2022年のコンサート

Index

  1. エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 12, 2022)
  2. ずっと真夜中でいいのに。 @ J:COMホール八王子 (Jan 21, 2022)
  3. 宮本浩次 @ 東京国際フォーラム・ホールA (Feb 14, 2022)
  4. ずっと真夜中でいいのに。 @ さいたまスーパーアリーナ (Apr 16, 2022)
  5. ずっと真夜中でいいのに。 @ さいたまスーパーアリーナ (Apr 17, 2022)

エレファントカシマシ

新春ライブ2022/2022年1月12日(水)/日本武道館

 二年ぶりにエレファントカシマシを生で観た! それも日本武道館で!
 宮本浩次の全国四十七都道府県ツアーが年をまたいで絶賛開催中なので、次にエレカシが観られるのはそれが終わったあとだろうと思っていたのに、まさかこのタイミングで武道館をぶっこんでくるとは! しかもちゃんとチケットも取れた!
 僕らの席は一階席(東G列)だったけれど、ステージのうしろの席まで客を入れて三百六十度を解放したこの日のステージ構成を考えると、決して悪い席ではなかった。ゲストの金原さんカルテットの姿もちゃんと確認できたし、その点ではかえってアリーナよりもよかったのではと思う。
 時は新型コロナウィルスのオミクロン株が猛威を振るい始め、第六波突入が叫ばれ始めた直後だ。もうちょっと遅かったら中止の憂き目もあったかもしれないから、このタイミングでエレカシのライヴが観られたのは本当に幸運なことだった。
 しかも今回はセットリストがふるっていた。こと武道館ライブということでいうと(個人的な意見としては)過去最高の内容だった。
 エレカシの武道館はいつだって気合が入ったセットリストになるのが常だけれども、今回はその気合のベクトルがこれまでとはまったく違っていた。
 ――というのも、おそらくは去年、恒例の野音が行えなかったから。
 三十二年の長きに渡って毎年夏から秋にかけて必ず立ってきた野音のステージに、エレカシは去年ついに立てずに終わってしまった。ファンである僕らでさえも無念なんだから、メンバーにとってはなおさらだったろう。
 今回の武道館にはその無念がたっぷりと込められていたように思う。なんたって第一部はいつもならば野音でやっていることをそのまま武道館で再現したような内容だったから。そして本来ならば野音のレベルでやるべきことをだだっ広い武道館でやってみせたことが、この日のライヴをひとしお特別なものにしていた。
 その特別さはもう一曲目の『うつらうつら』の時点で明らかだった。
 だってふつうないでしょう、武道館であんなに薄暗いステージ?
 大型モニターもなにもなし。三百六十度全席観客を入れているので、ステージうしろのスクリーンなどもなし。演出はただライティングのみ。しかも『うつらうつら』ではそのライティングも最小限という薄暗さ。なんなんだこのアングラ感は。
 暗くてステージ上の宮本がなにやってんだかよくわからないという意味ではソロ公演の『夜明けのうた』に近いものがあったけれども、でもここではその空気感がまるで別物(二曲目が『奴隷天国』って時点でさらに雲泥の差)。宮本のソロが素敵な歌謡ショー的なものだとするならば、こちらはまるで昭和の場末のアングラ劇場のよう。これがライヴ初体験だって人はどう思ったことやら――って、他人事ながらちょっと心配になってしまうレベルだった。
 でもこのアングラな感じって、エレカシが初めての武道館を三千席限定でやったときのそれと極めて近いものだった気がする。あのときはスタンドすべての空席がものすごい違和感を醸し出していたけれど、今回は反対に満員の客席がなんともいえない違和感を生み出していた。この人数が見守る中でこれをやる?――という。
 後半のMCで宮本が「初めて観る人にも私たちの歴史を伝えたいと思った」みたいなことをいっていたけれど、今回は演出を最低限にすることで「あの頃のエレカシ」をみごとに再現していた気がする。少なくても三十三年前からエレカシを観てきた僕らにとってはこれぞ「#俺たちの宮本」ってステージだった。東西南北すべての席を埋めつくした観客が見下ろす武道館で、孤高の演奏を繰り広げるエレファントカシマシのパフォーマンスには、ここでしか見られない唯一無二の存在感があった。
 なにはともあれ、序盤はとにかく見事なまでに「エレカシ創世記」からのセレクションで、最初の十曲のうち、ストリングスがついた『昔の侍』以外はすべてがエピック時代の曲だった。ひさしぶりに石くんのギターだけで演奏された『デーデ』とややゆっくりめの『星の砂』がつづけて演奏されたところなんかは本当に懐かしーって思った(初期はこの二曲がメドレー的に演奏されるのが定番だったので)。
 ただ、すべてが昔どおりだったかというと、決してそうではないところが味噌だ。『いつものとおり』や『浮雲男』はリアルタイムではほとんど聴いた記憶がないから。そういう昔ならばレアだった曲がなにげなく含まれているところに、「あの頃」をいまの視線で振り返っているからこそって新鮮さがあった。
 第一部の後半は「新しい曲」だと紹介された『風』(十八年前の曲なのに)から、がらりと印象を変えて、これぞいま現在のエレカシって演奏がつづく。『シグナル』『生命賛歌』(どちらもひさしぶりに聴けて嬉しかった!)とEMI時代の名曲を挟んだあと、『悲しみの果て』を聴かせ、ラストはエレカシ史上もっとも現在進行形な曲(だと僕が思っている)『旅立ちの朝』のアウトロでのハウリングが途切れた途端に、間髪入れずに『RAINBOW』をぶっ込んでくるという怒涛の展開で締め。これが最高でなくてなにが最高だって第一部だった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. うつらうつら
  2. 奴隷天国
  3. デーデ
  4. 星の砂
  5. いつものとおり
  6. 浮雲男
  7. 昔の侍
  8. この世は最高!
  9. 珍奇男
  10. 月の夜

  11. シグナル
  12. 生命賛歌
  13. 悲しみの果て
  14. 旅立ちの朝
  15. RAINBOW
    [第二部]
  16. ズレてる方がいい
  17. 風に吹かれて
  18. ハナウタ ~遠い昔からの物語~
  19. 笑顔の未来へ
  20. 桜の花、舞い上がる道を
  21. ガストロンジャー
  22. 俺たちの明日
  23. 友達がいるのさ
  24. so many people
  25. 四月の風
  26. ファイティングマン
    [Encore]
  27. 待つ男

 エレカシのライブが二部構成になってひさしいので、昨今は観るほうもそれをわきまえていて、第二部が始まるまでは座って静かに待つってのがすっかり定番化していたけれど、この日は宮本のソロ同様、第一部と第二部のあいだにアンコールを望む手拍子が湧きあがっていた。曲の終わりの拍手も早めに入るし、そういう観客のリアクションの変化にも、本当に新しいファンが増えたんだなってことを実感した。宮本のソロでも思ったことだけれど、僕はそういう新しいファンの人たちの素直なリアクションがけっこう好きだ。なんか初々しくていいなぁって思う。
 第二部では一曲目の『ズレてる方がいい』から『so many people』までの九曲、金原千恵子さん率いる弦楽四重奏が出ずっぱりで、セットリストもそれにふさわしい華やかな選曲になっていた。途中に弦のつかない『ガストロンジャー』を挟みはしたけれど、その間も金原さんたちはステージにいた(観客と一緒になってノリノリだった)。
 第一部の唯我独尊な世界観から一転、ここからはエレカシが売れた理由を証明するかのような多様でポップな楽曲をおおらかに響かせた。いまとなるとこの路線こそがエレカシの王道って思う人も多いのかもしれない(僕個人は第一部こそが至高ってファンだけれど)。ラストはバンドのメンバー六人だけで『四月の風』から『ファイティングマン』という流れだった。
 そうそう、大事なことを書き忘れていた。この日のサポートは金原千恵子弦楽四重奏のほか、キーボードが細海魚さんで(『風』のオルガンが最高に染みた~)、そしてギターがなんとヒラマミキオだった!
 お~、ミッキー復活~!!!! これが今回の武道館をさらに特別なものにしたいちばんのサプライズだった。
 ――とかいいつつ、かくいう僕は遠目に見たその人がミッキーであることに紹介されるまで気がつきませんでした。お粗末。
 正確にいうと、質素なトレーナー姿でうしろ髪をちょんまげに結ったその姿を見て「もしや?」とは思ったんだけれど、僕らの席からだと顔まではわからなかったし、以前よりちょっぴりふっくらとしていたことや、ギターを弾く動作が意外とオーバーアクションだったことで「きっと別人だ」と思ってしまったんだった。最初からミッキーだと確信できていたら、もっともっと感動できたのに……。宮本にはさっさとメンバー紹介して欲しかったぜ(メンバー紹介は第二部の途中)。
 まぁ、ミッキーの復帰は宮本にとっても特別だったんだろう。メンバー紹介では「帰ってきてくれました!」と紹介していたし、第二部の最後にはミッキーとだけ握手して帰っていった(魚さんは?――と思った)。
 今回はそんな信頼すべきミッキーの存在や、ソロ活動で小林武史に「宮本くんギター下手だね」といわれたという影響もあってか、宮本はあまりギターを弾かなかった。で、その結果、曲のあたまで間違えてやり直すというエレカシのライヴではおなじみの風景が一度もなかった。最後の方で歌い出しに失敗した曲がひとつあった気がするけれど(どの曲か忘れた)、少なくても演奏しなおしはゼロ。演奏でミスらないエレカシってなにげに貴重だと思った。
 オーラスのアンコールはたった一曲だけ。定番の真っ赤なライト一色に染め上げられた、いつも通り宮本の爆発的なボーカル・パフォーマンスが圧巻の『待つ男』!
 いやぁ、これがまた冒頭の『うつらうつら』と双璧をなすアングラさですごかった。あの広さにあの薄暗い真っ赤なライティングはある意味猟奇的。まるで江戸川乱歩の世界。令和のこの時代になんてもの見せてくれるんだか。
 その曲が終わったあと、宮本は挨拶もせず、振り向きもせずにステージをあとにした。全体的にMCも少なかったし、ソロでの愛想のよさとのギャップがすごい。なんでエレカシだとこうなの?――って思わずにいられない。まぁ、宮本の場合、その二面性もまた愛嬌って気がしなくもないけれど。
 この日のライヴでなにより感銘を受けたのは、ただただそこには音楽しかなかったこと。派手な演出ひとつなしに、単に遠く離れたステージで十人編成のバンドが演奏して、ひとりのボーカリストがのたくりながら歌を歌っている。それだけでどんなに豪華な演出を施したライヴにも劣らぬ感動を与えてくれるのがすごい。これが最高でなければなんだろう?
 やっぱエレファントカシマシは――昔からの仲間たちと一緒の宮本浩次は――特別だってことを満員の武道館で知らしめた素晴らしき新春の一夜だった。
(Jan. 16, 2022)

ずっと真夜中でいいのに。

果羅火羅武~TOUR/2022年1月21日(金)/J:COMホール八王子

 ずっと真夜中でいいのに。のライブを八王子で観た。
 今回のツアーは「果羅火羅武~」(からからぶ~)という謎のキーワードのもと、ビジュアルは中華系のコンセプトで異国情緒を醸し出したもの。どうやら中国語圏の架空の国という設定らしい。
 ステージ背景には上海か香港のようなネオンサインがあしらってあり、ブラーのドキュメンタリー『ニュー・ワールド・タワーズ』のビジュアルみたいだった(デーモンがうしろ姿で移っているやつ。僕はあれが大のお気に入り)。
 右手の村☆ジュンのうしろにはピンボール――かと思ったらアーケード・ゲーム機だった――が二台配置されて、ゲームセンターぽくなっていた。左手にはアパートみたいなのがあり、オープニングではその窓が開いてトランペットとトロンボーンの管楽器奏者ふたりが登場。ホーンのソロ演奏を聴かせるという趣向。
 この日のゲストはこのホーン奏者ふたり(メンバー紹介がなかったので名前は不明)と津軽三味線の小山豊さんだった。
 しばらく前にギターの佐々木"コジロー"貴之くんが三味線をマスターしたというようなことを言っていたので、今回のツアーでは彼が三味線を弾くのかと思っていたら、今回も小山氏が参加していた。初登場は『居眠り遠征隊』で、そこからの三曲(か四曲)と、あとは後半戦の何曲かという感じ(集中力散漫で正確なところがはっきりせず)。
 ちなみに今回はメンバーが全員やきやきヤンキーツアーに近いファンキーな髪形をしていて、小山さんも頭のてっぺんで髪をまとめたちょんまげスタイルだったので、幕張のときとイメージが違いすぎて、最初はその人だとわからなかった。世の中には三味線うまい人がたくさんいるなぁと思ったら、前回と同じ人だったという。
 今回はゲストがその三人だけというのがポイントだった。珍しくオープン・リール・アンサンブルが不在だったので、彼らのもたらす浮遊感がないところにホーンが加わることにより、これまでよりファンキーな音作りになっていた気がする。ドラマーの人もなかなかパワフルだった。
 話がやや飛んでしまった。オープニングに話を戻すと、ホーンの導入部のあと、ステージ中央に配された高さ三メートル以上の山型のお立ち台(?)のてっぺんに置いてあった巨大な蒸籠{せいろ}のふたが開いて、その中からACAねが登場~。爆笑を誘って一曲目の『こんなこと騒動』が始まった。
 オープニング・ナンバーが『こんなこと騒動』だったのは、歌詞に「中華街」というツアーコンセプトにつながるキーワードが出てくるからなんだろうけれど、この曲がなんと今回は『低血ボルト』と『勘冴えて悔しいわ』とメドレーになっていた。一発目からメドレーかいっ。なぜにそんなにメドレーが好きなんだ。正直どの曲もフルコーラス聴かせてもらえがほうが嬉しいんですけど。頼むよ~。
 まぁ、ライブのハイライトを飾ってもおかしくないそれらの楽曲をオープニングにメドレーで演奏してしまうところがすごいっちゃぁすごい。そのあとの『お勉強しといてよ』や『MILABO』もそう。序盤から選曲が惜しみなさすぎる。
 ステージ中央にはまんまるな満月のようなものがあって、これがなにかと思ったら、大きな太極図(陰陽勾玉巴?)だった。なるほど、ここも中華風。でもこの太極図はカラフルに光ることもあって、見た目の印象はやはり満月のようだった。
 そんな真んまるお月様のような太極図の前にスレンダーなACAねのシルエットが浮かび上がる(脚ほっそ)。いやぁ、このビジュアルが映えること映えること。この日のACAねは腰までとどくツインテールのウィッグをつけていたので、その姿はまるで初音ミクのよう。美少女アニメ好きなオタク青年たち垂涎。僕らの席は一階のステージ真正面だったので、そんなACAねの姿がどーんと視野に飛び込んできて最高だった。――まぁ、とはいえ全編シルエットだけで、どんな色の服を着ているかもわかりませんでしたが(あとでツイッターで胴回りに派手な刺繍が施してあるのを知ってびっくりした)。

【SET LIST】
  1. こんなこと騒動 ~ 低血ボルト ~ 勘冴えて悔しいわ [メドレー]
  2. お勉強しといてよ
  3. 居眠り遠征隊
  4. MILABO
  5. 機械油
  6. 雲丹と栗
  7. 猫リセット
  8. 眩しいDNAだけ
  9. ばかじゃないのに
  10. 正しくなれない
  11. マリンブルーの庭園
  12. マイノリティ脈絡
  13. 正義
  14. あいつら全員同窓会
    [Encore]
  15. 秒針を噛む
  16. サターン
  17. 脳裏上のクラッカー

 この日の演出面でもっとも印象的だったのは、『ばかじゃないのに』が始まる前に観客を座らせて、その曲を照明を落とした真っ暗なステージで、ピアノだけのアレンジでワンコーラス聴かせたところ。この時はステージ前方に飾ってあった蔓草の装飾が下がってきて、ステージがまるでシネスコ・サイズの映画のスクリーンみたいになったのも格好よかった。
 そのひとつ前の『雲丹と栗』ではACAねが蒸籠のところでマリンバ(それともヴィブラフォン?)を弾いていたと思うのだけれど、なにぜステージが全体的に暗いのでよくわからず。前の週にエレカシを観たときには「こんな暗いステージで演奏するのエレカシくらいだろう」と思ったけれど、もしかしたらトータルではずとまよのほうが暗かったかもしれない。まぁ、なんたって「ずっと真夜中でいいのに」ですからね。暗いのも当然。
 本編ラストの『あいつら全員同窓会』では、サビの最後でACAねが身体をくねくねっとさせてから飛び上がって、観客全員をジャンプするよう促していたのがおもしろかった(ACAねは「観客をジャンプさせる」を覚えた)。この先はこの曲がライヴのクライマックスのひとつとして定番になるんだろうなと思った。
 そのほか、『眩しいDNAだけ』ではアパートの窓から空気砲が打たれ、『マリンブルーの庭園』ではACAねが扇風機でソロを奏で、アンコールの『サターン』では演奏やめてのディスコ・パートがあって、『脳裏上のクラッカー』ではメンバー各自のソロのパートがあってと。そういうのはだいたいいつもの定番って感じ――って、まだ三回しか観たことないのになにがいつもだって話だ。
 そういやアンコールで出てきたACAねはツアーグッズのうにぐりブランケットをまとっていた(よく見えなかったけど形でわかった)。本編よりもアンコールで厚着になる人も珍しいから、暑くないのかなって思ったら、やはり暑かったらしく。一曲目の『秒針を噛む』が終わったあとで「ぽかぽかです」っていってた。綾波レイかいっ。
 つづく『サターン』で蒸籠の山の頂上で演奏するACAねの姿は、まるで紅白歌合戦の小林幸子のようだった。ラストの『脳裏上のクラッカー』のソロ・パートで、ACAねが扇風機でもって、その曲のフレーズを弾いていたのもなにげに感動した。扇風機、ちゃんと楽器じゃーん。
 そうそう、『脳裏上』ではソロ・パート明けのブレイクを挟んだあとのACAねのハイトーンがすごかった。歌が上手いとは思っていたけれど、そこまで出るのかよってびっくりするくらいの大声量。
 作詞・作曲で唯一無二って個性を発揮していながら、ボーカリストとしても並々ならぬ才能を持っている。――おいおい、どこまで最強なんだ。
 ライブでの演出もステージのみならず会場のすみずみまで――それこそ物販のレイアウトまで含めて遊び心満載だし。
 いま現在の日本において――いや、世界中を探したって、ずとまよよりもおもしろいバンドはなかなかなかろうと思います。
 さて、次は四月にさいたまスーパーアリーナ2デイズだっ。
(Jan. 23, 2022)

宮本浩次

TOUR 2021~2022 日本全国縦横無尽/2022年2月14日(月)/東京国際フォーラム・ホールA

 宮本浩次がソロ・ツアーで全国四十七都道府県をまわると発表したときには少なからず驚いた。まさかそこまで本腰を入れてソロ活動に専念するとは思っていなかった。
 しかもバンドは小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、キタダマキというメンバーで固定だという。エレカシの三十周年ツアーで四十七都道府県をまわったときには、少なくてもキーボードは途中で替わっていたので、今回は全公演同一メンバーというのがある意味いちばんのサプライズだった。
 だってみなさん売れっ子ミュージシャンでしょう? 当然ほかの仕事だってあるだろうに(蹴鞠ちゃんこと玉田豊夢はレキシのレコーディングとか)。
 ましてやバンマスは小林武史だよ? 御年{おんとし}六十二歳だよ?
 よもや宮本がそんな偉大な先輩とともに日本全国津々浦々を駆け巡る日がこようとは夢にも思わなかった。まぁ、それだけ宮本が高い評価を受けているということなんだろうけど。いやはや、愛されてんねぇ。幸せそうでなにより。
 ということで、去年の10月下から始まった『日本全国縦横無尽』ツアーの東京公演二日目を東京国際フォーラムで観た。皮切りの埼玉・川口から数えて、この日が通算22回目とのこと(多分)。時はバレンタイン・デー当日(あまり関係ない)。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 光の世界
  2. 夜明けのうた
  3. stranger
  4. 異邦人
  5. きみに会いたい -Dance with you-
  6. 化粧
  7. 春なのに
  8. shining
  9. 獣ゆく細道
  10. ロマンス
  11. 冬の花
  12. 悲しみの果て
  13. sha・la・la・la
  14. 浮世小路のblues
    [第二部]
  15. passion
  16. ガストロンジャー
  17. 風に吹かれて
  18. 今宵の月のように
  19. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
  20. この道の先で
  21. 十六夜の月
  22. rain -愛だけを信じて-
  23. P.S. I love you
    [Encore]
  24. 木綿のハンカチーフ
  25. 東京協奏曲
  26. ハレルヤ

 宮本といえば、前月に観たエレカシ新春ライヴでのパフォーマンスの記憶が新しいので、今回はエレカシとソロだとどう違うのかというのにも注目していた。
 去年観た宮本バースデイ・ライヴはエレカシとはずいぶん印象が違っていたし、今回は比較対象が直近なこともあり、なおさらその違いを鮮明に感じるのではないかと思った。
 ところがね。これが意外や意外、今回はそこまで極端な差は感じなかった。
 いや、もちろんバンドの力量の差は歴然だし、ほぼ全編にわたって映像演出が施されているために、コンサートとしての印象はまったく違うんだけれど。
 こと宮本浩次という人・個人のたちふるまいという点においては、去年のときよりもずいぶんとエレカシに近い感じになっていた。
 やはりツアーでここまで二十公演以上を一緒に過ごしてきた影響が大きいんだろう。去年よりバンドに対する気兼ねや遠慮がなくなって、より自然体になった感じ。
 三曲目の『stranger』での真っ赤なライトの使い方とか、ハードな曲調もあいまって否応なくエレカシを思い出させたし、その次の『異邦人』のアウトロで「イホウジン!!」と絶叫するあたりのアドリブとか、これぞ宮本って感じだった。
 『君に会いたい』で「踊れ、おどれ、オ、ド、レ!」と観客を煽る姿は『奴隷天国』を彷彿とさせた。あれはたぶん観客に向かって「なに踊ってんだよ?」とすごんだという若かりし日の自分を意識してんだよね? いわばセルフ・パロディ?
 先月の武道館での宮本はぶっきらぼうすぎて、新しいファンの人には嫌がる人もいそうだったけれど、この日はそんなふうに適度に乱暴なところがありつつも、ちゃんとファンサービスに徹していて、楽しみながらも自由にふるまっている感じが伝わってきて好印象だった。
 ライブ本編は去年の単独公演をベースに若干アレンジを加えたもの。
 オープニングこそ『光の世界』だったけれど、二曲目の『夜明けのうた』は真っ暗なステージで宮本がランタンを灯して夜明けをイメージさせる演出がそのままだったし、『きみに会いたい』での映像をまじえた小林さんとのかけあいとか、『shaning』でのザ・フーのロゴに宮本のシルエットをあしらったような――カッコつけてんだか笑わせようとしているんだかわからない――映像演出とか、『獣ゆく細道』での宮本のお色直しとか。そういうディテールはそのままだった。
 今回はアルバム『縦横無尽』のお披露目ツアーだから、僕は勝手にぜんぜん違う内容になるものと思いこんでいたので、その点はやや拍子抜け。
 でも考えてみれば、去年のライヴも『縦横無尽』と銘打っていたんでしたっけね。今回はあれの全国拡大版だったわけだ。うちの奥さんは最初からそのつもりいたらしいので、そうだと思っていなかった僕がばかだった。
 でも今回のライヴでもっともエレカシとの違いを感じたのはこの部分だった。前回と同じような内容にものたりなさをおぼえた点。
 エレカシだと同じライヴをつづけて観てからといって、つまらないと思った記憶がほとんどない(少なくても初期のころはともかく最近は)。何度も書いている気がするけれど、演奏力の不安定さゆえに、同じセットリストで演奏しても、毎回まったく同じにはならないから。いつ観てもどこかに破綻があるので、なんとなくはらはらした気分でいられる。それゆえに飽きがこない。いつでも新鮮。鮮度ばつぐん。
 それに対して今度のバンドは演奏力が高くて安定感たっぷりなので、毎回おなじ精度の音楽を聴かせてくれる。演奏自体は素晴らしいんだけれど、わるい言い方をすれば代り映えがしない。楽曲も宮本のソロ曲は歌謡曲よりの曲が多いし、『ROMANCE』からの流れで今回も昭和歌謡のカバーが何曲か含まれている。
 そんなセットリストを前回と同じ演出で見せられるとですね、あぁ、これは去年観たなって気分になって、残念ながら初めてのときほどには楽しめない。
 エレカシ宮本のステージを観てそんな風に思ったことってこれまでほとんどなかったので――単に忘れているだけかもしれないけれど――そんな自分の感じ方の違いにエレカシとの違いをそこはかとなく感じた。
 あと、オープニングの『光の世界』で宮本だけがスポットライトを浴びて、あとの人は暗い中で演奏しているところとか。そういうのがその後もけっこうあった。弾き語りならばともかく、バンド演奏のときに宮本だけがクローズアップされることってエレカシではあまりない印象なので――それこそ小林さんさえバッグバンドの一員という扱いであることに――あぁ、これは本当に宮本のソロ・コンサートなんだなぁと思った。
 今回の僕らは席は一階席のうしろのほうで、ステージこそ近くなかったけれど、真正面だったので、スクリーンをつかった映像演出が隅々までつぶさに見えたのがとてもよかった。なかでも去年の白スーツから装いを改め、この日は黒スーツに赤シャツといういでたちで再登場した『獣ゆく細道』から『ロマンス』、『冬の花』への流れが絶品でした。宮本流・歌謡ショーの真骨頂って感じ。
 とくにジャケットを脱いで真っ赤なシャツをはだけさせ、赤いライトをあびて花びら舞い散る下で歌った『冬の花』のパフォーマンスは最高に映えた。あまり好きな曲ではないんだけれど、この日に限ってはこの曲での宮本がもっとも格好よかった。
 前回は本編のとりを飾った『sha・la・la・la』を今回は第一部のクライマックス――ラストの『浮世小路のblues』のひとつまえ――に持ってきたのにもグッときた。第一部でいちばん気分が盛り上がったのはこの曲と『獣ゆく細道』。
 とはいえ、無駄に豪華な演出が笑えた『解き放て、我らが新時代』や、圧巻だった『Do you remeber』が今回はカットされているので、そのぶん去年より若干グレードダウンした感が否めなかった。――正直なところ、こと第一部に関しては。
 印象が激変したのは第二部の後半だ。
 『ガストロンジャー』などのエレカシ・ナンバーをつづけて聴かせたあたりは第一部のつづきって感じだったのだけれど、後半に入って『この道の先で』『十六夜の月』『rain -愛だけを信じて-』をつづけて演奏し、最後にシングルの『P.S. I love you』で締めてみせたエンディング、これがすごかった。
 新譜のタイトル『縦横無尽』を名乗っているわりには、なまじそこまで新譜の曲が散発的で印象が薄かっただけに、最後の最後へきて、そのアルバムの中でももっとも明るくてポップな曲ばかりを選りすぐって並べてみせたのが強烈なインパクトを残した。
 こんなポジティブで多幸感あふれる空間ってエレカシではこれまでになかった気がする。『桜の花、舞い上がる道を』などで単発的にぱーっと場内が明るくなるようなことはあれ、ここまでまとめて晴れやかな曲ばかりが鳴らされ、会場に明るい光が充ち溢れるような感覚はついぞ未経験だった。素直にすげーって思いました。
 そのあとのアンコールが『木綿のハンカチーフ』と『東京協奏曲』と『ハレルヤ』ってのがまたいい。
 『木綿のハンカチーフ』は宮本の歌姫カバーを代表する一曲であるにもかかわらず、去年はなぜだか演奏されなかったこの曲を、この日は小林武史のピアノ(+打ち込みのストリングス)だけという構成で入って、後半からドラムだけが加わるシングルのカップリング・バージョンで聴かせてくれた。つづくミスチル桜井とのデュエット・ナンバー『東京協奏曲』を宮本のソロ・ボーカルで聴かせたのと並んで、レア・アイテム感はんぱなし。でもって最後は宮本ソロワークスの白眉というべき『ハレルヤ』で締めとくる。このアンコールの締めくくり方がじつに素晴らしかった。
 第二部の後半からアンコールまでの曲って、宮本ソロ楽曲の中でももっとも明るくてキャッチーな曲ばかりなので、絶対にこれらの曲を聴きたいと思っていた人がたくさんいたと思うわけですよ。それをさんざんじらしたあげくに、最後の最後にまとめて披露してみせたのが心憎い。かゆいところに手が届くというか。宮本らしからぬサービス精神を感じさせる小意気な演出だった。
 ということで、終わりよければすべてよし。序盤のものたりなさはどこへやら。最後に大きな満足感を与えてくれたとてもいいコンサートだったと思う。
 最後に蛇足で(まさに蛇足で)去年のステージでも思ったことをひとつ。
 今回のバンドは前述のメンバー四人に宮本を加えた五人編成なのだけれど、ステージの上には彼らに加えてもう一人、右隅にぽつんと離れてPCを操作している人がいた。
 例えば『木綿のハンカチーフ』なんかでは小林武史をサポートしてその人がストリングスのパートを鳴らしていたのだと思うのだけれど、スタッフという扱いなのか、メンバー紹介はなし。でも紹介はされないけれど、ずっとステージにはいるという。
 ちょっと気になったので、その右隅の人は誰?――と聞いてみたら、吉田戦車のギャグみたいに「右隅の人などいない」とかいって怒られたりして。
 そんなことを思って、ひとりくすっと笑っていました。
 以上。おしまい。つまらなくてごめん。
(Feb. 23, 2022)

ずっと真夜中でいいのに。

Z FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」[day1 "memory_limit = -1"]/2022年4月16日(土)/さいたまスーパーアリーナ

 これまでに一度でもずとまよのライヴを観たことがあれば、さいたまスーパーアリーナのような大規模な会場でのライブが凄まじい内容になるのは想像に難くない(まさかお土産にハナマルキのずとまよ特製カップ味噌汁をもらうとは思わなかったけれど)。しかも、ただでさえすごいことになる予感たっぷりなのに、2デイズで内容を変えると予告されたら、そりゃ二日とも観ないわけにはいきますまい――。
 ということで、いってまいりました。ずとまよ史上最大規模の二万人のオーディエンスを集めて行われたSSA公演の一日目。
 今回のステージ・セットは「ZUTOMAYO FACTORY」と称しているだけあって、工場を模した大がかりなものだった。全体的に灰色のコンクリート打ちっぱなしなイメージで、注意を喚起する黄色と黒のストライプに「安全第一」とか「灰版電気工業(株)」とかの看板が配されている。上の方の煙突からは煙が出たり、ところどころ火の手があがったりしている。開演前はセットがグリーンのライトに照らされて浮き上がっていた。
 定刻を五分ほど過ぎて昭明が落ちて、最初に登場したのはACAね――ではなく、Open Reel Emsambleの三人。
 始まった最初のパフォーマンスはいきなり彼らによるオープンリール(と謎楽器?)による長尺のソロだった。その後も『機械油』のときにはツイン・ドラム+TVドラムのリズム隊三人によるソロから小山氏の津軽三味線のソロへとつづいてゆく演出があったし、今回のコンサートはずとまよの集大成ということで、バンド・メンバーに華を持たせるような演出が随所に見られた。――まぁ、そのおかげでいつもに増してマニアックな印象が強くなっていた感がなきにしもあらずだけれど。
 オープン・リールのパフォーマンスが一段落したあと、右手上方に配置されたベルトコンベアから中央の煙突のついた設備になにか部品のようなものが運ばれていったと思ったら、その設備の壁をぶち破ってようやくACAねが登場~。
 うちの奥さんいわく「部品が集まってACAねちゃんが完成した」という演出ではないかと。なるほど。あと、壁を壊して主人公が飛び出してくる演出を見て、四半世紀前のマイケル・ジャクソンの東京ドーム公演を思い出したそうです。まぁ、近いものがなくもない……のかな?
 ということで、ステージ中央の巨大セット最上段に開いた穴から出てきたACAねは、その前にあったすべり台で中段くらいまで降りてきて、ようやく一曲目が始まる。
 選曲は『眩しいDNAだけ』。あぁ、そうだよね。「工場の煙で止まりますのボタン」だもんね。一曲目は当然この曲だよなぁって思った。
 今回もそのあとに『ヒューマノイド』と『勘冴えて悔しいわ』のメドレーを挟み――いつかは『勘冴えて』をフルコーラスで聴きたいです、ACAねさん――この日は四曲目で早くも『マイノリティ脈絡』が登場する。
 これまではライヴのクライマックスを飾っていたこの曲を序盤にぶっ込んでくるとは気合入ってんなぁと思ったら、本人も張り切りすぎだと思ったのか、終わったあとで「最初から飛ばし過ぎました」みたいなこといってました。なんかもうなにをしても可愛い。
 そのあと三年ぶりに『ハゼ馳せる果てまで』が聴けたのが個人的には嬉しかったし、新曲『違う曲にしようよ』から、三味線をフィーチャーしたずとまよライヴの影のMVP的存在『機械油』、オープン・リールとしゃもじ大活躍のサイケ音頭『彷徨い酔い温度』とつづく中盤も鉄板の出来。
 ACAねさんの愛猫「真・しょうがストリングス」――「シン」は「新しい」ではなく「マコト」のほうだそうです――の自撮りビデオを紹介してからの新曲『夜中のキスミ』、必殺ダンス・チューン『MILABO』、あいかわらずボーカル・パフォーマンスが強烈な『脳裏上のクラッカー』で前半戦が終了。

【SET LIST】
  1. 眩しいDNAだけ
  2. ヒューマノイド ~ 勘冴えて悔しいわ [Medley]
  3. マイノリティ脈絡
  4. ハゼ馳せる果てるまで
  5. 違う曲にしようよ
  6. 機械油
  7. 彷徨い酔い温度
  8. 夜中のキスミ
  9. MILABO
  10. 脳裏上のクラッカー
  11. Dear. Mr「F」
  12. 正しくなれない
  13. お勉強しといてよ
  14. ミラーチューン
  15. あいつら全員同窓会
  16. 秒針を噛む
    [Encore]
  17. Ham (Acoustic Ver.)
  18. サターン
  19. 正義

 そのあとで観客を座らせ、ACAねがステージ左手の電話ボックスに閉じこもって、公衆電話(緑色のダイヤル式のやつ)の受話器をマイクがわりにして歌ってみせた『Dear. Mr「F」』――意外やこれがこの日の白眉だった。
 周囲とうまくやりたいと思いながらも輪のなかに交じれなかったという切ない思春期の思い出を語ったあとのこの曲はむちゃくちゃ染みた。スタジオ版では村山☆潤のピアノだけだったけれど、この日はストリングスやドラムを加えた情感何割増しのアレンジで、ステージ左右のモニターは電話ボックスのガラス越しに歌うACAねの姿をクローズアップする。僕は年齢的に「エモい」って言葉が恥ずかしくて使えない世代だけれど、もしも若かったら間違いなく「エモい」を連発してるだろうなって思ってしまうような極上のパフォーマンスだった。
 この日の僕らの席はアリーナの前から四列目の右隅で、目の前に右側のモニターがあったので、ACAねのアップ――ガラスが汚れていて顔が映らないようにしてある演出も気が効いている――が目の前に大写しで広がる分、情感の溢れっぷりがすごかった。いやぁ、まいりました。
 そのあとに『正しくなれない』――前の曲で座ったまま誰も立たなくて、いまいち居心地が悪かった――を挟んて、そのあとに『お勉強しといてよ』、最新曲『ミラーチューン』、『あいつら全員同窓会』という究極のダンス・チューン三連発がきて、本編のラストは『秒針を噛む』で締めという内容。
 『ミラーチューン』はライブで映えること間違いなしと思っていたけれど、予想にたがわず本当に最高だった。サキソフォンの間奏も当然ちゃんとあって、この曲のためだけに何度でもずとまよのライヴを観たいと思わせるレベルの史上最強のダンス・チューン。最新曲でそう思わせるあたりがほんとにすごい。
 アンコールの一曲目はアコースティック・アレンジの『Ham』。この曲を聴かせてもらうのは個人的には初めてだった。
 そのあと、コンサートのとりを飾ったのは定番中の定番、『サターン』と『正義』。『サターン』ではこの日は最後がカラオケではなく、最後までちゃんと演奏していた。オーラスの『正義』――ピアニカのイントロ部分が回を増すごとにどんどん長くなる気がする――ではモニターにメンバー名を英語表示してのメンバー紹介のソロ・パートがあった。
 この日のバンドは、ずとまよの集大成にふさわしく、過去一の大所帯。僕が名前を認識しているのは、バンマスの村☆ジュン、ギターの佐々木コジロー貴之くん――いまさら彼がエレカシの『Easy Go』や2020年の野音に参加していたことを知って密かにショックを受けています(なぜ気づかない俺)――三味線の小山豊さん――彼だけ「さん」づけになってしまうのはおそらく三味線という楽器の持つ日本の伝統のせい――だけだけれど、そのほかベースがひとり、ドラムはなんとツイン、ホーンがトランペット、トロンボーン、サキソフォンの三人、弦は真鍋裕という人が率いるカルテット、そしてオープン・リールの三名。そこにACAねを加えた計十七名でのステージだった。
 最後の曲が終わったあと、ACAねは工場セットの階段をいちばん上まで昇っていって、オープニングの時とは逆方向に進むベルトコンベアに乗って、「またね」と会場に手を振りながら姿を消していった。なんともコミカルで可愛い演出だった。
 でも、どれだけ遊び心あふれる演出を施そうと、最後の曲が『正義』だというのが、ACAねが根の部分はとてもまじめな女の子だってことを証明していると思う。
 若い女の子が『正義』というタイトルの曲を作ること自体が珍しいのに、それを毎回コンサートのクライマックスで大事に演奏しつづけている。――そんなアーティスト、ほかにいますか?
 ロシアが現在進行形で戦争をしているいまだからこそ、そんなACAねのパフォーマンスには一本しっかりと芯の通ったくじけない意思を感じた。この二日間のライヴを観て、僕にとっても『正義』という歌がとても大切な曲になった。
 いやぁ、しかしほんとこの日のコンサートはセットの豪華さも、セットリストもほぼ満点の出来だった。不満は『勘冴えて』がフルコーラス聴けたなかったことくらい。明日は違うことをやるというけれど、これ以上どこをどう変えられるっていうのさ?って思わずにいられなかった。
 ――ところがそんな疑問に、二日目のACAねは見事に答えてみせる。(つづく)
(Apr. 23, 2022)

ずっと真夜中でいいのに。

Z FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」[day2 "ob_start"]/2022年4月17日(日)/さいたまスーパーアリーナ

 一晩たったら昨日の工場は廃墟と化していました――。
 百年が過ぎて、とうの昔に廃業したずとまよファクトリーは、蔦生い茂り、雑草がはびこる緑の遺跡と化していた。――そんな驚愕のシチュエーションに模様替えしたずとまよSSA公演の二日目。
 なにせ昨日と違ってすでに工場が稼働していないので、ベルトコンベアは動かない。ボタンも押せない。
 ――ということでこの日は一曲目も前日とは違う。オープン・リールの人たちのパフォーマンスもなし。オープニングを飾ったのは、アコースティック・バージョンの『ばかじゃないのに』だった。グランドピアノでのソロのあと、ACAねが電話ボックスのなかでひっそりと歌い始めた(いつの間にそんなところに)。
 このオープニングでピアノ・ソロを弾いていたのは村☆ジュンではなく、駅ピアノでずとまよを弾いて評判になったけいちゃんというユーチューバー。そういう人をさらっとゲストに呼んでステージにあげてしまう機動力がすごい。
 この日の僕らの席は一階正面スタンドの前から二列目で、昨日と違ってステージは遠かったけれど、会場の全体を見渡せるので、また違った味わいがあった。
 今回のツアーの新商品であるしゃもじ専用ライトのおかげで、会場全体に緑のライトがまたたく風景はなんともきれいだったし、そこにレーザーライトが乱れ飛ぶ景色は鮮烈の極み。前日の席ではステージ以外がほとんど視野に入らなかったので、二日目は全体が見張らせる席――しかもステージほぼ正面――だったおかげで、遠近両方をまったく違う感じで楽しめたのはとても贅沢な体験だった。
 ただ、ステージ左右のモニターが大型ってほどには大きくなかったので、スタンドからだと細部がよく見えなかったのがたまにきず。おかげで冒頭のピアニストが村☆ジュンではないこともわからなかったし(アンコールのメンバー紹介で知った)、ACAねがいつから電話ボックスにいたのかもわからなかった。あれほど感動的だった『Dear. Mr「F」』も、この日は肝心の映像が遠すぎて前日のインパクトには及ばなかった。
 ――と、やや話が先走ってしまったけれど、そんなわけでこの日の公演は前日とは一曲目から違った。今回は「工場」というコンセプトだから『眩しいDNAだけ』がキー楽曲なのだろうだと思い込んでいたので(過去に観たずとまよライヴでは必ず演奏されていた)この曲がセットリストから外れたのには大いに意表をつかれた。
 オープニングの『ばかじゃないのに』でもうひとつびっくりしたのが、曲の後半でACAねが泣いてしまったこと。緊張感マックスなライヴのオープニングで、いつもと違うピアノ中心のしっとりとしたアレンジで歌ったことで感極まってしまったのか、はたまた愛する人の死を連想させる、ずとまよでももっともセンシティヴな曲だから、実体験的にこみ上げてくるものがあったのか。確かなことはわからないけれど、後半のサビのあたりで歌が途切れてしまった。
 両日とも――たぶんアンコールでのMCで――「5年前に路上ライヴをしていたころ、いずれたまアリでやれるくらいのアーティストになりたいと直感的に、そういう野望を抱きました」みたいなことを語っていたので、その夢が叶った目の前の風景に思わず感極まってしまったのかもしれない。

【SET LIST】
  1. ばかじゃないのに (Acoustic)
  2. 低血ボルト ~ 勘冴えて悔しいわ [Medley]
  3. マイノリティ脈絡
  4. JK BOMBER
  5. 違う曲にしようよ
  6. 機械油
  7. 彷徨い酔い温度
  8. 袖のキルト
  9. MILABO
  10. 脳裏上のクラッカー
  11. Dear. Mr「F」
  12. 暗く黒く
  13. お勉強しといてよ
  14. ミラーチューン
  15. あいつら全員同窓会
  16. 秒針を噛む
    [Encore]
  17. またね幻 (Acoustic)
  18. サターン (弾き語り)
  19. 正義

 つづく『低血ボルト』のパフォーマンスもその動揺を払いきれずに安定感を欠いていたけれど、そんなふうに不安定だったのは最初その二曲だけで、そのあとは調子を取り戻して、この日も素晴らしいステージを見せてくれました。
 セットリストで前日と違ったのは、最初の二曲と、あとは『ハゼ馳せる果てまで』が『JK BOMBER』に、『夜中のキスミ』が『袖のキルト』に、『正しくなれない』が『暗く黒く』に入れ替わっていたところ。アンコールの一曲目も『Ham』ではなく『またね幻』だった。
 しかしまぁ、よくも『袖のキルト』のようないい曲を一日目のセットリストから外すよなぁ。それでいったら『ばかじゃないのに』や『暗く黒く』もそうだけど。聴けなくてがっかりした人たくさんいたんじゃないでしょうか。
 さいわい僕個人はこの二日間のライヴを両方を観たおかげで、これまでに生で聴いたことのなかった『Ham』と『またね幻』を聴けたし、新譜『伸び仕草懲りて暇乞い』の全曲と新曲『ミラーチューン』も聴けたので、ずとまよのカタログ全曲をライヴで体験したことになった(ほんとに?)。まぁ、正確にいうと『低血ボルト』(この日も短かった――よね?)はいまだフル・コーラス聴いたことないですけどね。いずれ聴ける日がくるといいなと思う。大好きなので。まぁ、基本的にずとまよは大好きな曲ばっかなんだが。
 そのほかで前日と違った点は、ぼんぼんと炎があがるステージの演出が前日よりも大がかりだったこと、アンコールでACAねがベースボール・キャップをかぶっていたこと、『サターン』が弾き語りだったこと(アウトロからバンドが入った)、退場シーンではACAねが電話ボックスからすとんと奈落へと消えていったことなど。あれはきっと、どこでもドア的な電話ボックスで、ACAねが過去から未来にやってきたという設定だったんでしょう。おそらく。
 まぁ、いずれにせよとても楽しい二日間でした。
 終演後には秋からのツアー『テクノプア』の予告もあったし、「これからも面倒くさいことを追及していきたいです」みたいなことをいうACAねさんの創作意欲が衰えないかぎり、この深き深きずとまよ沼からはとうぶん抜け出せそうにない。
(Apr. 23, 2022)