エレファントカシマシ
2004年1月13日(火)/新宿コマ劇場
「某ツアーファイナル」のような肩書きはいっさいない、3年ぶりのエレカシ正月公演。動員成績的に武道館での開催が不可能になったせいだろう、代わりにデビュー当時に何度か利用したことがあるとかいう、なにやら思い入れのありそうな新宿コマ劇場での公演となった。
僕が彼らのコンサートに足を運ぶようになってからこのホールでやったことは一度もないから、多分13、4年ぶりということになるんだろう。想像するからに感慨深そうだ。これは去年の野音に引き続き、懐かしいレパートリーのオンパレードか。それとも大晦日のカウントダウン・ジャパンでは未発表曲を連発していたと言うし、新しい年の門出を飾る意味でも、再出発を強く意識した内容となるんだろうか。なまじ無題のコンサートだけに予想がつきにくかった。あえてどちらかと問われれば、おそらく懐古的な内容になるんじゃないかという気がした。ということで一発目の予想は『おはようこんにちは』だったのだけれど……。
あけてみれば、この日のライブのオープニングナンバーは 『うつらうつら』 だった。あたらずとも遠からず。しっかしこれかあ。
僕はこの曲が大好きだ。今でも道を歩きながら、なにげなく口ずさむエレカシナンバーの筆頭はこれじゃないかと思う。でも2004年の一発目として聴かされるこのナンバーは、なんちゅうか、実にオープニングには不向きな気がした。音がスカスカのアレンジが、これからコンサートが始まるぞという興奮とマッチしない。ボーカルがいくら迫力十分でも、全体としてのあの音の薄さでは、会場の熱気を受け止めきれていない感じを受けてしまった。
二曲目以降もやはりこの時期のナンバーが並ぶ。『優しい川』『太陽ギラギラ』『サラリ サラ サラリ』『おれのともだち』『無事なる男』『通りを越え行く』『曙光』『金でもないかと』『ゲンカクGet Up Baby』『浮雲男』『花男』『やさしさ』……。本編の楽曲はおそらくこれで全部だろう(順番はやや曖昧)。セカンドと五枚目を中心とした、見事なまでに懐古的な内容だった。宮本はギターを弾く時にはずっとパイプ椅子に坐っているし、歌い回しはわざと節をずらす昔のスタイルに戻っているし。選曲のみならず、表現のスタイルまでが昔に戻ってしまっていた。
ただ、去年の野音の時と違って、そうした昔の曲ばかりに偏った選曲がそれほど気にならなかったのは、主に5枚目の楽曲が最近の楽曲と比べて遜色のない音で鳴っていたせいだと思う。特にややアレンジを変えて、宮本がギターを弾きながらスピード感2割増という感じで演奏された『無事なる男』なんかはとてもカッコよかった。『おれのともだち』は思いのほかライブ映えする楽曲でびっくりしたし、ひさしぶりに見る『曙光』のハードなパフォーマンスも出色の出来だったと思う。これらを含めた、宮本の座りギターで演奏された一連の楽曲の出来がよかったため、ノスタルジックな選曲が決してうしろ向きなものに感じられなかったと言うのが大きかった。おかげで思いのほか楽しめてしまった。観客の反応もかなりよかったと思う。
この好印象はアンコールでも持続する。
この日のライブは構成的にはまったく去年の野音と同じだった。本編はソニー時代の曲オンリー、一度目のアンコールではブレイク後の曲を聴かせ、二度目のアンコールで新曲を披露すると言う構成。
ただ同じ構成でも今回と野音とでは、選曲の傾向がかなり異なっていた。野音の時は本編の曲は古い曲の中でも比較的お馴染みの楽曲ばかりだったし、アンコールはブレイク時に一番人気のあった曲ばかりだった。それに対して今回は『5』の楽曲をフィーチャーした本編に続くアンコールの選曲が、『恋人よ』『精神暗黒街』『待つ男』と言う内容だ。メインストリームを外して、わざとあまりライブで馴染みのない曲を取り上げてくれた姿勢がとてもいい。でもって、きわめつけはそのパートのトリを飾る『待つ男』だ。初期エレカシ・ソングのなかでもきわめつけの一曲。徹底的に過去を懐かしむんならば、やはりこれをやらなきゃ嘘だろう。この日のハイライトは間違いなくこの曲だった。
コンサートはさらにもう一回のアンコールを受けて幕となった。最後のステージで披露されたのは未発表の新曲三曲。「それが結論、結論~」という妙な歌詞のバラードと、力強いコード・ストロークは印象的だけれどメロディにいまひとつパンチが足りないアップ・ビートなナンバー(のちに『パワー・イン・ザ・ワールド』であることが判明)。そして「酒もってこい」という、らしくない歌詞を連発する、タイトルのわりには楽曲が淡白な『化ケモノ青年』の三曲。どの曲もメロディ的にいまひとつキャッチーさに欠けるし、音のハードさも足りない。前作『俺の道』もメロディの面では歴代地味度ベスト3に入るような作品だったし、メロディメイカーとしての宮本の才能にやや翳りが見え始めた気がする。3月にリリース予定だという新作がちょっとばかり心配になるような新曲群だった。
あいかわらずメンバーを侮辱するような振る舞いを続ける宮本にはうんざりだし、新しめのレパートリーでの声の出なさ加減は他人事ではなく残念だ。新曲の出来にも満足はしていない。それでも全体としては、バンドとしてのやる気を感じさせる、いいコンサートだったと思う。演歌で有名なホールだけあって、普段とかなり違った雰囲気のロビーや、ライブ中、気まぐれにパラパラと紙吹雪が舞い落ちてきたりするのにも、なかなか味があってよかった。
(Jan 13, 2004)