R.E.M.
2005年3月16日(水)/日本武道館
R.E.M.の来日公演は十年ぶりなのだそうだ。そう言われてみると前回の来日公演は "Monster" の時だったような気がする。道理でこれまで見る機会がなかったはずだ。
当時の僕にはR.E.M.に対する特別な思い入れはなかったので、その時の来日公演は観に行かなかった。既にアルバムはひととおり持っていたはずだけれど、そのくせまともに聴いた作品はひとつもないという状態だったから、それも当然だった。
しかしながらそのライブが 『ロッキング・オン』 で「これぞ真のロック」といった風な絶賛を受けているを読むに到り、これはやっぱり見ておくんだったかと無念に思うことになる。その後に "Road Movie" のDVDを買う気になったのは、R.E.M.のライブが本当にそんなに素晴らしいのかを確認したかったからだった。もちろん生で観るのとビデオで観るのでは大違いなのだけれど、それでもそのビデオ映像を見て、僕はかなりの感銘を受けることになる。そして次の来日公演は必ず観に行こうと誓うことになるのだった。
そんなこんなでようやく観ることができた今回のR.E.M.のライブ。席は2階席の前から二番目、ステージに向かってかなり右寄り。武道館の広さを考えるとそれほど悪い席じゃなかったけれど、かといってステージに近いともいえない。マイケル・スタイプが頭につけていた黒いやつが、サングラスかマスクか、はたまた鉢巻きか帽子なのかもわからない距離だった。
この日のライブにはオープニグ・アクトがあった。7時ジャストに場内の照明が落ちて、そのあまりの遅延のなさにびっくりしてているところへ出てきたのは、残念ながらお目当てのR.E.M.ではなく、DOAという日本人バンドだった。
これが言っちゃ悪いけれど、あまりおもしろくない。演奏は達者だし、コーラスワークも綺麗だ。けれど曲も歌詞もおもしろくないし、なによりボーカリストに動きがなく、ステージ映えしないことこの上ない。まるでB'Zからキャッチーさとユーモアと派手なアクションを取り除いたようやバンドだなと思っていたら、これがまさにそのとおりで、中心メンバーはB'Zのバックを務めている人たちだった。
とにかくどう考えてもR.E.M.のファンが好きになるタイプのバンドだとは思えない。ボーカリストが「R.E.M.さん」と呼んでいたところから判断する限り、彼はまともにR.E.M.を聴いていないのだろう(好きなバンドを「さん」付けで呼ぶなんて考えられない)。どうしてこういうバンドをR.E.M.の前座に持ってきたのかさっぱりわからない。バンドにとってもファンにとっても不毛なオープニング・アクトだった。
【セットリスト】
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そんな前座があったものだから、R.E.M.のメンバーがステージに登場したのは、定刻から40分ほど過ぎたあとだった。
初めて生で見るマイケル・スタイプは遠いせいもあって思いのほか小さく見えた。でも反対にピーター・バックはビデオで見たより大きくなっている感じで、なんだか近年のジミー・ペイジを彷彿させる体形になっていた。マイク・ミルズはあいかわらずラメのジャケットを着ている。サポート・メンバーとしてドラマーのほか、ギターとキーボードを主に扱うマルチ・プレーヤーが二人いた。少人数というイメージがあったので、ステージに六人もいるのがちょっと意外だった。
一曲目は "I Took Your Name" 。 "Road Movie" でも最初に演奏される曲なので、なんとなく嬉しい。マイケル・スタイプもしょっぱなから元気一杯で、終始あの独特のステージ・アクションで観客を楽しませてくれていた。年長のスタイプの方が前座のバンドのボーカリストよりもぜんぜん元気だった。
この日に見た二つのバンドの一番の違いは、見せることに対する意識にあったと思う。DOAには音楽は聞かせるだけではなく見せるものだという意識がまったく感じられなかった。それはハンドマイクでつったっているだけのボーカリストの姿勢であきらかだ。
それに対して、R.E.M.というバンドは、一見ヴィジュアルに気を使っていなさそうでありながら、実はとてもその辺に対して意識周到だ。個々のメンバーの動作の中に、観客を楽しませようという意識がきちんと滲み出している。表現力というのは演奏力とは違うものなのだなと思う。決して派手な演出があるわけでもないのに──といいつつレディオヘッドと同じタイプの電飾を配したステージセットはとてもきらびやかだった──それでいてエンターテイメントとしての不足をまったく感じさせないのは、彼らのステージが表現すべきことに対する確固たる意識に支えられているからではないかと思う。
二曲目が "Bad Day" 。このほかにも "Animal" や "The Great Beyond" が演奏されたことからするに、今回の公演は新作 "Around The Sun" に加え、その前のベスト盤 "In Time" も意識していたものと思われる。ま、セットリストが新譜に代表曲を加えたものになるのはあたりまえのことなのかもしれないけれど、ちょっとくらいは十年ぶりの来日だということに対する配慮もあったに違いない。
音響に関しては音がやや小さめかなという感じがした。けれどこのところ武道館へゆくたびにそう思っている気がするので、その辺は単にむやみやたらと大音量をのぞむ僕の趣味の方に問題があるのかもしれない。
演奏以外で印象的だったのは、マイケル・スタイプのユーザー・フレンドリーなMC。おそらく英語が不得手な日本人の観客にもわかり易いようにと、ゆっくりしゃべってくれていたのだろう。おかげで海外アーティストのコンサートにしては、いままでにないほど話している内容がわかった(ぜんぶ勘違いという可能性もある)。 "Electron Blue" は新譜で一番気に入っている曲だと紹介された。 "I Wanted to Be Wrong" は現在のアメリカを恥かしく思うと語ったあと、反戦の歌だと紹介された。 "High Speed Train" では、今回日本へ来て初めて超特急に初めて乗ることになった(東京-京都間)と話していた。そうしたMCもコンサートの印象をよりよくしている。やはり言葉はわからないよりわかった方が圧倒的に楽しい。あらためてもっと真剣に英語を勉強しないといけないと思わされた。
アンコールで演奏されたアルバム未収録の新曲 "I'm Gonna D.J." は、メローな曲の多かった新譜とは対照的なパンキッシュなナンバーだった。こういうナンバーが新しく出てくるようならば、R.E.M.もまだまだ現役としてガンガンいけるだろう。
この日のライブの好印象に加えて、この日のために2ヶ月にわたってじっくりと全アルバムを聴き続けたことで、いまさら僕はこのバンドがとても好きになってしまった。日本が好きだと言ってくれていたことだし──十年の空白を考えるとリップ・サービスかもしれないけれど──、次回の来日を楽しみに待ちたいと思う。
(Apr 09, 2005)