングル 『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』 と同じ路線のこの曲をオープニング・ナンバーに選んだというのは、実はエレカシらしい選択だったのかもしれない。
さて、この一発目で意表をついたあと、いったんは、『明日に向って走れ』 『夢を見ようぜ』 と定番を続けて、ここから先はまたいつもの展開かと思わせる。そのあとで、ふたたびおやっと思わせたのが 『かけだす男』。ライブ用の変なイントロで始まるこのハイテンション・ナンバーが随分早いうちに登場する。僕はこの曲順にちょっとだけやる気を感じた。
これ以降もライブは少しずつこちらの予想を裏切りながら進行していく。個人的にはあまり好きでない 『孤独な旅人』 では、今までになくこちらの気分を盛り上げててくれたし、宮本自らがアコースティック・コーナーと紹介したパートでは、ほかのメンバーをステージから下げて、宮本が一人きりで 『涙』 『おまえとふたりきり』 『真夏の星空は少しブルー』 の三曲を弾き語ってみせてくれた。今までのライブでは、宮本の弾き語りの間、うしろでじっと堪え忍んでいるメンバーが気になって仕方なかったので、これは好印象だった。
あまり好きではない新曲群も、ライブで聴くと意外なほどすんなりと耳に馴染む。去年の野音の時にも思ったことだけれど、今回のアルバムの曲は、ノーマルなスタイルのロック・ナンバーが多いため、アルバム 『明日に向って走れ』 の作品より全然ライブ向きだ。 『good-bye-mama』 『Tonight』 の2曲は野音の時より断然よかったし、 『寝るだけさ』 もアルバムの印象よりもノリのいいロックナンバーに仕上がっていた (なにごとだって感じの、柄にもない実験的なイントロはともかくとして)。
演奏自体もクリアでよかった。前のような轟音ではないけれど、パキパキした印象で気持ちがいい。このところライブでは非常にいい音を出していると思う。演奏力にはいまだにクエスチョンマークがつくけれど、とりあえず以前のようなドタバタしたところがなくなった分だけ、安心してみていられる。僕個人の好き嫌いはともかくとして、これはこれで正しい方向性なのだろう。
ちなみに、この日のライブはスペースシャワーTVで完全生放送された (ああ、なんという無謀な企画)。それなのに宮本は、 『明日に向って走れ』 のギターソロをとちり、アンコール一曲目 『男餓鬼道空っ風』 では、臆面なくいつもの不恰好なコール・アンド・レスポンスを要求していた。長年のファンとしては、なかなか恥ずかしかった。勘弁して欲しい。
それはともかく、この日の一回目のアンコールはかなりの出来だったと思う。 『男餓鬼道』 は素晴らしいパフォーマンスだったし──あれでコール・アンド・レスポンスさえなければ……──、このあとの 『デーデ』 『おまえと突っ走る』 の二連発は、 『デーデ』 のあとであえて 『星の砂』 といかなかったところに、珍しく悪戯心を垣間見せていた。 『せいのでとびだせ』 は個人的に好きな曲ではないけれど、会場は十分に盛り上がっていたし、次の 『戦う男』 はひさしぶりに聴けてとても嬉しかった。この曲と 『ココロのままに』 ──本編の最後の方で演奏された──における宮本ならではのハードネスは、最近のエレカシに関しては唯一の救いだと思っている。
このあと 『極楽大将生活賛歌』 が、ああ、そういやこんな曲もあったねーと変な感慨を誘う。バンドが一番苦しかった時期に発表されたシングルだ。あまりにひさしぶりだったので、今聴くと当時の感覚が甦ってきて妙に懐かしい。今回の武道館で聴けて一番嬉しかった曲はこの曲だったかもしれない。こんな曲を掘り出してくるあたり、宮本はまだ過去をすっかり切り捨ててしまったわけではないのだと、わずかながら思わせてくれたから。
なんにしろこのアンコール第一部は、最近のエレカシは踊れないから駄目だという僕の意見をくつがえすに充分な乗りのよさだった。どうせ途中で立っているのが苦痛になるような曲をやるんだろうから、立たなくていいやと思ってずっと座っていた僕が馬鹿だった。素直に立って踊ればよかったと、ちょっとばかり後悔させるような内容だった。
ただし、そのあとのアンコール第2部は完全に蛇足。 『悲しみの果て』 『今宵の月のように』 『はじまりは今』 『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』 のシングル4連発は、お年玉がわりというつもりだったのかもしれないし、実際にそれが嬉しくてたまらない人だっていたのだろうけれど、個人的には、ない方がましなおまけという感じだった。
まあ、なにはともあれ、今年も新年早々2時間を越える、長丁場の、思っていたよりはいいライブだった。『愛と夢』を聴いて感じたもやもやが若干晴れた。
(Jan 23, 1999)