2023年のコンサート
Index
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 国立代々木競技場 第一体育館 (Jan 15, 2023)
- 宮本浩次 @ 東京ガーデンシアター (Jan 16, 2023)
- BUMP OF CHICKEN @ 有明アリーナ (Feb 11, 2023)
- フィービー・ブリジャーズ @ Zepp DiverCity (TOKYO) (Feb 21, 2023)
- エレファントカシマシ @ 有明アリーナ (Mar 21, 2023)
- ボブ・ディラン @ 東京ガーデンシアター (Apr 16, 2023)
- ストリート・スライダーズ @ 豊洲PIT (Apr 28, 2023)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ Zepp DiverCity (TOKYO) (May 2, 2023)
- ストリート・スライダーズ @ 日本武道館 (May 3, 2023)
- 宮本浩次 @ ぴあアリーナMM (Jun 12, 2023)
- SUMMER SONIC 2023 @ ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ (Aug 19, 2023)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 相模女子大学グリーンホール (Sep 22, 2023)
- ストリート・スライダーズ @ LINE CUBE SHIBUYA (Sep 29, 2023)
- 宮本浩次 @ 東京国際フォーラム・ホールA (Nov 28, 2023)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 東京ガーデンシアター (Dec 19, 2023)
ずっと真夜中でいいのに。
ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~/2023年1月15日(日)/国立代々木競技場第一体育館
『テクノプア』のツアー終了後に年を越して開催された2デイズの特別公演『
いやしかし。今回のライブはセットがすごかった。ずとまよのアリーナ規模のライブはいつでもすごいけれど、ビジュアルのインパクトは過去最大だったと思う。
だって平屋建てのゲームセンターの屋上に超巨大な剣がぶっ刺さってんだよ? たぶん全長十メートル超え? で、そこに電飾であしらった雷がゴロゴロと落ちてくる。
まぁ、要するにライブの告知イラストそのまんまなんだけれど、誰がそんなものを実物化しようかって話だ。――ACAねとずとまよスタッフ以外のいったい誰が。
ゲームセンターの建物とか、電柱とか、曲名が表示されるモニターとか、基本的なセットは『テクノプア』ツアーを踏襲したものだったけれど、そこに巨大なつるぎが刺さって雷が絡みつくビジュアルのインパクトが絶大。これを見ずしてずとまよは語れまいという、ずとまよ史上に残る傑作ステージセットだったと思う。
で、今回すごいのはセットのみならず。バンドも。
これまでもツイン・ドラムはけっこうあったけれど――というかいまや定番?――この日はギターとキーボードもツイン(もちろん村☆ジュンとコジローくんもいる)。で、弦楽四重奏にホーンが三人、オープンリール・チームも当然のごとく吉田兄弟にTVドラムの和田永を加えたフルセット。さらには準レギュラーの津軽三味線の小山豊も仲間入り。
ドラム、ギター、キーボードが二人ずつなのに、ベースだけはひとりなのかと思っていたら、途中のサブステージでのアコースティック・セットでは、メイン・ステージにはいなかった川村竜がウッドベースを弾いていた。
川村氏は『果羅火羅武~』のときと同じように、今回も開演前にステージのどこかに出てきてアーケイドゲームのプレイ生配信をやっていたから、きょうはまさかゲームのためだけに呼ばれたのかと思っていたら、さすがにそんなことはなかったらしい(蛇足だけれど、ゲームのときは川村竜ではなく、ミートたけし名義らしい。「ビート」ではなく「ミート」)。それにしても余興とサブステージの数曲のために、どこぞで最優秀賞をもらったというベーシストを呼んできちゃうずとまよって……。
ま、なんにしろ、そんなわけでこの日のすとまよはメイン十九名+サブ一名の総勢二十名という大所帯だった。ただでさえ最強のずとまよナンバーがこの人数で演奏されるんだから、そんなの最高以外のなにものでもない。
そもそもオープニングが小山氏の三味線のソロから――つづいてドラムの人が鞄をぶらさげて現れ、鞄のなかに詰まった謎の打楽器(なのかな?)で即興演奏を聴かせる――ってあたりが、ずとまよの音楽性の高さを象徴していた。なんてマニアックな。
さらにはその演奏のあいだに派手な格好をした書道家の先生みたいな人が出てきて、書初めのパフォーマンスを披露する。遠すぎて何を書いたんだかわからなかったけれど、たぶん「叢雲うんたら」なんでしょう。いろいろおもしろすぎる。
セットリストは『テクノプア』の流れを踏襲しつつ、要所要所で変更されていた。
そもそもオープニング曲が違う。ツアーのオープニング曲『マイノリティ脈絡』――これまで僕が観たライブでは必ず演奏されていた――がこの日はカットされていて、かわりに一曲目を飾ったのは『サターン』だった。
建物の屋上にピンク色っぽい巨大なマカロンみたいなものが置いてあったから、あれはなんだろうと思っていたら、その中からACAねが出てくる。でもってギターの弾き語りで歌い出したのが『サターン』。
あ、あのピンクのやつはもしかして土星か――ってそこで初めて気づきました。
【SET LIST】
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『サターン』から『MILABO』『居眠り遠征隊』とつづいた冒頭の三曲はどれも短めだった――気がする。かといってメドレーというほどつなぎがスムーズではなかったので、なんかどれも短縮バージョンでさくっと終わった感じ。
ツアーとの違いはこのオープニングのメドレーコーナーと、四曲目ではやくも『お勉強しといてよ』がきたこと(惜しみなさ過ぎて残念なくらい)、中盤のしゃもじコーナーが『彷徨い酔い温度』ではなく『雲丹と栗』だったこと、ガチャのコーナーのかわりにサブステージでのアコースティックセットがあったこと。そして本編の締めが『残機』だったこと等々。
このうち個人的に最大の失敗をしたのがサブステージでのこと。
サブステージはメインステージの真正面、アリーナの反対側に設営されていて――アリーナのうしろのほうにいた僕はそのときまでその存在に気づかなかった――要するにメインステージに背を向けて観ることになったわけだけれど、驚いたことにこの時にアリーナ後方にいた観客が全員坐ってしまったんだった。
え? 坐るったって、椅子の背もたれのほうを見てんだぜ? ふつうに座ったら身体を百八十度ひねらなきゃ見れない。そんな不自然な姿勢をして座りますか、普通?
少なくても僕の選択肢には座るという選択肢はなかった。おそらくずとまよ以外のライブならば坐る観客のほうがレアだと思う――というか、ふつう座らないよね?
ずとまよのライブって観客の座る・立つのタイミングが僕の感覚とずれているのがなによりの難点で、いつもはまぁ仕方ないかとまわりにあわせて座っていたんだけれど、このときはそのあまりに不自然な状況での同調圧力の強さにイラっときて、つい座らずにそのまま二曲を聴いてしまった。そしたら三曲目が始まる前にうしろの男の子におずおずと背中をつつかれて「坐ってください」としぐさで促されたので、ここでごねるのも大人げないなぁって、素直に座りました。ごめんよ若者。
でもまじであれはないよ。不自然すぎる。僕は一曲だけで首が痛くなったし、僕の前のカップルはその体勢が我慢できなくなったらしく、僕が座ったあとで椅子を降りてフロアに正座していた。そんなのどう考えたって不自然でしょう?
ACAねがMCで「なにも強制はしないので好きなように自由に楽しんでください」みたいなことをいっているのに、この無個性な均一性はいったい……。
まぁ、そんなことがあったせいで、そのあとはうまく気持ちの切り替えができず、もやもやした気分を引きずってしまい、いまいちライブに集中できなくなってしまった。あぁ、若い子たちの同調圧力に流されて素直に座っておけばよかった……。
この日のライヴはカメラが入っていて、後日配信されることが発表されたので、あんなところでひとり立ってたら下手したらカメラに映っちゃうじゃん!――ってあとから気がついて、二重に後悔しました(目立つの嫌い)。
でもまぁ、立って観た『正しくなれない』と『Dear Mr「F」』の二曲は、ステージも近かったし、視野を遮るものがひとつもないこともあって絶景だった。空気を読まないせいで、いいもの見れてしまった。
そのほかでもうひとつ、ささやかながら残念だったのは『勘冴えて悔しいわ』がこの日も短縮バージョンだったこと。冒頭のメドレーではなく、中盤で披露されたから、おぉ、ひさしぶりのフルコーラス!――かと思ったら、この日もやはり二番がはしょられてました。あぁ、なんでさー。
まぁ、一番のあとブレイクを挟んでブリッジのメロディーに突入するアレンジ自体はとてもカッコいいと思うけれど。たまには本当にフルコーラス聴かせて欲しいです。そういや、キーボードがふたりいるからツイン・ピアノの『低血ボルト』が聴けるかと思ったのに、やってくれなかったのもこの日の残念ポイントのひとつ。
逆によかったのは、ACAねがステージに刺さっていた剣を抜きとって、稲光が落ちる中でそれを振り回しながら歌った『残機』、アンコールでの『胸の煙』からのまさかの『過眠』(冒頭のサビ省略バージョン)、ゲストのバーチャルYouTuber、Mori Calliopeをフィーチャーした(この日もっとも楽しみにしていた)『綺羅キラー』など。どれもレア感たっぷりの素晴らしいパフォーマンスだった。でも先程の「座ってください事件」のせいでいまいち集中しきれず。ちっくしょー。
そうそう、『正義』での恒例のシャウトが、この日はフジロックと同じ「ジャスティース!」だったのもこの日のトピック。単にタイトルを英語にして叫んでるだけなのに、なんであんなにコミカルで可愛いんだろう。
最後は『あいつら全員同窓会』で締め――と思わせておいて、再登場して『サターン』のアウトロのインスト・パートだけ聴かせた演出もよし。『サターン』で始まり、『サターン』で終わる。――これぞまさに大団円。とても気がきいていた。
あと、規制退場のときに振り返ったら、BGMだと思っていたジャズ・ナンバーが、サブステージの五人バンドによる生演奏だったのにもびっくり。本当に最後の最後まで楽しませてくれる。心底素晴らしいライブだった。
会場の外では、特製おにぎりを売っていたり、カードゲームで遊べるコーナーがあったり、うにぐりとの撮影会が開かれていたりと、単なる一アーティストのライブとは思えないような文化祭的アミューズメント空間が作り上げられていた。観客を少しでも楽しませようという姿勢の徹底ぶりがほんと素晴らしい。
ここまできたら、次はもうドームでもいけちゃうんじゃないだろうか。アリーナでこれほどな人たちがドームを舞台にしたらどんなすさまじいことになってしまうのか、いまいち想像がつかないけれど。
いまの個人的なささやかな願いは、ずとまよの観客にもっと普通の音楽ファンが増えて、僕のストレスにならないタイミングで立ってくれること――なんて、そういうつまらないことをつべこべ考えずに心から楽しめるよう、願わくばオールスタンディングの会場で観たい。もしも願いが叶うなら、いまいちばんの願いはそれかも。
(Jan. 23, 2023)
宮本浩次
ロマンスの夜/2023年1月16日(月)/東京ガーデンシアター
代々木でずとまよを観た翌日は有明での宮本のソロライブだった。
長いことコンサートに足を運んでいるけれど、フェスでもないのに二日つづけて違うアーティストのライブを観るのって、もしかして初めてじゃない?――と思って確認したら、さすがにそんなことはなかった。
初めて武道館でサザンを観た日から数えて、もうそろそろ四十年。それだけ長いこと音楽ファンをしていると、コンサートが二日つづくこともたまにはある。直近だと2019年のザ・フラテリスとポール・マッカートニーがそう――って、つい最近じゃん! 忘れてんじゃないよ、俺。
本当に記憶力があやしくていけません。
さて、いきなり話が脱線してしまったけれど、今回のお題はエレカシ宮本の単独ソロライブ。それも歌うのはカバー曲という。題して『ロマンスの夜』。
なんかもう、まじめにやってんだか、笑わせようとしているのか、よくわからない。
いや、そういうところでふざけたりはしそうにないから、多分まじめにやっているんだろうけれど、なにごとにもシニカルな往年のロックファンからすると、どうにも苦笑を禁じ得ない。実際にエレカシこそ至高ってファンの中には今回のライヴをあえて見送った人もいると聞く。
かくいう僕も宮本の歌う歌謡曲にはそれほど興味がないので、いまいち気乗りがしなかった――かというと、意外とそうでもない。いつもとは違う、ささやかなわくわく感があった。
なんたって今回に関してはカバー曲だけしかやらないってあらかじめ断ってあったこと――これがもうすべてだった。
三十年以上の長きに渡って愛聴してきたエレカシや最近のソロの曲と比べてしまうと、どうしたって歌謡曲は見劣り(聴き劣り?)がするので、それらをごちゃまぜにされると、どうせならオリジナルをたくさん聴かせてよって思わずにはいられないのだけれど、この日はカバー曲しかやらないってイベントだ。最初からエレカシとソロの曲は排除されている。
ならば、ないものねだりはやめて、歌手・宮本浩次のその歌声の魅力をおもいきり堪能しよう――そんな気になる。なんたって生で聴けるのはこれが最初で最後の曲だって、少なからずあるんだろうし。エピック時代からこの人の歌を聴きつづけている俺が、こんなレアなコンサート観なくてどうする。
最初からそういう切り替えができていたので、目の前で繰り広げられる宮本浩次オンステージの歌謡ショーを思う存分楽しむことができた。
まぁ、チケットが取れなかったら取れなかったで後悔はしなかったかもしれないけれど、終わったいまとなると、生で観られて幸運だったなって思う。席も一階の真ん中より前で、なかなかよい席だったし。わがチケット運いまだ衰えず。
いやぁしかし、ほんと思った以上におもしろかった。
なんたって主役はあの宮本ですもん。
腐っても鯛――とかいったら失礼だけれど、なにを歌ったって宮本は宮本。生で聴く彼の歌のすごさは人の曲を歌っても変わらない。
この日のライブは生配信されていたけれど、テレビで観るのと生で聴くのではきっと雲泥の差んだろうなって。もしもチケットが取れずに配信で観ていたら、僕はこの日のライブをこの半分も楽しめていないんだろうなと思った。
まぁ、好きでもない曲でどれだけ盛り上がれるかというと、そこはおのずから限界はあるけれど、それでも歌われるのは僕らの世代ならば誰もが知っているヒット曲ばかりだ(僕が知らなかった曲は平山みきの『愛の戯れ』だけ)。とうぜん曲自体はメロディアスでいい曲ばかり。それを宮本があの歌声で朗々と聴かせるんだから、そこにはいつものライヴとは違った気持ちよさがあった。
あと、今回うちの奥さんが「宮本くんが歌う歌詞に出てくる女の人が好きになれない」というのを聞いて初めて気がついたけれど、僕は興味のない曲の歌詞って、ぜんぜん頭に入ってこない人間らしい。
うちの奥さんは歌のなかの女性たちの行為――偶然をよそおって好きな人をまちぶせしたり、もらったボタンをすぐに捨てたり――にまったく共感できなくて、聴いていていまいち気持ちがよくないんだそうだけれど、僕はそういう歌詞が右の耳から左の耳へ抜けているみたいで、ぜんぜん気にも留めてなかった。へー、『まちぶせ』って本当にまちぶせする歌なんだって、いまさら思ったりするやつ。
長いこと意味のわからない英語の曲ばかり聴いてきたせいで、日本語の歌も興味がないとさらっと聴き流してしまうのが習慣になっているのかもしれない。
おかげで歌本来の魅力を十分に味わえてないのではという気もするけれど、まぁそこはそれ。もともと歌謡曲の持つウェットなドラマ性になじめないからこそロックを聴いてきたのであって、いまさら宮本が歌ったからというだけで、そういう歌謡曲の世界観に涙したりしたらそのほうが怖い。
僕みたいな有り難くないファンがいる一方で、そういう歌謡曲を歌う宮本を愛してやまない中高年の女性ファンもたくさんいて――というか、どうみても今回はそういう方々こそが大多数だったから、会場の東京ガーデンシアターはいつもとは違う特別な一夜を過ごせる喜びに満たされて、とてもうきうきと楽しそうな雰囲気だった。
この日のチケットは一万二千円と、エレカシ関係ではおそらく過去最高額だったので(巨大セットと総勢二十人越えバンドがすごかった前日ライブの1.5倍!)、もしかしてビッグバンドを配したゴージャスな歌謡ショーでも見せてくれるのかと期待していたのに、いざ始まってみれば、バンドは縦横無尽のときと同じ五人組だった。あとで聞けば、あらかじめ発表されていたらしい。あらら。
ベーシストだけはなぜかキタダマキではなく、須藤優という人に替わっていたから、演奏のニュアンスは若干変わっていた――気がしたけれど、それでも基本的なところは同じ。小林武史のウェルメイドなアレンジがステージでも見事に再現されていた。
【SET LIST】
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オープニングはゴトン、ゴトンという電車の走る音をバックに、車窓を流れる灯が映し出される『木綿のハンカチーフ』のモチーフを再現したらしき演出から。電車が到着するところを音だけで表現したあと、こつこつという靴音が鳴り響き、誰かがステージへと向かってくる。
その足音にあわせて宮本が颯爽と登場――するのかと思ったら、しなかった。
足音が途切れたあと、ひと呼吸おいてバンドのメンバーがぞろぞろと登場。なんかいまいち格好がつかないけれど、それもまた宮本らしい。
で、最後に宮本が出てきて一曲目は『ジョニィへの伝言』。
――って、『木綿のハンカチーフ』じゃないんかい!
ステージ左手には背の高いフランス窓のついた洋室の壁が配されていて、その窓を通して斜めに光が差し込むというのがライブ前半の演出のキーになっていた。
序盤でよかったのは、アルバムと同じように宮本の弾き語りで始まる宇多田ヒカルの『First Love』。全体的な音が安定感抜群なので、そのなかで宮本のあのぎこちないギターを聴くとなんかすごくほっとする。
でもって、そのへたうまなギターに途中から小林さんのキーボードなどが加わって、しっかりとまとまった演奏になってゆくところがとても新鮮だった。アンコールで演奏された同じパターンの『恋に落ちて』とともに、今回のお気に入り。そういやソロで椅子に座ってギターを弾く宮本を観たのはこれが初めてだ。
その曲までマイナー調やゆっくりした曲ばかりがつづいたので、そのあとの『SEPTEMBER』とその次の『白いパラソル』の弾けるようなポップな感じが、すごく解放感があってよかった。この日のライブから一曲だけフェイバリットを選ぶとしたら『SEPTEMBER』だなって思った。
いやでも、そのあとの『化粧』もよかった。この曲はいつもよい。個人的に宮本のカバー曲の中ではいちばん好き。
中島みゆきのオリジナルは七十年代のニューミュージックだから、いま聴いたらきっと音響面でものたりなく思うんだろうけれど(とはいっても最後に聴いたのはおそらく四十年以上昔だから確かなことはいえない)、宮本のバージョンはその当時を思わせる骨太な七十年代風ロック・バラードに仕上がっているところがすごく好き。
あと、この曲は宮本がニュートラルなキーで歌えているのも好印象の一因だと思う。女性の曲ばかりだから、曲によってはキーがあわずにファルセットを使って苦しそうに歌っている曲もあるので、自然な発声で歌ってくれたほうが単純に気持ちいい。
とはいえ、ファルセットもずいぶんと使いこなすの上手くなったなぁって、この日のステージでは思った。難聴での活動休止期間をへてファルセットを使うようになった宮本だけれど、正直いまいちこなれていない感じがして、これまであまりいい印象を持っていなかったんだけれど、今回はすごくきれいに声が出ていた気がした。五十を過ぎてちゃんと進歩しているってすげーなって思いました。
前半はそのあともう一曲つづけて中島みゆきのナンバー『あばよ』を歌って終了。そういや二曲目に演奏された『春なのに』も中島みゆきの曲なんすね。中島みゆきを三曲も歌っているというのが意外だった(まぁ、ユーミンは四曲だそうだけれど)。
そのあと赤いカーテン(緞帳?)が降りて――となれば予想にたがわず――次の『喝采』が演奏されるまでに、しばらくインターバルがあった。
お色直しにしちゃずいぶんと時間がかかったから、どんなすごい衣装で出てくるのかと思ったら、たいしてかわり映えしない衣装で拍子抜け。後半はフランス窓のセットが撤去されてステージ背後にライトのやぐらが組まれていたから、単にステージの模様替えに時間がかかっただけなのかもしれない。まぁ、それにしちゃ長かった。
後半で最初に「お~」思ったのはソロではなくエレカシでカバーしたユーミンの『陰りゆく部屋』が披露されたこと。ソロ・コンサートでエレカシでの持ち歌が演奏されるのは予想外だったから、驚いたファンも多いと思う。
その次のサプライズは『ロマンス』でそれまで座ったままだった人たちが、示し合わせたようにいきなり立ったこと(この日はここまで座りっぱなしだった)。いわばこの夜のコンサートのタイトル曲だから、ここは立ってしかるべきと思ったんでしょうか。「あなたお願いよ~、席を立たないで~」という歌詞にあわせて立ったといって、うちの奥さんにうけてました。
もうひとつ僕が驚いたのが次の『DESIRE』で、「ゲラッ、ゲラッ、ゲラッ、ゲラッ、バーニン・ラ~ヴ」というサビ始まりのフレーズが、アタック音の効いたバンドの演奏とあいまって、爆発的にカッコよかった。中森明菜の曲でこんなにロックを感じるとは思わなかった。これぞ宮本の真骨頂って感じでした。
本編はそのあとつづけて中森明菜の『飾りじゃないのよ涙は』をやって終了。この辺になるともうエンジンも温まりまくりで、宮本もノリノリだった。
この曲ですごかったのが女性ダンサーの存在。MVのイメージを踏襲した白シャツに黒スーツの女性ふたりが、宮本の左右できれっきれのダンスを披露していた。見知らぬ女性をはべらせてのパフォーマンスなんて、エレカシじゃ絶対に見られない。いやはや、貴重なものを見せていただきました。
そのあとのアンコールでのクライマックスはもちろん『恋人はサンタクロース』での歌詞忘れ事件のほかにない。
これまでソロではバックがしっかりしているから、演奏をミスってやり直すエレカシではおなじみの風景がなかったのに、この曲では冒頭の一フレーズを歌ったあとで宮本が歌詞を忘れたといって、演奏を止めるハプニング。でもって再開しようとするバンドを止めて、「ごめん、思い出せない」と。
そのあとで自然発生的にお客さんたちの歌声が巻き起こったのが、僕にとってのこの夜いちばんの名場面だった。コロナ禍ではあり得なかったアットホームな雰囲気が最高だった。でもって、その歌を聴いた宮本のリアクションが「みなさんバラバラです」というのも爆笑もんでした。
結局宮本は「歌詞見ちゃおうかな~」とかいって舞台袖にひっこんで、歌詞カードらしき紙の束を手に戻ってきた。でもって歌い始めてみたものの、結局ちゃんと歌えずにごにょごにょいって失敗するというていたらく(さすがに二度目のやり直しはなし)。そこまでのやりとりがおかしすぎて、肝心の歌自体の印象がまったく残ってません。あしからず。
ちなみに宮本は歌詞を忘れたけれど、僕はこの曲の存在自体を忘れていたので、この時点でやり残した曲は『木綿のハンカチーフ』だけだと思っていた。あ、この曲もあったんだって、ちょっと意表を突かれた。季節外れだからか、見事に忘れてました。そういう意味では、去年観れていたらもっと盛り上がったのかも(この日は宮本が体調を崩して延期になった去年の公演の振替だったので)。
ということで、『ロマンスの夜』のアンコールの最後を飾ったのは『木綿のハンカチーフ』。冒頭でみせた電車の演出が演奏の前にもう一度繰り返されて、あー、あれは最初と最後をこうやってつなげるための演出だったのかと納得がいった。
この曲でおもしろかったのが、前半は小林さんのキーボードと打ち込みだけの演奏で、後半から玉田豊夢のドラムだけが入ってくるアレンジ。ギターの名越さんとベースの須藤くんは演奏が始まる前に引っ込んでしまっていた。この曲ってこういうアレンジだったのかと目から鱗でした。
――というようなことをですね。前回の感想でも書いてました、俺。ほんと記憶力がねぇ……。
以上、アルバム『ROMANCE』と『秋の日に』の十八曲に加え、『縦横無尽』収録の『春なのに』(このアルバムに入っているのを忘れていた)、松本隆トリビュート盤に提供した『SEPTEMBER』、エレカシでカバーした『陰りゆく部屋』の三曲を加えた、全二十一曲。
これまでに宮本がレコーディングしてきた他人の曲をすべて網羅した、まさに宮本浩次カバー・コンサートの完全版と呼ぶにふさわしい『ロマンスの夜』でした。
――って、もちろんそこで終わるはずがない。
注目の二度目のアンコールで演奏されたのは、ソロ活動のデビュー曲『冬の花』。
宮本自身の楽曲の中でももっとも歌謡曲色の強いこの曲は、まさにこの日のとりを飾るのにふさわしかった。ワンコーラス歌うごとに間奏で拍手が巻き起こるのも、これぞまさに歌謡ショーって感じで僕は好きでした。
その曲で終わっても誰も文句はいわなかったと思うんだけれど、宮本はそのあとにとっておきのサプライズを用意していた。
ということで、この夜の大とりを飾ったのは、本ツアー初披露の沢田研二のカバー『カサブランカ・ダンディ』!!
あえて女性の歌ばかりを歌ってきた宮本が、この夜の最後を、僕らの少年時代の歌謡界ナンバーワン・ヒーローの曲で締めてみせたのが最高だった。
沢田研二の歌を歌う宮本は、女性たちの曲をカバーしているときとは打って変わって、これまでになくやんちゃそうに見えた。
ということで、以上をもってして『ロマンスの夜』は全編終了~。最後に「もう一曲聴きたいですか」みたいに観客を煽っておきながら、「練習してないんで、できません」と笑いを誘って宮本は去っていった。
そういや、縦横無尽ツアーのバンド・メンバー三人とはハグしたのに、ベースの須藤くんとは握手だけってあたりも宮本らしかった。
でもあそこは全員ハグがいいと思うよ。
(Jan. 29, 2023)
【追記】WOWOWで翌月に放送されたこの日のライブを観たら、僕の記憶と違うところがけっこうあった。最初は足音→ジョニィ→ガタンゴトン→春なのにという順番だったし(そうだったっけ?)、ライヴ終了後の退場の間際に、僕が気づかなかったところで、須藤くんともハグしてました。めでたし、めでたし。
BUMP OF CHICKEN
BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there/2023年2月11日(土)/有明アリーナ
三年半ぶりにBUMP OF CHICKENを観た。
『be there』と題された新しく始まったばかりのツアーの初日。
しかもこの日は彼らが自分たちのバンドの誕生日だという2月11日。
会場は個人的には初めての有明アリーナ。席はなんとアリーナの前から四列目で、花道左の柵のとなりだった。
つまり最高のシチュエーションでの最高の特等席――いまどきの言葉でいえば神席――のはずが――。
この日のライブでは、このいい席がまさかの
いや、ライヴが始まった時点では、こんないい席に失望する要素があるなんて、想像もできなかった。なんていい席なんだって、自分たちのチケット運にただ感心するばかりだった。
だって、最初に登場した升くんがいきなり俺たちの横の花道を通り過ぎるんだよ?
その距離わずか二、三メートルとかしか離れてない。
つづいて増川くん、チャマ――どっちが先だったかは忘れた――そして藤原くんと、メンバーが順番に僕らの至近距離を通り過ぎてゆく。
――そう、通り過ぎて。
花道の先にあるサブステージへ。
そして一曲目の『アカシア』が始まる。
BUMPのメンバー全員が僕らに背を向けた状態で。
ということで、いきなり僕らはステージを背にして――スピーカーから出る音を背中に受けて、モニターも見えない状態で――『アカシア』『グングニル』『天体観測』とつづいたオープニングの三曲を聴くことになった。
BUMP側からすると、広いアリーナのど真ん中に配置されたサブステージはオーディエンスとの距離的にいちばん平等な場所だから、そこからライヴをスタートさせるのがいいって考えだったんだろう。うん、このバンドらしいなって思う。
でも、おかげでそのサブステージよりも前にいた僕らは、最初の三曲を――そしてハーフタイムのアコースティックセットの『66号線』と『ベル』を――さらにはアンコールのとりを飾る『ガラスのブルース』までもを――藤原くんたちの背中を眺めながら聴くことになってしまった。
正直なところ、がっかりだよ……。
そう、前回BUMPを観た直後のU2の来日公演と同じ失望感があった。あの時も同じようにサブステージからスタートしたもんで、始まってから数曲のあいだボノたちがまったく見えなかったんだよなぁ……。今回はスピーカーに背を向けてしまっているせいで音的にもいまいちだったし。最初からこういう演出はちょっと勘弁してほしい。
まぁ、サブステージでの演奏が多かったってことは、そのぶん僕らの近くを通り過ぎる回数が多かったってことで、これがアイドルのファンとかだったら「きゃ~、藤くんがこんなに近くに~」とか、「チャマと増川くんが私のとなりを談笑しながら通り過ぎた~!」とか興奮して、それだけでプラマイゼロどころか、お釣りがくるってことになったのかもしれないけれど、なんたってこちとらあと四年で還暦って年ですからね。さすがにそうはいかない。
だって『グングニル』とか聴かせてもらうの初めてなんだよ? ちゃんとメンバーの顔を観ながら聴きたいじゃん! そりゃ、藤原くんが僕らの前で立ち止まって『新世界』のワンフレーズを歌ってくれたのには、さすがにぐっときたけどさ。それにしてもなぁ……。
まぁ、失望させられたのはサブステージでの六曲だけで(それって全体の四分の一以上なんだけれど)それ以外はさすがに満足度は高かった。
【SET LIST】
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三年ちょい前の東京ドームでは、そのド派手な演出に度肝を抜かれたものだから、今回も当然演出はものすごいものだと思っていたら、予想外に地味というか、すっかり恒例の光るアームバンド、PIXMOBこそ配布されたけれど、ステージの背景はライティングのやぐらだけで、大がかりな映像演出はほぼなかった。
演出はできるかぎり控えめにして、その分バンドとしての演奏にフォーカスしていたというか、BUMP OF CHICKENというバンドの素の姿を見てもらおうとしている感じだった。それゆえにステージが近かったこの日の席が恵まれていたのは間違いなし。
BUMPって四人きりでやることにこだわっていて、四人で出せない音はすべて同期モノに頼っているせいで、時として生演奏の印象が薄いことがあるんだけれど、この日のライブはこれまでに観たBUMPのライブのうちで、もっともロックバンドとしてヴィヴィッドだった。それもこれも至近距離で彼らが演奏する姿を観られたがゆえ。それは間違いなし。やはりメンバーがギターを弾く指の運びが確認できる距離だと、演奏のリアリティがはんぱない。
近いからこそ藤原くんの服装――ストーン・ローゼズのレモンの白Tを黒いスラックスにウエストインして、ローファーを履いていた――もわかったし、チャマがAKIRAの格好いいトレーナーを着ていたのもわかった。そういうところは神席ならでは。
――とはいっても、いちばん近くにいたチャマはすぐに左手の袖へ移動してこちらの視野から消えちゃうし、この日は藤原くんもギターをぶらさげたまま、ハンドマイクで歌いながらあちこちへ移動することが多かったので、メンバーがちりぢりになって、どこを見たらいいのか悩ましいってことが何度もあった。それは近すぎるゆえのデメリットだった。
アンコールの『ガラスのブルース』なんて、升くんひとりをステージに残して、あとの三人がサブステージに移動して、エンディングまでそのままだったし。いちばん近くにいてこっちを見ている升くんに背を向けて、サブステージのメンバーの背中を眺めている俺たちってちょっと間違ってない?――って思ってしまった。
そんな風にどうやって観るかを何度も悩まされた分、やっぱ今回は席のよさが仇になることのほうが多かった気がする。
なんか愚痴ばっかになってしまいました。いけません。もうこっから先はいいことしか書かない。
今回のライヴのポイントは、そんな風に僕を悩ませたサブステージ重視の演出に加え、コロナ禍のあと初の声出し解禁のライブだったこと。セットリストのはしばしに観客の参加を前提にしていることが感じられたし、本編のラストが定番の合唱パートのある『fire sign』だったのが(そして翌日は『supernova』だったのが)なによりそのことを象徴していた。
――というか、声出しOKだったからこそ、ひとりでも多くの観客の近くで一緒に歌いたいって思ったからこそのサブステージ重視だったんだろう。
セットリストでは『才悩人応援歌』とか『ホリデイ』とか、藤原くんならではのシニカルでユーモラスな(それゆえに絶対に代表曲とは呼べない)曲が聴けたのも嬉しかったけれど、この日のライブの個人的なクライマックスは、そんなサブステージでの最後の曲――本来ならばアンコールのラストナンバーだったはずの――『ガラスのブルース』を演奏したあとの一曲。
ほかのメンバーがステージを去ったあと、ひとり残ってMCをしていた藤原くんは、そのまま立ち去りかねて、ついにはエレクトリック・ギターを手に取り、弾き語りを始める。「冬が寒くて本当によかった……って、これはもう歌ったか」と笑いをとったあと、バンドのアニバーサリーだからこそのサプライズを届けてくれた。
その曲というのが『BUMP OF CHICKENのテーマ』。
エレクトリック・ギターをかき鳴らしながら「へなちょこバンドのライブにいこう~」と歌い始めた彼に、あとのメンバーもステージに戻ってきて仲間に加わり、途中からバンドの演奏になる。これがなんかもう最高だった。
この曲がBUMPのベストナンバーだと思う人はこの世にひとりもいないと思うけれど、僕らの席的には、その瞬間こそがこの夜のBUMPの真骨頂だった。一ロックバンドとしてのBUMP OF CHICKENをこれほど身近に感じたことはなかった気がする。
もうひとつ、ぐっときたのがその歌の直前のMC。
ツアー初日というシチュエーションゆえにこれからの意気込みを語った藤原くんは「ベタだけどさ」と断ったあと、しばし間をおいて叫んだ。
「いってきます!」
最高だなぁって思った。
(Feb. 24, 2023)
フィービー・ブリジャーズ
2023年2月21日(火)/REUNION TOUR/Zepp DiverCity (TOKYO)
すごくひさしぶりに洋楽アーティストの単独ライブを観た。いまやすっかりUSインディーズシーンきっての人気者って感のあるフィービー・ブリジャーズの二度目の来日公演。
フェス以外で洋楽のライブを観るのもひさしぶりだけれど、オールスタンディングもぼっちでの参加もほんとひさしぶり。調べたら以上の三拍子が揃うのは2019年3月のコートニー・バーネット以来だった。じつにほぼ四年ぶり。
海外アーティストの来日公演もぼつぼつ復活しているけれど、いまだ日本はCOVID-19の影響下にあって、観るんならばマスクしろとうるさいし――ビリー・アイリッシュのライヴでオーディエンスが大合唱する映像を見たり、イギリスでチャールズ国王が一般人と握手をしているニュース映像を見ると、なんで日本はこんなにマスク、マスクとうるさいんだろうと不思議でしかたない――そんなこんなに嫌気がさして、直近のシャーラタンズも、ピクシーズも、ペイヴメントもスルーしてきた僕が、今回このライヴだけは観とかなきゃと思ったのは、ひとえに彼女のライヴをこれまで一度も観たことがなかったから。
ここ数年の海外アーティストのうちでは個人的にもっとも再生回数が多いアーティストのひとりだし、となるとやはり一度くらいはライブを観ておきたいって気になる。2019年の初来日公演を悩んだあげくにスルーしてしまったのも少なからず後悔しているし、女性アーティストの場合、出産を機にシーンから姿を消してしまうこともあるので、やはり観られるうちに一度くらいは観ておかなきゃって思った。
ということでいってまいりました、フィービー・ブリジャーズの来日公演。新型コロナで延期になってしまったセカンド・アルバム『Punisher』のお披露目ツアー。なぜだか「再結成ツアー」と名付けられたワールドツアー――コロナで一度解散したバンドを再び呼び集めたという意味?――の、なんとこの日が最終日。会場は個人的にこれがまだ三度目のZepp DiverCity (TOKYO)。
【SET LIST】
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『Punisher』のジャケットでは骸骨のコスチュームを着たりして、ビジュアルの趣味がへんてこりんな人だけれど、この日のオープニングも振るっていた。
いきなり「PHOEBE BRIDGERS」という名前をヘビメタ風にデザインしたロゴがどーんと出たと思ったら、そのロゴをメラメラと炎が取り囲み、謎のメタル・ナンバーが流れ出す。setlist.fm の情報が正しいならば、ディスターブドというバンドの『Down with the Sickness』という曲らしい。
これはヘビメタのコンサートですか?――という失笑まじりの歓声をあびつつメンバーが登場~。ロゴが消えて星空が広がる背景とともに披露された一曲目は『Motion Sickness』(タイトルが「乗り物酔い」の意味だって最近知りました)。もちろんここから先はヘビメタ要素はゼロ。
導入部こそファースト・アルバムの曲だったけれど、二曲目からが今回のツアーの本編。
まずはアルバム『Punisher』のブックレットの表紙を本にみたてた映像が映し出され、その本が開くと、飛び出す絵本のように、それぞれの楽曲のイメージにあわせた映像が出してくるという趣向。
あぁ、そういやこういうの、去年のコーチェラかなにかのYouTube配信で観たっけねって。そこでようやく今回のツアーがそのフェスの頃からつづいてきたワールドツアーの一環だってことに気がついた。
ということで、飛び出す絵本の演出とともに『Garden Song』、『Kyoto』、『Punisher』と、セカンド・アルバムの曲が収録順に披露されてゆく。
これはもしやアルバムを全曲順番にやっておしまい?――と思ったら、そのあとに『Smoke Signal』が割り込んできて、単なるアルバム再現ライヴではないことがわかって、まずは一安心。
今回のライブはセカンド・アルバムのラスト・ナンバー『I Know the End』をやったら終わりというのが確実なので、曲順通りに全曲やるとなると、ライヴ本編はわずか一時間足らずってことになってしまう。さすがにそんなに早く終わられちゃあ困る。
――まぁ、とはいっても、実際にはファースト・アルバムの曲はわずか四曲しか披露されず、ライヴは一時間半くらいで終わってしまったのだけれど。まさかデビュー曲の『Killer』を聴かせてもらえないとは……。
おもしろかったのは、飛び出す絵本の演出はあくまでセカンドの収録曲限定で、ファーストの曲の演出は別の映像だったこと(『Smoke Signal』では海辺に狼煙があがる映像で、曲のテーマをそのまま再現してみせたり)。なので彼女の音楽の聴き込みが決して深くない僕のような人間でも、演出の違いでどちらのアルバムの収録曲かわかるという親切設計だった。
ステージには一段高いひな壇が用意されていたけれど、フィービーがそこに乗ったのはオープニングとエンディングくらいだったと思う。あまり自己顕示欲は強くないようで、バンドメンバーの一員的なふるまいに終始していた印象だった。
バンドはドラム、ベース、ギターの三点セットにキーボード、そしてトランペットという編成(たぶん)。トランペットの人はほかの楽器も演奏していたようだし、メンバーもしかしたらほかにもいたのかもしれないけれど、オールスタンディングで視野があまり広くなかったので、細かいところはよくわからなかった。
フィービー以外のバンドメンバーは全員、お馴染みの骸骨のコスチューム姿で、フィービーはどこぞでも着ていた、骨をイメージしたラメのジャケット姿だった――と思う。こちらも遠くてよくわからなかった。途中でジャケットを脱いで、ちょっぴりセクシーなあばら骨イメージのベスト姿になったときにはどよめきがあがってました。
音作りは思ったよりもラウドで厚めだった。フィービー・ブリジャーズの柔らかな歌声にはもっと繊細な音のほうがあうと思うのだけれど、まぁ、オーガニックな感触だったファーストと比べると『Punisher』というアルバムの音響は人工的なので、それをライヴで再現すると当然こうなるってことなんだろう。
おそらく前回の来日公演はもっとアコースティックだったんだろうし、聴きたいと思っていた『Killer』が演奏されなかったこともあり、やっぱ初来日公演を観なかったのは失敗だったなぁって、あらためて思ってしまった。
まぁ、そんな風にいくらか残念に思うところもあったけれど、でもライヴが悪かったという話ではないです。基本的にはとてもいいコンサートだった。ただ、アコースティックな音作りの曲ももっと聴きたいなぁって思ったという話。
そういう意味では、なぜだか一公演だけ限定でアコースティック・セットだった京都でのライヴはすごく貴重だった気がする(観た人がちょっと羨ましい)。でもセットリストは基本的に同じような感じだったし、じゃあ、どちらか片方だけ観るとしたらどっちと問われたら、僕は間違いなく普通のバンドセットを選んでしまうのだけれど。
バンドの音でもっとも印象的だったのは、トランペットの気持ちよさ。黒人音楽のファンキーなやつとは違う、バンドのアンサンブルに一要素として加わり、ほかでは出せない
バンドのメンバーといえば、この日はドラムの人の誕生日――の前日(二十二歳とかなんとか。まじか?)――だったそうで、終盤の『Graceland Too』の前には、彼のために観客と一緒に『ハッピーバースデー』を歌うというサプライズがあった。つづくその曲で彼はドラムではなくアコギを弾いていた。
あと、この日がツアーの最終日ということで、フィービーがバンドメンバーを含めたツアースタッフ全員の名前を読み上げて、感謝を伝えるというシーンもあった。
ラストナンバーの『I Know the End』では、恒例のクライマックスでの絶叫がものすごかった。フィービーのシャウトに観客も加わった大絶叫が圧巻。あんな強烈な音圧のシャウトは初めて聴いた。いやはや、びっくりでした。
その曲のアウトロでフィービーはステージを降りて、最前列のお客さんのところへサービスにいってしまって、結局最後まで戻ってこず。あの曲のドラマチックなエンディングを主役抜きで迎えるという、やや残念な結末に……。
ようやくステージに戻ったフィービーは、そのままアコギを手に取ると、三月末にリリースされるボーイジーニアスの新譜から、自身が手掛けた新曲『Emily I'm Sorry』を弾き語りで聴かせてくれた。
本来ならばその曲がアンコールのはずだったんだろうけれど、フィービーがステージに残ってそのままこの曲を演奏してしまったので、この日はアンコールなし。彼女がステージを去るとすぐに場内の照明がついて、BGMが流れ出した。
内容的にはとてもよかったけれど、ボリューム的にはやっぱもの足りないかなぁと。このところ二時間越えがあたりまえの邦楽のライヴばかり観てきたので、そこはやはり残念。もっとファーストの曲も聴きたかった。再来日希望。
(Mar. 05, 2023)
エレファントカシマシ
35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO/2023年3月21日(火)/有明アリーナ
デビュー記念日に行われたエレカシ三十五周年アリーナツアーの東京公演三日目。
先月のBUMPにつづいて二ヵ月連続での有明アリーナだったけれど、驚いたことに今回も席は花道すぐ横の柵沿い、先月の席を二十列分まうしろにスライドした位置だった。今回はちょうど花道突端のカドっこの横。なので、何度となく宮本がやってきては、僕らの目の前で仁王立ちになる。同じ会場で二回もこんなにいい席がつづくことなんてあり得る? 自分たちのチケット運のよさには我ながらびっくりだ。
さて、そんな特等席で観ることになったエレカシの三十五周年ライブ。
コンサートのオープニングはデビュー当時の映像のフラッシュバックから。雨の交差点で煙草を吹かすメンバー四人のふてぶてしい姿を捉えた『やさしさ』のミュージック・ビデオのワンシーンで始まり、若いころの映像を中心とした断片的なカットバックでエレカシの歴史を振り返ってみせる。
そして立ちこめるスモークの中、ギュイーン、ギュイーンと鳴るスライド・ギターの音とともに始まった一曲目は『Sky is blue』。バックスクリーンにはフード姿の誰かの映像。あれ誰だろう?――と思ったら、それが宮本だった。なんか白いフードつきのロングコートを着て、フードをかぶった状態でギターを弾いていた。意表をついた一曲目と、意外性のあるファッション。
最近の宮本のことだから、コートはきっと有名なブランドのお高いやつなんだろうけれど、遠めの印象では、どちらかというと研究者が着る白衣にフードがついたみたいな感じだった。いずれにせよ、エレカシのステージで宮本が白シャツ黒シャツ以外の服を着ているのを見たのって初めてじゃないかって気がする。とてもレアでした。
この日のバンドのメンバー(あらかじめ発表されていた)は、エレカシの四人に、蔦谷好位置、ヒラマミキオ。そして金原千恵子ストリングス四名様の計十名。金原さんたちの登場は第一部の『昔の侍』からだった――と思う(集中力不足)。
かつてはエレカシのサポートメンバーとして、もっとも深くバンドとかかわりあっていたにもかかわらず、このところ疎遠になっていた蔦谷くんとミッキーとの共演ってのがよい。しみじみと嬉しい。蔦谷くんへのリスペクトを込めて、『風に吹かれて』を蔦谷くんアレンジのピアノ・バージョンで演奏したのも感動的だった。
あと、今回のツアーのもうひとつのポイントが三部構成だったこと。
第一部が『奴隷天国』でもって一時間もしないで終わってしまったので、「みじかっ!」て驚いたら、つづく第二部も正味一時間足らずで終わってしまう。
「おいおい、まだ『桜の花』も『俺たちの明日』も『ガストロンジャー』も、それどころかツアー・タイトルになっている新曲の『yes. I. do』もやってないじゃん!」と思ったら、そのあとに第三部があって、それらの曲が披露された(ただし『ガストロンジャー』は除く)。で、このパートも約一時間弱。
ということで、終わってみれば、三部構成それぞれが約一時間弱で、アンコール一曲――もちろん真っ赤なライトの『待つ男』――を含めて、所要時間はほぼ三時間というボリュームたっぷりの内容だった。おかげさまで最近はすっかり腰痛持ちになってしまった僕にはいささかきつかった。とはいっても主役の男たちは同い年だからなぁ……。まったくかなわない。
【SET LIST】
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セットリストは新旧・硬軟とりまぜたバランスのいい内容だった。個人的はもうちょっと硬派な曲が多いほうが好みだけれど、いまとなると『ハナウタ』のようなポップ路線もエレカシの持ち味のひとつだろうし、アニバーサリーと銘打っている以上、そういう曲を望むファンの心情もちゃんと報われて、でもって僕のようなロートル・ファンもある程度満足がゆくという点で、とてもよく考えられたセットリストだったと思う。ポップ路線かと思っていた第二部も『旅』や『RAINBOW』が演奏されて満足度高し。締めはこの日もっともハードな『悪魔メフィスト』だったし。いい感じでバランスとってんなぁって思った。
あ、でも、『ガストロンジャー』をやらないのはどうなの?――とは思わなくもない。あれもエレカシを代表する一曲として演奏されてしかるべきだと思うんだけれど(宮本個人がソロでさんざんやったから満足しちゃった疑惑)。
そういや、冒頭の回想ムービーの最後にその曲名が出たので、当然やると思った最新シングルのカップリング『It's only lonely crazy days』をやらなかったのも拍子抜け。タイトルだけ出して終わりって、そんなのあり?――と思いました。
でもまぁ、シングルのカップリング曲って、過去に遡ってもそんなにやってないので、この日みたいなアニバーサリー企画でやらない――というか名曲が多すぎて時間的にやれない――のは当然なのかもしれない。『soul rescue』とか『東京ジェラシィ』とか『ハロー New York』とか大好きなんだけれど、ライブで聴いた記憶、ほとんどないもんな。ならば仕方なし。シングルのカップリング曲を容赦なくかましてくるアーティストなんて、おそらくaikoくらいだろう(いまだ生で観たことはないけれど、aikoさんのセットリストはすごいんです)。
この日でほかに印象に残っているのは、演奏が終わったあとで、宮本がもうワンコーラスを弾き語りやアカペラで歌う、というシーンが何度があったこと。すでに記憶があやしくて、どの曲だったとか明示できないけれど(『昔の侍』とか)、まぁ、この日もカメラが回っていたようなので、その辺は後日ブルーレイとかでご確認願いたし。
演出面では、大型スクリーンがステージの背景のみならず、左右にもあったのがトピック。去年の武道館では360度を解放していたこともあってスクリーンなしだったけれど、今回はひさびさなので「ちゃんとエレカシを見せます」ってサービス精神を感じさせた。
まぁ、とはいっても、宮本以外のメンバーが映ることはそんなになかった気もするけれど。それでも最後のほうの曲でセンタースクリーンを縦四分割してメンバーそれぞれを白黒映像で映し出してみせたのは――バンプとかではよく観る演出だけれど、エレカシでそういうのを見た記憶がとんとなかったので――とても新鮮だった。あそこが今回いちの胸熱ポイントだったかもしれない。――といいつつ、どの曲だったか覚えていないんじゃ話にならないけれど。
あと、せっかくの花道はほぼ宮本専用で、僕らが間近で観れたのは彼だけだった。一度だけ石くんがやってきてギターソロを弾いたシーンがあったけれど、ソロを弾き終わった石くんは駆け足でとっととメイン・ステージに戻っていきました。「花道に長くいると具合が悪くなってしまう病」にかかっているらしい。
石くんといえば、『笑顔の未来へ』で花道へと出てきた宮本が、途中からギターを放り出して歌い出したせいで、サビ前のギターリフが入らずに、いつもと違う感じになっていたのも失笑ものだった。普通のバンドだったら、あそこは石くんが穴埋めしてリフを弾いてしかるべきだと思うんだけれどなぁ。そういうところで融通がきかないところも、This Is エレカシって感じだった。
そういや、宮本がPAの人に向かって音を上げろ下げろって仕草で指示を出すシーン――ソロではまったく見た記憶がない――がやたら多いのもエレカシならではだよなぁと。なんでああなんですかね。ほんと不思議。
なんにしろ、一ヵ月前にバランスの取れた宮本ソロの音を聴いたばかりだったから、ひさびさにエレカシの(いい意味で)まとまりを欠いた音を聴けて嬉しかった。ソロとバンドでこれだけ音の印象が違う人って珍しいんじゃなかろうか。
母親に誘われて三日前の公演を観たうちの子によると、これまでに観たことのあるライブ――BUMP、RAD、ヨルシカ、ずとまよ――の中で、エレカシがいちばん音が大きかったそうだ。なるほど。バンドの音のみならず、あんなふうに会場中をびりびりと振るわせるような声を出せるボーカリストはほかにいなかろう。
よくも悪くもエレファントカシマシって特別だよなぁって思った一夜だった。
はてさて、次にエレカシが観られるのはいつなんですかね?
(Apr. 02, 2023)
ボブ・ディラン
"ROUGH AND ROWDY WAYS" WORLD WIDE TOUR 2021-2024/2023年4月16日(日)/東京ガーデンシアター
ボブ・ディラン(御年八十一歳)の来日公演を観た。
アルバム『ROUGH AND ROWDY WAYS』のワールドツアーの日本公演、全十一本のうち、五日間あった東京公演の最終日。僕がディラン御大のライブを観るのはこれが三度目。前回観たのは2010年だったから、じつに十三年ぶりになる。
前回観たあとにも二度(フジロックを入れれば三度)来日しているのに、それらをスルーしているのはおそらくチケットが高すぎたんだろうと思う(記憶が定かでない)。あと、前回のツアーでディランのコンサートには一見さんを寄せつけない難しさがあるのを思い知ったので、それをわざわざ高い金(今回はいちばん安い席でも二万円越えだった)出して観るのは違うだろうと思ったというのもあるんだろう。
それをなぜ今回は観ようと思ったかというと、それは単に酔っていたから――というと、身も蓋もないな。でもそれが真相。
ある晩、酒を飲みながらメールチェックをしていて、来日公演の先行抽選受付のお知らせが届いているのをみつけて、ふと思ったんだった。そうか、今回のボブ・ディラン、会場は東京ガーデンシアターなのかと。
東京ガーデンシアターというと、去年ずとまよをアリーナ指定席のうしろの方で観たときの印象がとても悪くて、ここはアリーナが指定席の場合は避けた方がいいなと思った会場だった。一方で宮本のソロをバルコニー席のいちばん上の方で観たときはそれほど印象が悪くなかったので、この先このホールでライブを観るならばオールスタンディングか、バルコニー席だなと。そう思った。
でもって、今回のチケットはS席だとアリーナかバルコニーどちらかわからないけれど、A席ならば確実にバルコニー席になる(五万円越えのゴールド席はもちろん論外)。内容や年齢層的にオーディエンスは座ったままだろうし、ならばいちばん安いA席でよくない?
まぁ、安いたって二万一千円もするわけだけれど、これがもしかしてディランを生で観られる最後の機会になるかもしれないのだから、それくらいは奮発してもいいのではと。もともと新型コロナで中止になった2020年の来日公演だって、チケットを取っていたわけだし(その時はかろうじて二万円に達していなかった)。A席ならば値段はそのころとニアリーイコールだ。
ということで、酔った勢いで抽選に応募して、チケットを手に入れました。
冷静に考えれば、席順を問わない洋楽のチケットなんてまず完売しないのだから、わざわざ抽選に申し込こんでまで取る必要がないんだけれど――先行手数料に千五百円近く取られて、こんなに余計にかかるのかよ!って驚いた――なんたって酔った勢いだったので詮方なし。あけてみれば、さすがに高額過ぎてぜんぜん売れなかったらしく、後日S席チケットの割引のお知らせがメールで届いたりした。
まじで先行で取った意味ないじゃん――と思ったんでしたが、あまりに売れずに席が埋まらなかったせいで、当日「A席の方はチケットが差し替えになります」と、最上階だったチケットを一フロア下のS席のものと交換してくれました。余計な先行手数料を差し引くと三千五百円のお得。――って話がせこい。
SNSを見ると、世の中には五万円のチケットで連日通っている人とかもいて、あぁ、俺はなんて甲斐性がないんだろうと、自分の不甲斐のなさを痛感してしまった。そろそろ六十も近くなってなお、これだもんなぁ……。きっと死ぬまでこんななんだろう。ああ、やれやれ。
さて、ということで、すっかり無駄な前置きが長くなってしまったけれど、ここからが東京ガーデンシアター4Fのバルコニー席で観たボブ・ディランの感想。4Fといっても東京ガーデンシアターはアリーナが2Fという扱いなので実質は三階席になる。
そういや、ディラン翁はスマホで写真を撮られるのが大嫌いらしく、スマホ禁止を徹底するため、観客は入場の際にスマホをYondrという特殊なポーチ――いったん閉めると専用端末で解除するまで開かなくなる――に入れて持ち歩かされるという徹底ぶりだった。
なので、入場後はスマホが見れない。場内ではBGMもかかっていない。普段からスマホを時計がわりにしていて腕時計もつけていないから時間がわからない。集まった人々が発するざわめきだけを耳に、いつ始まるかわからないライヴの開演をなにもせずただひたすら待つだけという最近では珍しい時間。もう始まる前からそっけない。
やがて時間が過ぎて前方の人たちの歓声が上がり、場内の照明がすこし落ちて、どうやらメンバーが登場したらしいことがわかる。
――「わかる」なんて書いたのは、よく見えなかったから。
観客席の照明は完全には消えずに、最後までほの暗いままだったし(これも珍しい)、深紅の緞帳を背景にしたナイトクラブっぽい雰囲気のステージにはスポットライトがなく、そういう舞台設定にふさわしい最小限の照明があるだけでずっと暗かった。おかげで本当に主役のディランがどこにいるのかもわからない。
ステージの中央にディランが弾くグランドピアノが配置されていて、それを囲んで弧を描くようにバンドのメンバーがいた。でもグランドピアノがあるというのは事前情報がなかったらわからなかっただろうと思う――というか実際にわからなかった。メンバーもシルエットだけでかろうじて確認できるレベル。とにかく見えない!
オープニングの『Watch the River Flow』はイントロが長く引き延ばされていたこともあり、もしかしたらディランはこれから出てくるのかなと思ったくらいだった。そしたら唐突に歌が始まったので、それでようやく、あ、ディランもいるんだと思ったという。それくらいの見えなさ加減だった。
顔が見えない点はずとまよと同じだけれど、少なくてもずとまよの場合、ACAねの顔こそ見えないものの一挙一動は確認できる。ところがディラン翁の場合は顔どころか、ご本人がどこにいるかもわからなかった。
まぁ、わざわざ顔を隠そうとしてるわけではないから、前のほうのお客さんはちゃんと見えたんだろうけれど、僕がいたバルコニー席ではほぼ無理(となりの青年は持ち込み禁止のはずの単眼鏡を使ってよく見えると喜んでいた)。このライブをちゃんと楽しみたい人は、五万円出すしかないんではなかろうかと思った。
とにかく「俺の顔なんて気にしなくていい。写真を撮るなんでふざけるな。とにかく音楽だけ集中して聴け!」って。そんな主役の頑固親父の主張がはっきりと伝わってくるステージだった。
【SET LIST】
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プロモーターの公式サイトで紹介されていたバンドのメンバーは以下のとおり(なぜかドラマーだけ欠けていたのでネットで拾ってきた)。
ボブ・ブリット(ギター)、トニー・ガーニエ(ベース)、ドニー・ヘロン(ヴァイオリン、ペダルスティール 他)、ダグ・ランシオ(ギター)、ジェリー・ペンテコスト(ドラム)
確認したところ、『ROUGH AND ROWDY WAYS』のレコーディングメンバーから、チャーリー・セクストンとドラムの人が抜けて、かわりの人が入ったメンツだった(うち二人は2010年の来日公演にもいたらしい)。
ということで、あのアルバムの音を生で再現するには文句なしの顔ぶれ――のはずなのに、なぜだかその印象はかなり違った。
ライブを観るからと、それなりに繰り返し聴いてきたから、新譜の曲に関しては曲名がわからないということはなかったけれど、それでも歌詞にタイトルが出てきて初めて、あ、この曲かと思うパターンだらけ。なんかアルバムで聴いていたイメージと全曲が違うんですけど。
――というか、それこそが八十を過ぎてなお現在進行形でツアーをつづけるボブ・ディランという人の真骨頂なのではないかと思う。
レコーディングで一度は形にした作品であっても、決してそこで完成とはしない。その時々の自分にとってしっくりくる音で鳴らしてこそ生きた音楽なのだと。それを実践するためにこそディランはいまだ精力的にツアーを回っているのだろう。
スマホを取り上げられたり、高額チケットで懐具合を寒くさせられたり、僕ら観客がいろいろと不自由を強いられる一方で、ボブ・ディランという人がみずからの音楽を表現する姿勢はとても自由だ。客が聴きたがっているから『風に吹かれて』や『ライク・ア・ローリング・ストーン』をやらないといけないとか、ギターを弾かなきゃいけいけないとか、そういう忖度がいっさいない。マジで今回のツアーでは代表曲と呼べる曲をひとつもやっていない。自分がいまやりたいと思う曲をやりたい形でやっているだけ。あまりに遠慮がなくて、かえって痛快だ。
そんな自由な心持ちは演奏にも表れていた。
前回観たときにもほとんどギターを弾かなかったディラン翁だけど、今回にいたってはまったくのゼロ。すべての曲でピアノを弾いていた。
でもって、そのピアノが思いのほか味わい深かった。自らの歌にあわせて(おそらくその日のフィーリングで)自由に音を乗せてゆく感じ。ピアノでこういうことができるならば、そりゃギターはもう必要ないんだろうなって、すごく納得した。
そんな自由気ままなディランの歌とピアノを、長年に渡ってツアーをともにするベテラン・ミュージシャンたちが支えているのだから、そのアンサンブルは鉄板。鍵盤がディランのそれしかないので、基本的な音作りはオールド・スタイルのギター・サウンドだけれど、演奏のスタイルは多様で繊細。薄暗い場内にヴァイオリンの音色が心地良く響く曲あり、ベーシストが弓を使ったりする曲あり。その演奏はとても味わい深くて素敵だった。
なかでも一番ぐっときたのが、フランク・シナトラのカバー『That Old Black Magic』。大半がスローで静かな曲ばかりだったから、これだけは比較的アッパーで、パキっとクリスプに締まったその演奏がとても新鮮でカッコよかった。
東京の初日にはこの曲のかわりにグレイトフル・デッドの曲を世界で初めて披露したとのことで、「今回のツアーは基本セットリスト固定だったのに、ディランが突然曲を変えてきた! それもデッドのカバー!」ってことでバズったようだけれど、個人的には知らないグレイトフル・デッドの曲ではなく、カバーとはいえ、仮にもディランも持ち歌であるこの曲が聴けて本当によかった。――まぁ、とはいっても、この曲にしたところでまったく馴染みはないんだけれど(収録アルバム『Fallen Angels』はカバー集のため再生回数一桁台)。
いずれにせよ、今回のボブ・ディランのコンサートは音作りも選曲も激渋だった。『Rough and Rowdy Ways』のうち、ボーナス・トラック的な扱いの『Murder Most Foul』を除いた全曲を披露して、そこに過去曲――ベスト盤にしか入っていないシングル曲二曲と、ベスト盤には入らないような知名度があまり高くない曲ばかり――を適度に散りばめた内容。
前回とは違って、いまではディランの全タイトルを聴いたことがあるとはいえ、それにしたって作品数が多いので、いまだ聴き込みが足りないアルバムが多数。とくに八十年代前後の作品は聴き込みが浅いものだから、締めを飾ったのが『Shot of Love』収録の『Every Grain of Sand』というのが致命的だった。ほかにもタイトルがわからない曲はあったけれど、タイトルはわからずとも曲自体は知っているというレベルだったのに対し、これだけは曲自体がわからなかった。おそまつ。
まぁ、そんなすちゃらかな僕と違って、高いチケット代を払って集まったお客さんたちの多くはディランに精通しているようで、ディランが歌い始めた途端に「おー、この曲か」って感じで拍手が起こり、ワンコーラス終わるとまた拍手が起こるというのが、昔ながらのコンサートって感じでとてもよかった(ディランをよく知る人でも歌が始まるまでは何の曲かはわからないあたりが、どれほどアレンジが違っているかを物語っている)。ラストの『Every Grain of Sand』のアウトロでこの日初めてディランがハーモニカを吹いたときの大歓声とか、そりゃえらい盛り上がりでした。
最近の邦楽のコンサートでは、バラードでは最後の一音が消えるまで拍手しちゃいけない、みたいな、まるでクラシック・コンサートのような風潮があって、僕にはそれがどうにも馴染めない。やっぱ好きな曲が聴けたら、興奮のあまり一瞬でも早く感謝の気持ちを伝えたくて拍手したくなっちゃうのが人情ってもんじゃなかろうか。僕がロックが好きなのはクラシックと違ってそういうところが自由なのも理由のひとつなんだけれどな。最近の日本はなにかといろいろ不自由でいやだ。この日のコンサートは年齢層が高いせいで、そういう余計なストレスがまったくなかったのもよかった。そういや、ひさびさにマスクなしでも怒られなかったのもよし。
そうそう、もうひとつディランのなにがすごいと思ったかって、あんなにメロディーが単調で歌詞が饒舌な歌を、カンニングペーパーもなしで歌えちゃうこと。
ステージがあの暗さではカンペも見えないと思うので、ちゃんと覚えているってことだよね? それも何十年も歌ってきた曲だというならばともかく、そのうち半分は三年前にリリースした新曲だというのがすごい。五十代半ばにしてすでにあれこれ忘れまくりの身としては、なんて素晴らしい記憶力なんだって、その事実にほとほと感心してしまった。
ストーンズやポール・マッカートニーら、同時代の大御所アーティストがエンターテイメントに徹したヒットパレード満載の一大スタジアム・ショーを繰り広げている一方で、ディランはそれとはまったく違う、観客のことなどわれ関せずといった風情でミニマムなバンド・サウンドを響かせつつ世界を回っている。その音楽はとっつきにくいけれど、それでいて音楽自体が持つ魅力をたっぷりとたたえている。
僕はエレカシのライブについて「演奏が下手だからいつも違う演奏になって飽きさせない」みたいなことを年じゅう書いているけれど(失礼千万だな)、ディランのライブにも同じような感触がある。毎日同じセットリストで演奏していても、もともとのアレンジからの乖離がすごくて、演奏も自由きままなので、まったく違った曲のように聴こえて飽きがこない。どの曲も新曲みたいだからこそ、耳に馴染むまでもっと繰り返し聴きたくなる。そっけないからこそ振り向かせたくなる女の子みたいな魅力を放っている――って形容はボブ・ディランにはいささかふさわしくない気もする。
いずれにせよ、前回のツアーのときと同じように、今回も僕は帰り道で、願わくばもう一度観たかったなあって、自分の預金残高の少なさを残念に思った。ディラン翁はまだまだ元気そうで、この分だと今回が最後ってことにはならなさそうな気もするので、次のツアーは二回観られるよう、いまから貯金しようかな。
とりあえず、今回のツアーの音源がいずれ正規のライブ盤かブートレッグ・シリーズとしてリリースされることを願ってやみません。
(Apr. 28, 2023)
ストリート・スライダーズ
SPECIAL PREVIEW GIG/2023年4月28日(金)/豊洲PIT
ストリート・スライダーズの四十周年記念で開かれる日本武道館公演を前にして、豊洲PITで行われた新譜『ON THE ROAD AGAIN』購入者限定のプレビュー・ギグを観てきた。
まぁ、プレビューってことでジャスト一時間という短さだったし、あいにく席は最後列だったけれど(ライブハウスなのに指定席だった)、観たくても観られなかった人だっているわけだから、観られただけでラッキーってもの。あと、逆にいちばんうしろの席だからこそ、集まった千人を超えるオーディエンスがすべて視野に入っていて、それがまた感動的だった。
なんたって二十三年ぶり――武道館のラストライブが2000年10月29日だから、正確には二十二年とおよそ半年ぶり――のライヴだ。観客の期待値もはんぱじゃない。開演前の場内アナウンスが済むと、いまだ客電も落ちていないのに、僕の前の女性は立ち上がって拍手喝采の興奮状態。つられてこちらも立ち上がって拍手。
この三年ずとまよのライブのたびにバンド・メンバーが出てきても坐ったままの若者をみてきた身としては、こういう開演前からアドレナリン溢れまくりな場内のリアクションがとても気持ちよかった。やっぱライヴってこういうもんでしょう。なんで白髪の人たちの方が二十代の子たちよりも元気なのさ。
そんな場内の興奮を受けて、ライヴは定刻の十九時ジャストに始まる。
客電が落ちてスライダーズの面々がぞろぞろと登場。挨拶抜きでいきなり始まった一曲目は『あんたのいないよる』!
わはは、二十三年ぶりの第一音を待ち焦がれていたファンに向けて、『TOKYO JUNK』なんかのアッパーな曲ではなく、いきなりファーストのスローなブルースをぶっ込んでくる。この力の抜け方がいかにもスライダーズらしい。
ハリーはピンクのスーツに緑の帽子という格好で(色は照明の加減で間違っているかも)、帽子からは長い白髪が覗いていた。蘭丸はお馴染みの宮廷風の黒いジャケット姿。僕の席からだとジェームズはハリーの陰に隠れてほとんど見えず(スキンヘッドだった)。ズズもドラムセットに座ったままだったので、どんな格好をしていたかはわからなかった。でも髪形とか、昔のままっぽかった。そうそう、ジェームズとズズはサングラスをかけていたのも、かつてのイメージ通りだった。
ハリーと蘭丸がなんのギターを使っていたかは見落とした。まぁ、距離的に場内でいちばん遠いところにいたので、ディテールまではさすがによくわからなかったってのもある。
【SET LIST】
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セットリストは『天使たち』(僕がファンになって最初に買ったアルバムだった)までの初期の五枚から厳選された十一曲(『JAG OUT』多め)。
あとで確認したら、『one day』を除く全曲が『天国と地獄』完全版の収録曲だったから、もしかしたら本番は一晩かぎりの武道館公演ってことで、初めての武道館でのセットリストを意識したものになるのかもしれない。そんな中に、個人的にはとても思い入れが深い『one day』を入れてくれたのがこの夜のマイ胸熱ポイントだった。
そういや、今回の武道館公演のタイトルになっている、ハリーの「ハロー!」というお馴染みの挨拶もこの夜は封印。一曲目のあとでのハリー初のMCは「どうもこんばんわ、ストリート・スライダーズです」だった。そういうところにも、なにげに気を使ってくれているのがカッコいい。
MCといえば、『天国列車』の前の「公平が歌うぜ」とか、『No More Trouble』の前の「スリーコードをブギを聞いてくれ」とか――うろ覚えなので違っている可能性大――もうハリーの言動がいちいちハリーで、そういうところも含めて、これぞスライダーズだって感じだった。
僕はチケット抽選の応募券に「20:00公演終了予定」と書いてあったのを見逃していたので、九曲目で『So Heavy』のイントロのリフを聴いたときには「早すぎぎじゃね?」と思ったし、次の『Back to Back』で「最後の曲です」といわれたときには「え~、もう終わり?」とびっくりしてしまったのだけれど、でもまぁ、プレビューと銘打っているからなぁって、わりとすぐに納得。わずか一時間きっかりだったけれど、その濃厚な時間をたっぷりと堪能させてもらった。大満足でした。
今回のライブでなんに驚いたかって、スライダーズのグルーヴがむちゃくちゃ気持ちよいこと。ほんとアッパーな曲は当然として、スローバラードであろうとビートの緩急に関係なくすべてがダイレクトに身体の芯を揺さぶってくる。そのビートがあまりに気持ちいいもんで、そんなつもりはなかったのに、もう最初っから最後まで踊りっぱなしだった。こんな感覚、ひさしく味わったことがない。
僕は解散前のスライダーズのライブって数えるほどしか観たことがなかったので、彼らのグルーヴがこんなにも気持ちいいもんだってことを、すっかり忘れていた。――って、いや、もしかしたら二十年間で僕の音楽に対する感覚が変わったのかもしれない。当時この感覚をちゃんと味わっていたなら、もっとたくさん生で観ていた気がするから。
いずれにせよ、二十二年ぶりだっていうのが嘘みたいに、スライダーズの音楽はいま現在の僕の感覚にジャスト・フィットだった。本当にそんなに長いあいだ、このビートを肌で感じたことがなかったのが信じられないくらいにどんぴしゃだった。もう気持ちいいったらありゃしない。このバンドが二十年もライヴをやっていなかったなんで、日本の音楽界における最大級の損失なんじゃなかろうか。
アンコールの『マスターベーション』のあと、ハリーは最後に「じゃあ、武道館で」と言い残して去っていった。それを聞いて、あぁ、もう一度これが味わえるのかと、たまらなく嬉しくなった。ライヴハウスを出て駅へと向かう道すがら、にやけが止まらなかった。マスクがなかったら危ない人だ。
武道館公演のチケットはあいにくのバックステージ席だけれど、でももう一度この音を生で、次は二時間たっぷりと体感できるというだけで、かけがえのない時間になるのは間違いないなって、いまは思っている。
(Apr. 30, 2023)
ずっと真夜中でいいのに
活動5年プレミアム『元素どろ団子TOUR』/2023年5月2日(火)/Zepp DiverCity (TOKYO)
ゴールデンウィーク中に開催されたずとまよのファンクラブ限定ライブ『元素どろ団子TOUR』をZepp DiverCity (TOKYO)で観た。
ずとまよのファンクラブ限定ライブは今回が二度目。去年のBillboard Liveのやつはチケットが取れなかったけれど、今回は(公演数が多かったこともあり?)なんとか取れました。これを観るためだけに、夫婦そろってZUTOMAYO PRREMIUMに入っていたといっても過言ではない。夫婦合わせて百十歳超えのファンクラブ会員ってのも激レアだろう。
同じくアコースティック・ライブとはいっても、ビルボードではバンドセットだったのに対して、今回はピアノの岸田勇気、ギターの菰口雄矢と、あとはACAねだけという、三人だけでのアコースティック・セット。ステージ中央には巨大な鳥かごのようなセットが配されていて、ACAねはその中にいた。
主役よりもちょっと高い位置に配された左手のひな壇に岸田、右手が菰口というステージ構成。このふたりはそれなりに見えたけれど――僕らはMCブース右手の柵際にはりついて観ていた――ACAねはいまいちよく見えず。できることならば主役をもっと目立たせて欲しかった。
当初は全席指定の予定が、応募者多数のためチケット数を増やすためといって、アリーナ後方をスタンディングに変更したので、最初の抽選にはずれた僕らが手に入れたのは追加で出たそのスタンディング席のチケットだった。
前回のライヴで「ずとまよはオールスタンディングで観たい」とか書いた僕としては願ったり叶ったりではあったんだけれど、でも今回はアコースティック・セットということで踊れる曲は少なめだったし、加えてよく見えないとなると、やっぱ前方の指定席が取れた人はラッキーだったかなと思う。
ライブはちりんちりんと氷がグラスにあたるSEとともに『グラスとラムレーズン』でスタート。いきなり一曲目からレア曲だ。
――とか思ったけれど、でも振り返ってみるとレアだなぁと思った楽曲はそれくらい。『優しくLAST SMILE』とかは、アコースティック・セットだからやるかもと思っていたから、それほど意外性はなかったし。『またね幻』も聴くのはは二度目だったけれど、去年のたまアリでもアコースティック・バージョンを聴いていたので、なるほどという感じ。逆に『Dear. Mr「F」』が演奏されなかったほうが意外だった。
あとはあれだ、中盤のカバー・コーナー。日替わりメニューで人の曲をワンコーラスずつ聴かせるという今回のツアーの特別企画。この日の演目は PEOPLE 1 の『113号室』と、EVEの『あの娘シークレット』という曲だった(当然どちらも知らない)。
そうそう、ABEMAのリアリティー番組の主題歌に提供されている新曲『不法侵入』もフルコーラス聴けたのは今回のツアーが初めて。
まぁ、楽曲として目新しかったのはそれくらいだけれど、今回はリズム隊抜きのアコースティック・セットということで、全曲普段とは違うアレンジだったから、音響的な意味では全編この上なくレアだった。音数が少ない分、ACAねのボーカルがいつにも増して映えた。ACAねの歌だけ聴ければあとはどうでもいいという人には至福の一時間だったかもしれない。
個人的なこの日のクライマックスは『秒針を噛む』。
年のたまアリのときと同じくACAねの弾き語りで聴かせた『サターン』からの流れで、最初は弾き語りでスローに始まって、後半からギターとピアノが入って音が厚くなるアレンジが最高に新鮮でいかしていた。
あとは序盤の『お勉強しといてよ』と本編ラストの『残機』。アコースティックでもちゃんと盛り上がれちゃうのすげーって思いました。
もともと予告されていた通り、わずか一時間だけの短いステージだったけれど、ファンクラブ限定イベントってことで、ライヴ後にはステージにあがってセットを見学できるサービス(+缶バッチのプレゼント)もあって、ファンとしてはとても満足感の高いライヴだった。ステージ見学は立ち見客を優先してくれたので、早めに帰れたのもありがたかった。
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この夜、唯一残念だったのは、ライヴが始まる前に拍手しそこねたこと。
前回の代々木でアコースティック・セットのときに立ったまま観ていて、うしろの若者に座るよう頼まれたのをいまだにひきずっている僕は、もう年寄りが出しゃばるのはやめようと、今回はまわりのリアクションにあわせて後追いで行動しようと思ったら、ばだ。なんと客電が落ちてライヴがスタートするまで誰も拍手しないの。なにそれ?
『グラスとラムレーズン』のあと間髪入れずに『ハゼ馳せる果てまで』が始まったこともあり、この夜最初の拍手が起こったのは、確かその二曲目が終わったあとだった。そんなのあり? コンサートが始まる前に拍手でアーティストを迎えるのなんて、人として当然の礼儀だと思うんだけれどな。なんでそういうあたりまえのことがあたりまえにできないんだろう。おじさんは不思議でしょうがないよ。
――ってまぁ、拍手しなかったという点では俺も人のことつべこべ言えないんですが。というか、年取ってる分だけたちが悪い。平均的なファンの人たちと年の差が激しすぎて、ずとまよのライブは残念ながらいまいちアウェイ感がぬぐえないんだよねぇ。いまいちばん好きなアーティストなのに。本当にいろいろ残念だ。
まぁ、とりあえず、六月にはいよいよサード・アルバム『沈香学』も出るし、年内に少なくてももう一度ツアーがあるのは間違いないでしょう。いやー、アルバムも次のツアーも本当に楽しみだ。次はちゃんと拍手するぜい。
(May. 27, 2023)
THE STREET SLIDERS
The Street Sliders Hello!!/2023年5月3日(水)/日本武道館
二十二年ぶりに復活したストリート・スライダーズ、四十周年記念の日本武道館ライヴを観た。
最初の先行抽選でチケットがはずれたときには、なんてこった……とがっかりしたものだけれど、その後に追加で出たバックステージ席の抽選に当選。かろうじてチケットをゲットした――なんてレベルの話ではなかった。それがびっくりするような、とんでもない席だった。
だって二階席の最前列だよ?
もしかしたらアリーナの最前列よりもステージに近くない?
少なくても僕にとってはいままでにないレアなシチュエーションの席だった。白黒のペイズリー柄のステージの床が目の前に遠慮なくどーんと広がっている。ギター交換のための機材や、脇で控えているスタッフとかも丸見えだし。なによりメンバーと同じ目線で満員の武道館の風景を眺められるという点で、この特別な夜を存分に堪能できるスペシャルな席だった。いやはや、開演前からすごい盛り上がりでした。
まぁ、演奏中のメンバーは後ろ姿でしか見えないし、スピーカーは目の前に置かれた小規模なやつひとつだけなので音響的にはいまいちだったけど――ハリーのボーカルはくっきりはっきり聴こえたけれど、ギターの分離とかはさっぱりだった――でもこんなにバンドを身近に感じられる席はまたとない。これでチケット代はふつうの席より安いんだから、もうしわけないくらいだ。俺のチケット運いまだ衰えず。ライヴ前には宮本遭遇事件(後述)もあったし、われながらなんて強運なんだって思った。
さて、そんなこの夜のライヴは当然のごとく、ハリーのひとことで始まった。
「ハロー!」
セットリストは先週のプレビュー・ショーとだいたい同じ流れ。何曲か入れ替わった曲があり、演奏時間が長いぶん、六曲多くなっていた。
一曲目はあの夜と同じ『あんたがいない夜』――かと思ったら違った。この日のオープニング・ナンバーは『チャンドラー』。
――だったというのをですね。情けないことに、あとでセットリストを確認して気がついた。スローでヘビーなナンバーで始まったから、先入観で『あんたがいない夜』だって思い込んで疑わなかった。違うじゃん!
二曲目の『BABY BLUE』とか、ジェームズが歌った『Hello My Friends』とかも、あれ、これってどのアルバムに入っているなんて曲だっけ?――と思ってしまったし。さすがに二十二年のブランクは長かった。あぁ、ファン失格。
まぁ、この日は本当に席が特別だったので、いまいち現実感がなかったというか、なんとなく白昼夢を見ているみたいな気分で、最初から最後までぼうっと惚けてしまって、普段より集中力を欠いていたような感があった。
スライダーズの面々のうち、ハリーと蘭丸は先週とほぼ同じ服装だった。ハリーのスーツは白で、帽子は紺だったから、やはり先週も同じだったのに、ライティングの加減で違う色に見えただけかもしれない。
ジェームズとズズについては、先週はよく見えなかったけれど、今回はばっちり(ほとんどは後ろ姿だったけど)。とくにジェームズは僕らにいちばん近かった。でもって、バックステージの僕らにも愛想よく手を振ってくれたりして、なんか最高にフレンドリーないい人だった。いまさらだけれど、すっかりファンになりました。
それにしても、スライダーズって本当に変わらないなぁって。ハリーは終始ご機嫌だったけれど、でもセットリストがそこはかとなくそっけない。これで最後だからとか、アニバーサリーだからとか、そういう気負いや過度のサービス精神がまったくない。いつも通りにブギを鳴らしてりゃそれが最高だろって。そんな感じ。
一曲目の『チャンドラー』からして、え、それですかって感じだし、ジェームズに歌わせるのだってシングルのカップリング曲の『Hello Old Friends』を持ってくるし。
まぁ、いわれてみればその曲のほうがテーマ的には今回のライヴにはふさわしいとは思うんだけれど、曲の知名度を考えれば、ファースト収録の『酔いどれダンサー』のほうが盛りあがるでしょうに。
そのほかにも『Boys Jump The Midnight』とか、『Blow The Night』とか、当然やるだろうと思っていた曲を平気でセトリからはずしてくるし。プレビューでやった『カメレオン』や『マスターベーション』もなし。最新ベスト&トリビュート盤のタイトルになっている『On The Road Again』も、まさかやんないとは思わなかったよ。
そうやって往年のファンが大喜びするの間違いなしな曲をセトリからはずす一方で、ほとんどの人が予想もしなかっただろう新曲を二曲も披露してみせる(どちらもJOY-POPS名義で発表済みの曲だってあとで知りました)。
俺たちはべつにナツメロを聴かせたくて戻ってきたわけじゃないんだぜって。せっかくまたこのメンツで集まって音を鳴らすんだから、ちゃんといまのスライダーズを聴いてくれって。そんな姿勢には、前月観たボブ・ディランと同様の、自分たちの音楽に対する強いこだわりを感じた。
本編のラストを『風の街に生まれ』で締め(これも相当予想外だった)、アンコールには『のら犬にさえなれない』と『TOKYO JUNK』を聴かせて終了。最後だけはさすがにこの二曲だよねって感じだった。
終演後のBGMにかかっていた『PANORAMA』が終わった途端、ステージの四方を隠す形で白い垂れ幕がばさっと落ちてきた。そこには黒い手書き文字ででかでかと――
「ザ・ストリート・スライダーズ 秋・ツアーやるゼイ!」
まぁ、本編で新曲が披露された時点で、こりゃおそらく今回ぽっきりでは終わらないんだろうなというのは予想できましたけどね。無事渋公のチケットも取れたし、年内にもう一度スライダーズが観られる! ご機嫌だぜぃ。
【SET LIST】
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ということで、スライダーズについては以上です。これ以降は蛇足。
じつ僕らはこの日、席へと向かう武道館北側の狭い通路――「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた一角のすぐ近く――でエレカシの宮本浩次とすれ違った。
宮本くんはスタッフと思しき女性に案内されて、どこぞへ向かう途中だった。向かいからすごくよく知った顔の人が近づいてくるから、あれ、誰だっけ?――とか思って、つい話しかけそうになってしまった。いやー、びっくりでした。
この出会いがどれだけレアなことかというのをぜひ聞いて欲しい。
僕がこの日、武道館の通路で宮本とすれ違うまでには、以下のようなささいな偶然の積み重ねがあった。
①ハリーと蘭丸のメルマガ限定のチケット先行抽選があるのを見落としていた。
→当選確率が高そうなここで当たっていたら、宮本と会った通路を歩いていない。
②チケットの一般先行抽選に落選した。
→ここで普通のチケットが取れていても宮本と会えていない。
③追加で出たバックステージ席に当選した。
→これに当選したからこそ宮本とすれ違った北側の通路を歩くことになった。
④ライヴの一時間前までアントラーズの試合があった。
→試合がなければもっと早く着いていたので、宮本に会えていない。
⑤サッカーのあと駅へと向かう道を急いだら予定より一本前の電車に乗れた。
→予定の電車に乗っていたら五分遅く着いていたので宮本に会えていない。
⑥そもそもこの日エレカシはフェスに出演していた。
→だから僕はこの会場に宮本がいるなんて思ってもみなかったのに、彼らは出演を終えたあとで武道館までやってきていた。
以上。なんかすごくないすか? そうでもない? 個人的にはそこはかとなく運命を感じちゃったりしたんだが。
いやぁ、なんにしろ一生に一度あるかないかの特別な一夜でした。九月のライヴも楽しみだ。
(Jun. 03, 2023)
宮本浩次
宮本浩次 Birthday Concert 「my room」/2023年6月12日(月)/ぴあアリーナMM
宮本浩次がおもしろすぎる。
これで五年連続となるエレカシ宮本のバースデイ・ライブ。
五年連続とはいっても、ソロ活動開始前の最初のリキッドルームはチケットが取れず(うちの奥さんがひとりで観にいった)、その翌年はCOVID-19のせいで宮本の仕事場からの生配信だったから、僕が彼のお誕生会に参加させてもらうのはこれが三回目。
とはいっても、過去二回と今回とではまったく内容が違った。
去年おととしのライブは縦横無尽バンドのステージだったから、ソロでのバンド活動を宮本の誕生日にあわせてやっちゃいましょうって企画だった。まぁ、去年は自分でバースデイ・ケーキのろうそくを吹き消しちゃったりして、みずから祝う気まんまんだったけど。
それに対して、今回は宮本の独演会。ステージには宮本ひとりしかいない。
ソロ活動が一段落したこのタイミングで自らの誕生日に小林さんたちに出演依頼するのは「俺の誕生日を祝ってくれ!」って言っているみたいで気恥ずかしいと思ったのか、エレカシでやるのもバンドを私物化するようでよくないと思ったのか。
理由はよくわからないけれど、宮本はみずからの五十七歳の誕生日にひとりきりでステージに立つことを選んだ。
会場は宮本にとって――僕にとっても――初となる、ぴあアリーナMM(「MM」はたぶん「みなとみらい」の略)。収容人員は一万二千人以上。
そんな広いところで弾き語りのライヴやって大丈夫なの?――と始まるまではちょっと不安だったんだけれど、そんな心配ははいらぬお世話だった。宮本浩次の破格の才能は――というか彼の素っ頓狂なキャラは――この広い箱をものともしなかった。
まぁ、考えてみれば、民生さんの広島球場とか、あいみょんの甲子園とか、もっと広いスタジアムで弾き語りライヴやってる人だっているんだもんね。三十五年以上にわたってバンドのフロントマンを堂々と務めてきた宮本にできないはずがないよなって、あとで思った。宮本のあの声の前には一万規模の会場でさえライブハウスも同然だった。バンドの音圧がないがゆえに、あのボーカルのすごさが際立っていた。とにかく声の立体感がはんぱない。
宮本の場合はお世辞にもギターが上手いとはいえないので、ひとりで大丈夫かと心配していたところがあったんだけれど、そこは一般的なアコギの弾き語りライヴとは違って、エレキあり、同期モノあり、カラオケありと、様々な演奏パターンを織り交ぜることで、これまで観たことがないような、おもしろいステージを見せてくれた。
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内容としては、2020年に作業場でひとりきりでやった配信ライヴを、大胆にも人前でやっちゃおうという企画なわけだ。なので、タイトルも「my room」と題して、ステージにはギターやアンプ以外にも、宮本が自宅から持ち込んだらしいソファやドラムセットなんかが配置されていた。要するに宮本のお宅拝見(仮)な感じ。ソファの横のサイドテーブルには真っ赤なバラの一輪差しが飾られていたりする。
アリーナなので当然、大型スクリーンも配置されている。ステージ背景と左右で計三面。だからそれなりに映像演出があるのかと思ったら、そうではなかった。このスクリーンがライヴのあいだ、延々と宮本の姿を追いつづけるだけという趣向。
ステージにいるのは宮本ひとりだし、大きなスクリーンに映るのも宮本だけ。肉眼で見る宮本+スクリーンに映る宮本の姿が三面。計四人分の宮本の表情を追いながら、あの強烈な歌声を二時間以上に渡って浴び続けるという――。
まさに純度百パーセントの宮本浩次を堪能できるレア企画。
宮本推しの女性たちにとってはこれ以上はないんじゃないの?――って思ってしまうような究極のライヴ体験だった。
オープニングもなかなか振るっていた。
なんと一曲目の『通りを超え行く』――いきなりエレカシ・ナンバー!――は、楽屋からの配信映像。しかもiPhoneを使ってのTikTok的なやつ。それを左右の大型スクリーンに映し出すという。初っ端からちょっとリアクションに困る展開。
一曲目にアーティストが登場しない演出がこのごろはほかのアーティストでもたまにあるけれど――そういや二年前の縦横無尽のバースデイも一曲目の『夜明けのうた』はステージが暗すぎて宮本が見えなかったっけ――正直ファン目線ではそういう演出ってあまり嬉しくない。せっかく生なんだから、最初からアーティストの姿をこの目で拝みたい。
まぁ、この日はワンコーラスだか歌ったところで、おもむろにiPhoneを手にとって、自撮りで歌いながらステージへと向かう宮本がおもしろかったのでヨシ。しかもようやくステージにその姿を見せたと思ったら、その瞬間にスクリーンには「ディスク容量オーバーです」というアラート表示(自撮りを反転させているせいで裏返し)が出るというおまけつき。あれを狙ってやったんじゃないとしたらすごすぎる。奇跡的。
宮本は超~高そうな黒い紗入りのシャツに黒のレザーパンツという格好だった。
あと、歌いながら自由に動き回れるようにってことで、ヘッドセットマイク(マイケル・ジャクソンとかアイドルが踊りながら歌うときにつけてるやつ)を使っていたのがこの夜のいちばんのサプライズだった。
あれってずっとつけたままだったけれど、ハンドマイクで歌うときって、どっちのマイクから声を拾ってたんですかね。謎。――というか、たぶんヘッドセット・マイクつけてる人は、ふつうわざわざ別にハンドマイク使わないよね。ほんと変な人で楽しい。
僕は「my room」というイベントタイトルを聴いたときから一曲目はエレカシの『部屋』かもと思っていたんだけれど、果たしてつづく二曲目がその曲だった(嬉)。
つまり始まりからいきなり二曲連続でエレカシ・ナンバー。
ソロ活動の延長だから基本的にやるのはソロの曲ばかりだろうと思っていたので、これには意表を突かれた。この日のセットリスト全二十八曲のうち、じつに十三曲がエレカシの曲だった。しかも、なかにはエレカシでもひさしく聴いたことがないナンバーを含む。
まぁ、考えてみれば、バンドでやるならば練習が必要だけれど、この日は宮本ひとりなんだもんね。彼個人からすればソロの曲もエレカシの曲も違いがないわけだし。別に両者を区別する必要はないんだよなって、これもあとから思った。
三曲目の『解き放て、我らが新時代』は例の打ち込みで、『悲しみの果て』なんかはエレキの弾き語り。『First Love』や『恋に落ちて』はレコーディングの音源を使って、宮本のギターに途中から打ち込みの音をかぶせてゆくアレンジだった。『冬の花』とか『rain -愛だけを信じて-』とかはカラオケをバックに、花道を駆け回っていた。
ドラムセットもあったので、どこかでたたくのかと思ったら、最後のほうの曲のフレーズにあわせて、シンバルを手で数回叩いただけでした。飾りじゃないのよ涙は――じゃなく飾りだったのねドラムは。
個人的にこの日もっともぐっときたのは第一部の真ん中あたりで演奏された『やさしさ』。バンドのときよりこころなし速めの弾き語りがむちゃくちゃ染みた。
そのほかでよかったのが『きみに会いたい』と『獣ゆく細道』。どちらもアコギのシャープでファンキーなカッティングがすんごい好みだった。エレキを弾いた曲はバンドのギター・パートだけを取り出したような感じだったので、どちらかというとアコギのこういうアグレッシブなグルーヴが際立つ曲のほうがカッコよかった。
『獣ゆく細道』は椎名林檎とのデュエット曲だから、一人だとやりにくそうなのに、なにげにソロでの定番となっているのがいい。初めて他のアーティストが自分のために書いてくれた曲だからか、それとも単に本人が気に入っているだけなのか、いずれにせよ、人からもらった曲を自分のものとして大事に育てている感じがとてもよいと思う。カバーといえば、『翳りゆく部屋』も本気で大事に思っているのが伝わってくる名曲だった。
あと、おもしろかったのがお客さん。僕の斜め前には白髪を三者三様の色に染めた裕福そうな老婦人が並んでいたりして。いやー、本当に最近はファンの裾野が広がったんだなぁって思った。
そういや、オーディエンスも一見さんは激減したようで、すでに第二部はあってあたりまえと思っているらしく、以前のように第一部が終わったあとに手拍子でアンコールをねだるお客さんは皆無だったし、それどころか、第一部が終わるなり、あたりまえのように席を離れてそそくさとトイレへと向かう女性たちがたくさんいたのには驚いた。やっぱファンの年齢層が高いのねって思いました。
そうそう、この日はスクリーンの映像がずっと微妙にずれていたのが気になった(僕らの席はアリーナのステージ向かって右手の十九列目で、今回も良席だった)。前のほうだったこともあり、うしろのほうのお客さんの手拍子もずれて聴こえてきていて、きょうは映像も拍手もずれまくりだなぁと思っていたら、宮本が途中で歌を中断して、「手拍子やめてくれる? リズム感悪いから」とやめさせていたのには大笑いでした。
第二部のオープニングもまたもや楽屋の映像から。服装はいつもの白シャツ黒パンツに模様替えして(ジャケット着てたかも)、ソファに寝転んでギターを弾きながら、『こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい』を聴かせる(お行儀悪い)。
この曲にしろ、そのしばらくあとの『君がここにいる』にしろ――あと前半戦の『孤独な旅人』にしろ――この日は僕があまり好きではないエレカシ・ナンバーがけっこう披露されたんだけれど、驚いたことにそれらがすべてよかった。
個人的にはあまり好きではない曲でも、宮本がひとりで弾き語ることでラフなエッジが立ち、過去のあれこれが剥ぎとられて、その曲が本来持つポテンシャルが剥き出しになったような感じ? あらためて宮本浩次すげーって思わされました。
そうそう、アンコールでは『冬の夜』をワンコーラスだけ歌ってくれたけれど、確かこの曲って、最近のエレカシのライヴでもちょこっと口ずさんでいたよね? なんか最近ちょっとだけ歌ってみたいブームだったんでしょうか。愛着のある『浮世の夢』の収録曲なので、次はフルでお願いしたい。
ということで、この夜のライヴはアンコールの『P.S. I love you』で〆。終演後に楽屋に戻ってはしゃぐ宮本の姿をモノクロ映像でスクリーンに映しつづけるというおまけつきだった。最後の最後まで、なにをやっても喜ばれちゃう愛されキャラぶりが爆発していた。ほんとむちゃくちゃおもしろかった。
(Jun. 24, 2023)
SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)/ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
去年のソニックマニアにつづき、今年はサマソニ本編の一日目に参加してきた。新型コロナウィルスの猛威も一段落して、世の中もようやく正常に戻りつつあるなぁと思うきょうこの頃。
いやしかし、夏フェスってゆくたびに寄る年波の限界を感じるのが毎年恒例になってしまっているけれど、今年は極めつけだった。
だって、観たいバンドがほとんどないので、入場したのは午後からだし。
「ブラーが観たい!」って率先してチケットを取ったうちの奥さんは体調不良で別行動になってしまい、夕方からの参加だったし。しかも幕張まで来るだけで疲れ切ってて、到着するなり坐り込んでしまう始末。
僕は僕でしょっぱなから熱中症で倒れちゃうし。
いやいやいや。いい加減もうフェスは無理でしょうって思った。ここ数年はうちの奥さんが帰宅後に「今年でもう夏フェスは最後にする」と宣言するのが恒例になっているけれど、今年ばかりは本当にもう限界かもと思った。
五十代でも日常的に体を動かしている人ならばまた話は違うんだろうけど、僕ら夫婦は完全なインドア人間で、若いころからまったくスポーツをしたことがない者同士だし、僕に限っていえば、新型コロナによるテレワーク化で、ここ三年ばかりはほとんどうちを出ない生活を送っているものだから、いまや体力は完全に老人並み。二時間のライブをスタンディングで観るのが精一杯の男に、朝から十時間コースのフェスなど無理筋すぎる。
観たいバンドがないのだって、昔だったら、ないならないで、知らないバンドを調べて、よしこれを観ようと決めてオープニングアクトから足を運んだのに、いまやそういう気力がない。今回なんてブラー以外の出演者をよく知らないことのに気がついたのが本番の三日前だった。それでは、たとえいいバンドと出逢えても、予習に聴き込む時間がありゃしない。
そんな風に、体力のみならず、気力や好奇心の衰えもいちじるしい。こりゃもう本当にそろそろ引退の潮時なんだろうなぁと、今回ばかりはマジで思いました。
――まぁ、とかいいつつ、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、この先ザ・キュアーやコステロが出ると聞けば、またチケットを取っちゃうのは想像に難くないんだけれども。
でも、この先はゆくにせよ「面倒だけれど仕方ないなぁ」って感じになってしまうんだろうなと思う。あぁ、本当に若くないっすねぇ……。
ということで、五十六歳という自分の年齢を痛感させられた2023年のサマソニ。
最初に観たのはビーチステージのザ・ペトロールズ。
ザ・ペトロールズは東京事変の浮雲こと長岡亮介、ベースの三浦淳悟、ドラムの河村俊秀という三人によるスリー・ピース・バンドで、浮雲がボーカルをつとめている。
このバンドの存在を知ったのが、まさに本番の三日前で、「え、浮雲サマソニに出るのかよ。じゃあ観とかないとじゃん」と思って、奥さんとは別行動でひとりで観ることにしたのでしたが――。
場所はビーチステージ。真夏の熾烈な陽射しを遮るものがなにもない砂浜の上。開演は13時40分と午後の暑さの真っ盛り。
浮雲のソリッドなギターと柔らかな歌声――東京事変で椎名林檎と対峙するといまいちものたりない印象が否めないけれど、ソロで聴くと思いのほか心地よかった――は普段ならば十分に楽しめるものだったけれど、いかんせん暑い暑い熱~い。
この日のビーチステージは「Curated by Gen Hoshino」と銘打って、星野源が出演アーティストを決めたとのことで、開演前に星野源本人からの挨拶があった。源さんも「暑いから本当に気をつけてください」と言っていたけれど、本当に暑~い!
四十分のステージを半分まで観たところで、こりゃ最後まで持つかなと不安になり、それでもあと半分でおしまいだからと我慢してみたものの、あまりの暑さに集中力を削がれて、ぜんぜん音楽に集中できない。三十分が過ぎたところで、こんな状態で無理して観ていてもしかたないと思い、後ろ髪を引かれながらステージをあとにした。
で、スタジアムへと向かう木陰のある通り道まであと十メートルってところで――。
立ち眩みで目の前が真っ白になり、ぶっ倒れそうになりました。
前を歩いていた人にぶつかったのか、知らない青年が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた(若者優しい)。
たまたま係員が近くにいて「救護エリアへ行きますか?」とも問われたのだけれども、その時点では単なる立ち眩みだからちょっと休んでいれば治るだろうと思ったので、そのまま通路の片隅に座り込んで休ませてもらった。
でも、眩暈だけならまだしも、手足の指にぴりぴりとした変な痺れがある。あぁ、こりゃまずそうだなぁと思ったのだけれど、そのままそこに座っていても埒があかないので、しばらく休んだあとで意を決して立ち上がり、係の人に挨拶してその場を離れ、目の前のちょっとだけ涼しげな木陰道に歩み入った。なんとかしてメッセまでたどり着いて、涼しいところで休もうと思った。
でも駄目だった。歩き出してすぐに、また目の前が真っ白に――。
今度はビーチステージの出口あたりでもう一度座り込み、しばらく休んでから再挑戦するも、なんとかスタジアムの前まで戻った時点でふたたび立ち眩み。あぁ、こりゃもう駄目だと思った。とてもメッセにたどり着ける気がしない。
そうしたら、たまたま目の前に「救護エリア」の看板がどーんと。
これはもうここで休めという誰かさんの思し召しだろうと思い、ふらふらになりながら係の人に場所を確認して、スタジアムの救護エリアに転がり込んだ。
救護エリアは緑色のネットに囲まれた野球場のブルペンみたいな部屋で、看護師らしき係の人に塩タブ二粒と経口保水液を紙コップに二杯もらい、天井に張り渡された配管を眺めながら、床に敷いたヨガマットの上でしばらく横にならせてもらった。熱覚まし用に氷が入ったビニール袋もくれたし、いたれりつくせり。
なによりこの部屋はエアコンが効いていて、とても快適だった。メッセよりも断然涼しかった。おかげで比較的早めに回復できた気がする。ビーチの救護エリアは屋外だから、エアコンなんてあるはずもないので、無理してスタジアムまで戻ったのが大正解だった。
横になっているあいだに[Alexandros]の『ワタリドリ』が聞こえてきた。マリンステージは彼らの出番だったらしい。
ニ十分くらいでなんとか回復したようだったので、看護の人にお礼をいって救護エリアを出てメッセへ移動した。途中でまた倒れたりしないか冷やひやだったけれど、なんとか無事にメッセにたどり着くことができた。
人もまばらなマウンテン・ステージのフロアでしばらく休んだあと、10分押しで始まったガブリエルズを観た。
ガブリエルズも知ったのは三日目のこと。ジェイコブ・ラスクというファルセット・ボイスの黒人シンガーをフィーチャーしたソウル・グループで、メンバーは彼のほか、白人ふたりの三人組。その片方がヴァイオリニストだというのが、このバンドに他と一線を画する個性を与えている(もうひとりはキーボード)。
ボーカルのジェイコブ・ラスクという人は、ぱっと見のインパクトがすごかった。とにかく体の横幅がはんぱない。こんなに体積の多い人は日本にはまずいなかろうってボリューム感。
そんな巨漢をタキシードにくるみ、その上にニューオーリンズ風の柄物のガウンを羽織り、さらには同じ柄の大きな帽子をかぶっている。でもってその派手なガウンをビヨンセみたいに風になびかせている。
一曲目が終わったあと、気取った態度で帽子を投げ捨て、二曲目では空手の
そしてなにより歌がすごい。上手いうえに声量が桁違い。なんかひさしぶりに本格的なソウル・シンガーの歌を聴いた気がする。レコーディング作品からは伝わり切らない、エレカシ宮本を彷彿とさせる凄さがあった。本格的なのにちょっとコミカルなところも似ていると思う。見た目の類似点は皆無どころか正反対ってほどだけれど。
そんな彼の素晴らしい歌声に、ヴァイオリンの奥深い響きが加わるガブリエルズの音楽は生だとよりいっそう映えた。スローな曲ばかりだけれど、彼のボーカルとこのバンドの音にはあまり速い曲はそぐわない気がする。
残念ながら途中で、遅れて到着したうちの奥さんとの待ち合わせ時間になってしまったので、最後まで観ずにステージを離れてしまったけれど、このバンドはいずれフルセットのライブを観たいと思った。
そういや、倒れたあとなので坐ったまま観るつもりだったのに、あまりによかったので最後まで立ったままで観てしまった。われながら元気でなによりだ。
そのあと、うちの奥さんと合流して一緒に観たのがCornelius。
新譜『夢中無 -Dream In Dream-』のリリース後だから、なにか新しい展開があるかと期待していたのだけれど、基本的なコンセプトやセットリストの流れは『Mellow Waves』のときとほぼ一緒だった。何曲か新曲を取り込んではいるけれど、演出自体はまったく変わらず。去年もソニマニでコーネリアスを観ている僕のような外様のリスナーにとってはまったく新鮮味のないステージだった。
そもそも去年は確かフジロックの配信でも観たし、それ以前にコロナ前のソニマニでも観ているし、その二年前にはベックの武道館のオープニングアクトもあったわけで。そのすべてがほぼ同じ演出スタイルなのだから、いい加減飽きもくる。
コーネリアスのステージって、ミュージックビデオを生演奏で再現しているようなものなので、初見のインパクトはものすごいのだけれど、どうしても二度、三度と重ねて観ると飽きがくる感が否めない。
もしかしたら映像の内容には手が入れられていて、微妙な変化は加えてあるのかもしれないけれど、僕のようなファンでない人間からすると、そんな間違い探しみたいな変化はないも同然。去年は白かった衣装が今回は黒かったとか、去年は三人だったけれど今年は四人だったとか。それくらいの違いしか認識できない。
なまじ音はパキパキに分離がよくて、シャープな曲は切れがあり、ラウドな曲は豪快で、音響的にはなにひとつ文句のないステージなのに――去年やった長尺のインストナンバーがなくなった分、セットリスト的にも今年のほうがよかった――ただ単に演出がいつも一緒なせいで、新鮮味が足りないとか文句をつけたくなってしまうのって、なんかとってももったいないなぁと思う。
一度は絶対に生で観たほうがいいと思うけれど、それでいて一度観るともうそれで十分って気がしてしまう――コーネリアスっそんなバンドだと思う。
でもって、そういうバンドってあまりないような気がする。よくも悪くもコーネリアスって特殊なバンドかもしれないなぁって思いながら、僕はこの日の小山田くんたちのステージを観ていた。
ほんと、演奏は文句なしの素晴らしさでした。
コーネリアスのあとに早めの夕食をとってから、暮れなずむ空を見上げながらスタジアムに向かった。
最後に観たのはこの日のマリンステージのヘッドライナー、ブラー。
せっかくだからアリーナの前のほうのステージの近くで観たいという思いもあったけれど、無理して倒れちゃしかたないので、今回はステージ向かって左手のスタンド一階席を確保した。
二階席と違って風が通らず、とても暑いのにはまいったけれど、それでもステージの見晴らしはよくて、ライヴを観るには文句なしの良席だった。音楽自体を純粋にストレスなしで楽しむには、無理して混雑したアリーナに潜り込むより、こういうスタンド席のほうがいいかもって思った。
ブラーはセカンド・アルバムの頃からずっと聴いているにもかかわらず、実際にライヴを観るのはこれがまだ二度目だった。
前回は1995年の武道館だから、およそ三十年ぶり。
で、それほどひさびさに生で観たブラーの感想はというと――。
いや、だてに三十年以上のキャリアを誇っているわけではないなと。
まるでUKロックのいいとこどりをしたバンドだなって思った。
だって『Beatlebam』なんて、まるでビートルズみたいじゃん! シンプルなギターリフのイントロにつづくあっさりとしたAメロ、そののあとのとてつもなくメロディアスなBメロのサビ。そして最後はラウドでノイジーなアウトロ。
この一曲のなかにUKロックの良質な部分がこれでもかって詰まっている。こんなすごい曲だったのかと、生で聴いてみて改めて再認識した。
そんなゴージャスな曲があるのに、冒頭はパブ・ロックの流れを汲むような新曲『St. Charles Sauare』で始まる。二曲目もアルバム未収録のシングル曲『Popscene』(聴き込みが甘いのでどちらも曲名がわからず)。
すっかりベテランの域にあるのに、まったくリスナーに媚びていないその選曲は、ポップなバンド・イメージに反してとても硬派だった。翌日のリアム・ギャラガー(配信で観た)が最初からオアシス・ナンバーを連発していたのとは対照的だ。
【SET LIST】
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まぁ、冒頭の二曲こそ「えっ?」って感じだったけれど、その次がさきほどの『Beatlebum』で、そこから先は往年の名曲が惜しげもなく披露されていって、あらためていい曲多いなぁって思った。
個々の楽曲でとくに印象的だったのは『Tender』で、とろとろにメローなのを予想していたら、思ったより元気なアレンジで、いい意味で意表をつかれた。
そういや『Parklife』か『Girls and Boys』だったか忘れたけれど、デーモンが当時のぶ厚いジャージに着替えて出てきて、そのあとずっとその格好だったのも笑った。いやいや、それは暑いでしょう。着替えようよ。
新譜の『The Ballad of Darren』がリリースされたばかりということで、そのアルバムからの新曲が要所要所に配されていたのも好印象だった。
オープニングの『St. Charles Sauare』もそうだし、アルバムの中で個人的にもっとも好きな『Barbaric』と『The Narcissist』が、往年の代表曲に混じって、中盤から後半にかけてのここぞというタイミングで披露されたのにはぐっときた(いまどきの若者の言葉を借りれば「エモかった」)。新譜を大事にするバンドっていいよね。
スクリーンの演出は曲ごとに背景の色を変えたモノクロ映像(ベル&セバスチャンのアルバム・ジャケットのイメージ)が主で、メンバーの姿をスタイリッシュに映し出してゆく。とてもスマートな印象だった。
もう曲よし、見せ方よし。UKロックのいちばんいい部分だけをこれでもかって盛り込んだような素敵なステージだった。このバンドのライヴをこれまでにちゃんと観てこなかったのは大失敗だったんじゃないかって思うほど素晴らしさだった。こういうライヴを見せてもらっちゃうと、フェスはこれが最後だとか言いにくいなぁって思った。
そんなこの日のブラーのステージで唯一の不満は『For Tomorrow』を聴かせてもらえなかったこと。
本編でやらなかったから、アンコールにとってあるんだとばかり思っていたら、アンコールなしで終わってしまったから愕然とした。
しかもサマソニ恒例の花火もあがらないし。
そんなのあり??
まぁ、花火はともかく、ブラーといえば、やっぱ『For Tomorrow』でしょう?
朝からずっと頭の中で鳴っていた「ジャッジャッジャッ」ってあのイントロを生で聴けるものとばかり信じ切っていたこの気持ちをいったいどうしてくれるんだ?
うちの奥さん相手にそんな愚痴をこぼしながら帰路についた今年のサマソニだった。
(Sep. 10, 2023)
ずっと真夜中でいいのに
原始五年巡回公演「喫茶・愛のペガサス」/2023年9月22日(金)/相模女子大学グリーンホール
ずとまよの原始五年巡回公演「喫茶・愛のペガサス」。前日からスタートしたツアーの二日目を観た。会場は僕個人は初めての相模女子大グリーンホール。天候はあいにくのどしゃ降り。
今回のツアーはずばり、前回の『テクノプア』のバージョン違いって印象だった。お店屋さんごっこのコンセプトはそのままに、店舗をゲームセンターから喫茶店に変えてみたって感じ。
ライヴの流れも『テクノプア』に似通っていて、ACAねがお店のコンセプトを読み上げるMCがあったり、前回はガチャでランダムに決めていた日替わりメニューのコーナーが、今回はランチABCと称して、どれが聴きたいかお客さんの拍手の大きさで決める形式に変わっていたりしたけれど、基本的な流れはいっしょ。
アンコールの『サターン』で弾き語りのあとにインストのダンス・パートがあるアレンジだとか、『あいつら全員同窓会』で「お世話になってます」という歌詞にあわせて、メンバー全員で深々とお辞儀をするという演出も『叢雲のつるぎ』から継承していたし、全体的にこれまでにやってきたことをブラッシュアップした、ホール規模のステージの最新版って感じだった。
ずとまよ名物の豪華ステージセット、今回はステージ後方を隠す形で幕が張ってあって、開演前に見えているのは、左手のドラムセットとボーカル・スタンド、あとキーボードというシンプルなものだった。
もしかして今回のバンドは過去最少編成?――と一瞬だけ思ったものの、すぐにそんなことがあるわけないと気づく。だって『花一匁』をやるならばホーンは必須だ。だとしたら管楽器のメンバーがいるスペースが必要だし、いま見えているのはステージの一部だけなんだろうなと推測がついた。
ステージ中央の向かって左手には、クリームソーダやナポリタンなどの商品見本が並んだ、昭和レトロな喫茶店のショーケースが配置されていた。暗いステージにあってそれだけが光り輝いている。前回ツアーでは自動販売機があった場所だ。この辺もシリーズもの感が強い要因。
やがて開演時間になって客電がおちると、ステージにはよろよろと歩み出てくるメンバーがひとり(誰だか知らない)。砂漠で迷子になった人がオアシスを見つけたという設定らしく、その人がショーケースの前にあったベルをちりんちりんと鳴らすと、あら不思議、ステージの幕があがって、喫茶店が全貌を表すという趣向。
いや、たしかその幕(スクリーン)が上がる前に、真っ暗な状態でうにぐりとペガサスが飛び交う星座風のアニメーションが流れるという演出があったはずだけれど、すでに記憶が曖昧。うちの奥さんによると、そのときにBGMとしてかかっていたのが『魔法の天使クリーミーマミ』の曲らしい。でも残念ながら僕にはわからず。高校時代にリアタイで観ていたはずなのに(今年で四十周年だそうです)。不覚。
スクリーンに隠されていた喫茶店の建屋のセットは、ステージ真後ろにバーカウンターがあって、右手に四人掛けのボックス席という構造だった。エキストラでバーテンダーやお客さんも出入りしている。建物の屋上には巨大なサクランボが光を放っていた。茎の部分の緑色の電飾と本体の赤のコントラストが映える。
オープニング・ナンバーは『マリンブルーの庭園』。僕の記憶に間違いがなければワンコーラスだけ(ぼーっとしていて聞き逃した可能性あり)。
ACAねは喫茶店の屋上に、ホーンのふたりに左右から挟まれる形で登場した。今回はセット自体が隠されていたこともあって、いつものような突飛な登場の仕方はしなかった。――と思う(じつは凝った演出があったのに見逃したなんてことは……)。でもACAねの足元ではなぜだか羽毛が舞ってました。
ACAねの背中には羽根が生えていたから、天使かなにかのコスプレかと思ったら、ペガサスですって。もしかしてオープニングのアニメでうにぐりくんと戯れていたのはACAね自身か!――って思ったらなんだか笑えてきた。
【SET LIST(不正確)】
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バンドはドラム二人にベース二家本亮介、ギター菰口雄矢、キーボード、オープン・リール二人、ホーンが二人という構成(多分)。キーボードは村☆ジュンだったらしいのだけれど、この日は二階席だったので、距離があってよくわからなかった。
ACAねがステージに降りてきて次に歌った二曲目が『ミラーチューン』というのもサプライズ。このキラーチューンをまだ身体も温まらない序盤に聴かせてくれちゃうのはもったいなさすぎません? つづく三曲目も『お勉強しといてよ』だし。惜しげなさすぎる。
そのあと(順番の記憶があやしい)の『勘冴えて悔しいわ』は今回もショートバージョン。これを聴いて、今回は昭和歌謡ショーなコンセプトで、ワンコーラスだけ聴かすという企画なのかなとも思ったんだけれど、まぁこの曲の場合はおそらくライヴではセカンド・コーラスをカットするのが定番なんだろう(なぜかは知らない)。
『夜明けのキスミ』では、ラジオか有線から歌謡曲が流れてきたという趣向で、山口百恵や中森明菜なんかの曲を数曲つづけてワンフレーズだけメドレーで聴かせたあと、その曲へとつなげるという演出があった。昭和歌謡的って意味では、今回のツアーのコアとなるイメージ曲はこの曲なのかもしれない。
日替わりメニューのコーナーは、Aランチが「香ばしい木の実のおにぎり」、Bランチが「奥底に眠るなんとかのカレー」、Cランチが「薄っぺらい某のホットサンド」みたいな三択。本当はどれももっと長い名前だったけど、当然覚えられない。
曲はAが『雲丹と栗』、Bが『奥底に眠るルーツ』なんだろうなとは思ったけれど、Cだけは見当がつかなかった。
うーん、「薄っぺらい」って歌詞が出てくる曲があった気はするんだけれど、なんだったっけ?――と頭を悩ませていたら、拍手がいちばん大きかったのがそのCで、演奏されたのは『またね幻』。
ツーコーラス目の最後に「薄っぺらい歌」って歌詞が出てきたときに、あーこれかーって思った。わかんなかった自分がすごく残念。さんざん聴いてきたのに……。
曲は即興アレンジで、ACAねが菰口らのメンバーにいろいろ注文をつけていたけれど、いまとなると内容はもう忘却の彼方です。
後半戦では『低血ボルト』をようやくフルコーラス聴けたのがこの日の最大のトピック。イントロを聞いた瞬間に「来たっ!」って思って興奮した。
そのあとの『残機』は『叢雲のつるぎ』のときと同じく剣を振りながらのパフォーマンス。あの曲の小道具が剣ってのは今後も定番なんだろうか? とくに曲のイメージに合っているとも思わないので若干疑問。
『MIRABO』では屋上のサクランボ・オブジェがミラーボールに変化してびっくりだった。
本編最後の『綺羅キラー』はMori Calliopeのラップ・パート抜きバージョン。カリオペがソロを取るパートには、ACAねによる日本語のオリジナル・リリックが差し込まれていた。まぁ、なに歌っているんだか、まったく聞き取れませんでしたが。レアものだから、このライヴ・テイクの音源が欲しい。
アンコールではACAねがペガサスのコスプレ(?)から一転して、メイドカフェの店員風になっていたのもおもしろかった。
サード・アルバム『沈香学』リリース後、初のツアーだから、あのアルバムの全曲お披露目がメインかと思っていたのに、結局新譜からは八曲しかやらなかった。うち、この日が初披露となったのは、序盤の『馴れ合いサーブ』と、真ん中あたりで演奏された『上辺の私自身なんだよ』と、オーラスの『花一匁』だけ。――って書いてから、アルバム・リリース前に未発表だったのはその三曲だけだったことを思い出した。
まぁ、考えてみれば「原子五年巡回公演」と銘打ったデビュー五周年記念ツアーなのだから、新譜をお披露目するよりも、これまでの集大成というスタンスになるのは、いたって正しい姿勢なのかもしれないなぁ……などと思ったり。
そうそう、この日のライヴでいちばんの衝撃は、途中のMCで明かされた『喫茶・愛のペガサス』というツアータイトルの由来。
「私の好きなプリンスに『Prince』というアルバムがあるんですけど……」
――って、あー『愛のペガサス』ってプリンスのセカンド・アルバムの邦題かっ!
国内盤買わないもんで、そんなことすっかり忘れていた。
そーかー、ACAねさんもプリンスが好きなんだ。
自分がどうしてここまでずとまよが好きなのか、その理由の一端がわかった気がした。
(Oct. 09, 2023)
ストリート・スライダーズ
The Street Sliders TOUR 2023「ROCK'N'ROLL」/2023年9月29日(金)/LINE CUBE SHIBUYA
今年三度目にして最後の生スライダーズ。
あらためて過去のチケット半券コレクションを確認してみたら、僕はこれまでにスライダーズのライヴを七回しか観たことがなかった(内訳は1988年と1995年の武道館、1990年の野音、1994年のNHKホール、1996年のエレカシ対バン、2000年のリキッドと武道館ラストライブ)。
そんなやつが今年だけで三回ってのは、なんか熱烈なファンの方々に申し訳ないことをした気分だったりする。どうもすみません。
とはいえ、これも長年かけて培ってきたチケット運のなせる技。
スライダーズが好きだった若い頃って、基本が出不精な僕は、正直あまりライヴが好きじゃなかったから、観た回数が少ないのは致し方ないところ。
考えてみれば、「はじめての野音」を観たのも友人に誘われてだったし(いやしかし、スライダーズとエレカシの初めての野音を同じ年に観ている自分にびっくりだよ。ありがとう、いまはどこにいるかもわからない友人M)、その後はその友人とも縁が切れてしまい、当時はうちの奥さんがスライダーズを聴かなかったこともあり、観にゆくのは基本ひとりだったから、なかなか重い腰があがらなかった。
それに対して、それから四半世紀を経たいま現在の僕は、それなりの数のライヴ経験をこなしてきたこともあって、当時とはずいぶんとスタンスが変わっている。
かつてはどんなライブでもうちの奥さんと一緒にゆくのがあたりまえだったから、ひとりで観にゆくことってほとんどなかったけれど、子育て期(経済的・物理的要因からひとりで観にゆかざるを得ない状況が増えた)を経たことで、いつのまにか好きなアーティストのツアーはひとりだろうとなんだろうと観にゆくのがあたりまえって感覚になっている。
何度も書いている気がするけれど、音楽業界に縁のない仕事をしているのに、僕ぐらいライブを観ている中高年ってあまりいないだろうと思う。まぁ、老後の貯えなんか知ったこっちゃないって勢いで散財してきた結果ではあるんだけれども。
いずれにせよ、そうやって持ち前の出不精を克服して、なけなしの貯金を切り崩し、同世代のほかの人より多くのライブに足を運んできたことに対する神様からのご褒美なんだと思う。僕は確実にひとよりチケット運に恵まれている。
ツアーといってもわずか七公演。そのうちおそらくもっとも競争率が高かっただろうLINE CUBE SHIBUYA(旧・渋谷公会堂)でのチケットが手に入ったのも、そんな長年にわたって培ってきたチケット運があったらこそだ。
ということで、いささかつまらない前置き(自慢話?)が長くなってしまったけれど、いって参りましたストリート・スライダーズの新・渋公公演。
【SET LIST】
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まぁ、せっかくのレア公演とはいっても、セットリストは武道館から数曲入れ替えがあっただけだし、衣装も色違いで毎回だいだい一緒だしで、三度目となるとさすがに新鮮さが薄れるのは致し方ないところ(贅沢な話だ)。
二十年ぶりでなにもかもが新鮮だった豊洲、バックステージ席のせいで過去に観たことがない特異なライヴ体験だった武道館と比べると、この日のスライダーズはいたって通常運転って感じだった。
改築後の渋公でライヴを観るのは初めてだったけれど、僕らの席は一階席の真ん中よりちょっとうしろで、段差がしっかりあるせいか、視野が広くて遮るものがなにもなく、とても観やすかった。おかげで今年のスライダーズの三公演では、この日がもっとも自然体でライヴを楽しめた気がする。
注目のオープニングはプレビューのときと同じ『あんたがいない夜』。――と思ったら、つづけて武道館のオープニング曲だった『チャンドラー』も聴かせてくれた。どちらの曲が聴きたいかと問われると困るので、両方を聴かせてくれたこの日のメニューはとても親切だった。
まぁその分、『BABY BLUE』がカットされていたわけだけれども。どれがいいかと問われると、やっぱこの日の二曲に軍配が上がる。
そのあと『Angel Duster』と『Let's go down the street』とつづいて、前の二回は『one day』だったその次にも今回は差し替えがあった。
それがなんと『道化者のゆううつ』だ~!! うおお~!!
大学時代の僕にとって、スライダーズのバラードといえばやっぱこれという一曲。『one day』も大好きだけれども、すでに二回聴かせてもらっていたので、ここでのメニューの変更は嬉しかった。やっぱスライダーズのファンとしては、この曲を生で聴かずして死ねまい。これでもう思い残すところはない(――なんてこともない)。
その次が「ブルースを聴いてくれ」といって紹介された『すれちがい』。あらためてこうして落ち着いて聴いてみると、序盤はずいぶんとスローな曲が多い印象だった。
で、その次が『道化者のゆううつ』と並ぶこの日の個人的なクライマックス。
歌い出しは「そこから離れたら/わからないのさ/2001トンのハンマー/空から落ちてくる」……って。おおお~『VELVET SKY』だっ!!!!
個人的には初めて買ったスライダーズのアルバムで、それゆえもっとも愛着のある『天使たち』からの一曲だけれど、まさか『Boys Jump The Midnight』や『Special Women』を差し置いて、この曲を聴かせてもらえるとは思わなかった。
まぁ、ここでもかわりに『PEACE MAKER』がカットされていたので、「そちらのほうが……」という人もいたんだろうけれど、過去二回でその曲を聴かせてもらっている僕としてはこれには大興奮。最高に嬉しかった。
そのあとに『ありったけのコイン』があって前半戦は終了。
つづいて武道館と同じくJOY-POP経由の新曲二曲を聴かせたあと、この日はジェームズの『Hello Old Friends』という流れだった。
驚いたのは蘭丸の『天国列車』がなかったこと。
「おや、蘭丸コーナーはもっと後ろに持ち越し?」と思っていたら、なんとこの日は蘭丸の歌を聴けないまま終了してしまった。えー、そんなのあり?
あとで確認したら、今回のツアーは蘭丸とジェームズが一公演ずつ、交替でボーカルをつとめることになっているらしかった。ツアー初日が蘭丸、二日目がジェームズだったので、四公演目となるこの日はジェームズの番。
まぁ、スライダーズのライヴでハリー以外がボーカルをつとめるのは一曲で十分だってことなんだろう。そういう意味では、ふたりの歌が両方聴けた武道館こそがレアだったってことなる。
一緒に行ったうちの奥さんはニューオリンズ好きなので、『Hello Old Fried』のセカンドラインの曲調はもしかして好みかもなって思っていたら、本当にあとでそう言っていたのがおかしかった。この日いちばんこの曲を喜んだのはうちの奥様かも。
ということで残念ながら蘭丸の曲はカットされたけれど、当然その分は追加があった。それが『マスターベーション』!!
プレビュー・ショーのアンコールで演奏され、武道館では披露されなかったこの曲をこの位置に持ってきた演出には、お~と思った。
ちなみに蘭丸ボーカルの回は、このタイミングで『カメレオン』が演奏されたらしいです。いや、そこは『カメレオン』で統一してもらった方が喜ぶ人が多いのでは……という気がしないでもない。
そのあとの『So Heavy』から以降――『Back To Back』と『風の街に生まれ』で本編終了、アンコールが『のら犬にさえなれない』と『TOKYO JUNK』――は武道館とまったく同じメニューだった。
まぁ、そこはスライダーズの王道中の王道だから変えようがないんだろう――って、いや、本編の締めが『風の街に生まれ』ってのは、やはりちょっと意外だわ。新曲の『曇った空に光放ち』がけっこう近いテイストの曲なので、彼らの最新モードはそういう曲なのかもしれない。
以上、ということで曲数は武道館と同じ全十七曲で、差し替えられたのが四曲というのが今回のツアーの内容。
この一年に三回も生でスライダーズを聴いてみて感じたのは、その4ピースバンドとしての絶妙なアンサンブルが生み出すグルーヴの気持ちよさと、ハリーのボーカリストとしての力強さ。
ハリーって決して美声というわけではないんだけれど、その声の通りのよさにはなんともいえない気持ちよさがある。二本のエレクトリック・ギターが絡みあうところへ唯一無二のだみ声がざっくりと力強く突き抜けてゆく。そこんところはエレカシにも共通する。こういうのが大好物な俺って昔から趣味の一貫性はあるよねって思った。
ということで、これにて2023年のスライダーズ復活イベントはすべて終了~。正直なところ、聴きたい曲はもっともっとあるので、これで最後なんていわずに、ゆっくりでいいからまたツアーしてくれないかなぁと心から願ってます。
(Oct. 15, 2023)
宮本浩次
ロマンスの夜/2023年11月28日(火)/東京国際フォーラム・ホールA
『ロマンスの夜』ふたたび――。
まさか宮本の歌謡ショーをもう一度観ることになろうとは思ってもみなかった。あれは一度っきりのスペシャル・イベントだと思っていたのに、なにげに今後もシリーズ化されそうな勢いなんですが……。
でもまぁ、宮本がやるというからには観にいかないわけにはいかない。
前回とまったく同じだったらやだなぁ……せめてラストは『カサブランカ・ダンディ』のかわりに『サムライ』にしてくれないかなぁ……とか思いながら行ってまいりました、有楽町・東京国際フォーラム・ホールA。
まぁ、今回は公演の直前に『Woman "Wの悲劇"より』が配信リリースされたこともあって、前回とまったく同じってことがないのはあらかじめ確定していたのが幸い。少なくてもその曲は必ずやるだろうから、前回とは一曲だけは違うはず――と思っていたら、なんと違うのはその一曲だけじゃなかった。
そもそも今回はコンセプトが違う。
前回はこれまでに宮本がカバーしてきた女性歌手の曲をすべて聴かせる純然たるカバー・コンサートだった。
まぁ、最後に『冬の花』とか、沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』とか聴かせてくれたけれど、それはこれまでに披露してきた持ち歌を全曲歌い終えたあとのあくまでおまけ。メインはきちんと女性歌手の歌謡曲だった。
それに対して今回は、始まりの『ジョニィへの伝言』こそ前回と同じだったけれど、そのあと若干曲順をいじってきたと思ったら、四曲目でいきなり『きみに会いたい』が飛び出す。えっ? オリジナルじゃん?
――いやまて。とりあえずこれは高橋一生に提供するために書いた曲だった。だからセルフカバーと考えれば、ぎりカバーというコンセプトに適わなくも……。
とか思っていたら、第一部の最後のほうで今度は僕の知らない曲を歌い出す宮本。
「これで愛なら抱くんじゃなかった」という歌詞の、いかにも昭和な歌謡曲。
この歌詞はどう考えても女性歌手の曲じゃないよな??
帰り道にネットで歌詞を検索して確認したところ、答えは沢田研二の『ロンリー・ウルフ』でした(知らない)。宮本、ジュリー大好きだな。
いずれにせよ、自分が知らない曲を宮本がライヴで歌ってくれるというシチュエーションは、とってはとてもひさしぶりで新鮮だった。未発表の新曲をライヴで初めて聴いたのって、いつが最後だか、とんと記憶にないし。この一曲が聴けただけでも、今回のコンサートに足を運んだ甲斐があったといえた。
で、この時点で「女性歌手の歌謡曲を歌うカバーコンサート」というコンセプトから「女性」が取れたと思ったら、つづく第二部の一曲目は――。
なんとエレカシの『やさしさ』!
でもって第二部の最後は――『悲しみの果て』!!
この時点ですでにカバーコンサートではない。
でもって第三部では『あなた』のあとに『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』を披露。この曲ではメンバー紹介のアドリブ・コーナーもあるし、通常の宮本ソロのフォーマットそのままだった。
ということで二回目の『ロマンスの夜』は、タイトルこそ前回と同じだったけれど、内容はカバー曲を中心に聴かせる、宮本のソロ・コンサートへとささやかな変貌を遂げていた。おかげで小さな意外性があちこちにあって、前回とは違った楽しさがあった。
違ったのは選曲だけではなく演出も、だった。
前回はフランス窓のセットがあったり、女性ダンサーが登場したりと、いかにも歌謡ショーって演出が施されていたけれど、今回は前回同様の『木綿のハンカチーフ』がモチーフの電車ガタゴト演出や『冬の花』での赤い花吹雪こそあれ、それ以外の演出は皆無だった(少なくてもすでに僕の記憶になし)。演出は基本ライティングだけという、エレカシのころから馴染みのシンプルなスタイルだった。
で、これがよかった。宮本のパフォーマンスがあれば、余計な演出なんて、本当にいらない。なんの演出もないからこそ、彼の破格のボーカルだけがビビッドに伝わってくる。それでもう十分なんだよねぇ。
ということで、変にカバーというコンセプトにこだわり過ぎずに、自前の曲もまじえてその自慢の歌声をたっぷりと聴かせる宮本は、なんとも自由で楽しそうだった。このコンサートは歌謡曲寄りの楽曲を好む一部の宮本推しの人たちにとっては理想的なフォーマットだったんじゃないかという気がする。
なんで『ロマンスの夜』をまたやろうと思ったのかは知らないけれど、序盤のMCで「有楽町ベイベー」と叫んでいるのをみて、もしかして歌謡曲だから『有楽町で逢いましょう』にもじって、この場所でやりたかったのかなと思った。前回も当初は東京国際フォーラムでやる予定だったのが、宮本が新型コロナに感染したため、日程変更で東京ガーデンシアターに振替になってしまったので、ぜひもう一度、今度こそ有楽町で……って。そう思ったのかなって思いました。
【SET LIST】
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この日の僕らの席は二階席のいちばん上のほうで、おそらくこの会場でもっともステージが遠い席の一部だった。珍しくチケット運なし。
でも場所がステージ真正面で、それが幸い。宮本を真ん中に円を描くように集まったバンドの仲間たち――前回と同じ小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、須藤優の四人――を真上から見下す形になって、とてもライヴとしての臨場感があった。
バンドの音もこの距離だといまいち音がまとまりを欠いて、いつもの鉄壁なアンサンブルとは違って聴こえたけれど、僕にはかえってそれがよかった。宮本のソロではこの日の音がいちばん生っぽくて好きだった。個々のメンバーの技量も冴えて、いやぁ、いいバンドだなぁって思いました。いまさらだけれど、玉田豊夢のドラム、好きかもしんない。
そうそう、演出はないと書いたけれど、背景のスクリーンには宮本の姿が映し出されていたから、遠くの席からもある程度、宮本の姿がちゃんと見えたのもよかった。その点で映像なしだった過去のソロライヴよりもユーザーフレンドリーになっていた。
セットリストは最近のエレカシと同じく三部構成。まぁ、第三部は長めのアンコールだったのかもしれない。観客にはどちらだかわからなかったこともあり、第一部と第二部のあいだには起こらなかった手拍子が、第三部を待つ前には起こっていたから、印象的にはアンコールっぽかった。
途中までずっと座ったままだったお客さんが『ロマンス』が始まったとたんに席を立つというパターンも前回同様。もともと『ロマンス』でいきなり立つのに釈然としていなかった僕は、今回は席が遠かったこともあり、まわりが立っても坐ったままでいた。
でも、いつものことながら、坐ったままだとステージが見える見えないという以前に、音が人に遮られてこもった感じになってしまうのが気持ちよくないんだよねぇ……。
ということで第三部の『あなたのやさしさを~』ではもう意地を張るのはやめて立ちました。やっぱダンス・ミュージックは立って踊りながら聴いたほうが気持ちいい。
前回は歌詞を忘れて失笑を買った『恋人はサンタクロース』も今回は問題なし。
最新曲の『Woman "W"の悲劇より』はそのあとに演奏された。
ということで二度目の『ロマンスの夜』は、初公開のカバー二曲、宮本オリジナル五曲を含む二十三曲を披露して本編終了。割愛されたカバー曲は五曲。本編最後の曲は『冬の花』だった。
でもって、そのあとに披露されたアンコールの締めの一曲は今回も沢田研二。
しかも曲目は『サムライ』だ~~~~!!!!!!
イントロが鳴った瞬間に、小さくガッツポーズをしてしまった。
宮本にこの曲を生で聴かせてもらうの、調べてみたら二十四年ぶりだった(前回は1999年の野音)。
聴けたら嬉しいなという思いに、アーティストがきっちりと答えてくれる。
いやはや、ファン冥利に尽きました。
(Dec. 10, 2023)
ずっと真夜中でいいのに
原始五年巡回公演「喫茶・愛のペガサス」/2023年12月19日(火)/東京ガーデンシアター
「喫茶・愛のペガサス」ツアー最終日!――のつもりが、その後に同会場で二日分の追加公演が発表され、年明けには沖縄でも追加公演があり、さらにはACAねの体調不良により延期になった京都公演も残っているという。なんかちょっと中途半端なタイミングで観ることになった、2023年最後のずとまよライヴ。
同じツアーを九月にも観ているので――抽選にはずれたら嫌だから、念のために二公演申し込んだらどちらも取れてしまった――新鮮さはいまいちかと思ったら、そうでもない。寄る年波のせいで、見事に忘れている。それこそオープニング・ナンバーが『マリンブルーの庭園』だったことさえ忘れていた。以降の曲順もしかり。
まぁ、印象的な演出の数々はさすがに記憶にあったけれど、それも今回は二度目だから余裕をもって楽しめた。この日は二階バルコニー席の左手で、前回とはアングルが違ったので、前回は巨大サクランボが変身したんだと思っていた『MIRABO』のミラーボールが、じつはサクランボの前にスタッフが人力で運び込んでいただけだったことがわかったりもした(驚いて損した)。
二度目にあらためて聴いてみると、今回のツアーってアレンジがこれまでとけっこう違っている感じだった(アレンジというかイントロが?)。『お勉強しといてよ』のホーンのイントロとか意外性があったし、『元素どろ団子ツアー』からの流れを汲んだ『不法侵入』のアコギ弾き語りからバンド・アレンジになるバージョンとかも、この先を考えると多分貴重だと思われる。
もっとも違いが顕著だったのは、日替わりランチメニューのコーナー。前日が『またね幻』だったそうで、この日はその曲が差し変わっていた。で、かわりのメニューは『グラスとラムレーズン』。
個人的には『雲丹と栗』か『奥底に眠るルーツ』が聴きたかったんだけれど――ツアーの途中で『フロントメモリー』もやっていたらしい(マジですか?)――どうしたってここは多数決の結果がその曲になってしまうのも致し方なし。アレンジは本格中華風とのことでおかしかった。ちゃんとそれっぽくアレンジしてみせるバンドマンの皆様すごい。
そういえば、前回は村☆ジュンだったキーボードがこの日は岸田勇気だった。そのほかのメンバーの違いは――そもそも前回のメンバーをきちんと把握していないこともあり――残念ながらわからず。そういえば、ドラムのよっちこと河村吉宏がカースケさんの息子だって、今年になって初めて知った。
【SET LIST】
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後半は『マイノリティ脈絡』、『低血ボルト』、『残機』とつづいたところがこの日の僕にとってのクライマックス。もう踊らずにはいられない。
これまでは「萎んだ脳で歌います」というACAねのMCで始まっていた『残機』が、この日は二家本くんのベース・ソロのあと、ACAねの「やん」のひとことで始まったのには、むちゃくちゃ痺れました。超カッコよかった。
本編ラストの『綺羅キラー』ソロ・バージョンでは、ACAねのラップ・パートが思っていたよりメロディアスだった。マジでこのバージョンもくりかえし聴きたい。
アンコールのサプライズは『眩しいDNAだけ』のやり直し。
この曲、ライヴ本編では歌い始めにACAねがステージにいなくて、サビ前にようやく登場するというハプニングがあった。
どういう演出なんだろうと不思議に思っていたら、単なる機材トラブルで歌えなかっただけらしく、それを気にしたACAねがアンコールでその曲をワンコーラスだけ再演してみせてくれた。しかもそのままのアレンジでは芸がないからと、日替わりメニューと同じ中華アレンジでもって。
こういうサービス精神も含めて、ACAねってほんとうに素敵。
ということで、この日のライヴは、そのあと『あいつら全員同窓会』から新曲『花一匁」という問答無用の流れで終幕。名目上のツアー最終日だったことを受けて、終演後には今回のツアーを締めくくる来年五月のアリーナ公演2デイズの発表があった。
タイトルは『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』。
来年もずとまよ熱は冷めそうにない。
(Jan. 13, 2024)