エレファントカシマシ
新春ライブ2025/2025年1月3日(金)/日本武道館

2025年は三箇日が明けないうちに、エレカシの新春ライブ2デイズ@日本武道館でスタート!
このところ宮本のソロばかりで、エレカシを最後に観たのは2023年三月の有明アリーナだから、じつに二年ぶり近くになる。こりゃ絶対に観逃すわけにはいかないと、二公演とも申し込んだら、両方とも取れてしまった。でもって、取れたのは二公演ともアリーナ席だった。しかも二日目はなんと最前列。
ん、もしかしてエレカシそれほど人気がない?――と思ったりしたのだけれど、うちの奥さんの友人は同じように二公演申し込んだのに片方外れたというし、取れたのも二階席だという話なので、単に僕らのチケット運があいかわずいいという話らしい。
ということで、正月早々観てきました、ひさしぶりのエレファントカシマシ。新春武道館ライブの一日目。
この日の席はアリーナとはいってもうしろのほうで、ステージ向かってななめ左寄り。ステージはよく見えたものの、音の分離が悪く、音響はいまいちだった。
武道館というと客席を三百六十度解放して行われた三年前の公演のアングラ感が強烈な印象で残っているけれど、今回はあのときよりは良心的だった。
なんたって、ステージの左右にスクリーンがある。映像演出とかはなく、宮本を中心としたメンバーの姿を映し出すだけだけれども、それだけでもう印象が段違い。ちゃんと遠くの席のお客さんにも自分と仲間たちの姿を見せようという姿勢に、宮本がソロ活動を経て身につけたサービス精神が表れている気がした。
その辺の変化はセットリストにも表れていた。だってオープニングが『大地のシンフォニー』ですもん。こんなメローな曲でエレカシのライブが始まることがあるなんて、想像もしなかった。
エレカシって一曲目が比較的固定され気味で、いつもだと「今日はこれかぁ」って感じなので――僕が予想(というか期待)していた曲は『俺の道』――オープニングにこの曲を持ってきた意外性は過去一だった。
まぁ、今回のライブには金原千恵子ストリング楽団の四名様が参加していて、はやくもこの一曲目で登場して、以降も過半数の曲に参加していたので、金原さんたちの存在が少なからず選曲に影響していた気はする。
【SET LIST】
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『大地のシンフォニー』のあとは『新しい季節へキミと』に『悲しみの果て』と、僕個人にとっては愛着のない曲が並んだので、今回はもしかして期待外れかと思ったら、そこから先が振るっていた。
「とっておきのバラードをお届けします」みたいなズレたコメントのついた『デーデ』、そして『星の砂』というお馴染みのメドレーを聴かせたあとに、いきなり飛び出したのが『珍奇男』!
――この曲がこんな序盤に演奏されたことってあったっけ?
この曲ではいつになく「おっとっと」を連発していた宮本が、次に聞かせてくれたのが「後楽園からの帰り道を歌った」みたいな紹介で始まった『月と歩いた』! この『浮世の夢』メドレーはレアすぎた。基本弾き語りで途中一度だけバンドアレンジになる「ドライブたのしブブッブー!」のところもおもしろすぎた。
嬉しいことに、さらにもう一曲、エピック時代のナンバーがつづく。それもストリングスつきの深みのあるアレンジで味わいの増した『シャララ』! この曲が僕にとってのこの日のクライマックスだった(一度目の)。いやぁ、最高でした。
そのあと『今宵の月のように』からは再び売れて以降の路線へ戻る。金原楽団がゲストのときの定番『リッスントゥザミュージック』に、日本の名曲『翳りゆく部屋』ときて、爆発的な歌いだしが最高にカッコいい『RAINBOW』、そして『ガストロンジャー』という怒涛の攻めで第一部が終了。
ここまでわずか十二曲ながら、メローでポップなオープニングから、エピック期のやんちゃな楽曲を挟んで、最大のヒット曲や珠玉のカバー曲を聴かせた上で、圧巻のアッパーチューンで締めるという構成が見事。エレファントカシマシというバンドの懐の広さを見せつける、バラエティ豊かで濃厚な第一部だった。これだけで終わっても文句ないかもって充実度だった。
この日のサポートはキーボードがソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉で、ギターが最近ずとまよでの活動が激減した佐々木“コジロー”貴之。
この二人の演奏をエレカシで聴けるってのも、僕としてはポイントが高かった。ソウル・フラワーとずとまよでお馴染みのプレーヤーをエレカシのステージで一緒に観れるなんて。この会場で二人の共演をいちばん喜んでいるのはおそらく俺だろうなって思った。
奥野真哉はソウル・フラワーだとシンセの音作りが人工的な気がして、絶対的に好きとはいいきれないのだけれど、エレカシではオルガンとピアノを中心としたオーソドックスな音作りが中心なのが好印象だった。まぁ『so many poeple』のピコピコしたイントロがいつになく目立っていたのには、なるほど奥野っぽいかもって思ったりしたけれど。
そういや、『リッスントゥザミュージック』では、後半にバンドアレンジで盛り上がるまでの演奏が、奥野氏のオルガンとコジローくんのアコギ、そして金原四重奏のストリングスだけで、エレカシのオリジナル・メンバーがずっとお休みってのもおかしかった。エレカシの正規メンバーなのに仕事が少ない。
つづく第二部は『桜の花、舞い上がる道を』から始まる、エレカシのベストヒットメドレー的な構成。
振り返ってみると、ここでの十一曲がほぼすべてシングル曲というのがすごい。唯一『ファイティングマン』だけが例外で――シングルじゃなかったのか!――あとはすべてシングル曲。ほかはともかく、ラストの『男は行く』までがシングルというのが普通じゃない(あれをシングルに切る宮本は常軌を逸している)。エレファントカシマシのキャリアを総括するような、そのバラエティの豊かさとポップさに感心せずにはいられない。
第二部の最後のほうで演奏された『Destiny』と『愛すべき今日』――後者は不覚にもタイトルを思い出せなかった――がシングルなのにもかかわらずレア曲な印象を受けてしまうあたりも、エレカシのキャリアの長さを物語っていると思った。あまり好きな曲ではないんだけれど、構成の妙もあって今回のこの二曲はちょっといい感じだった。
その二曲のあとの『ファイティングマン』もよかった。もったいつけずにあっさりと始まったのには「え、もう終わり?」という意外性があったし、演奏もいつもよりソリッドでクールな感じがしてカッコよかった。
で、それで終わりかと思ったら、そのあとにもう一曲ある。それが『男が行く』!
いやぁ、この選曲はこたえられない。そうそう、武道館だもんね。この曲やんなきゃだよな、やってくれてありがとー!――って思った。ほんと、この曲の演奏の迫力と宮本のボーカルの破格さときたら……。
この曲で本編を終了したあと、ほとんど待ち時間なしで再登場してラストのアンコールはもちろん『待つ男』!!
『男は行く』ではライティングがただ明るいだけでノーギミックだったのに対して、この曲は対照的に真っ暗。ただ宮本の顔だけが赤いライトに浮かび上がるところに鬼気迫るものがあった。この最後の二曲『男は行く』と『待つ男』には、宮本浩次というボーカリストの尋常ならぬ凄さが凝縮されていた。
チケットが取れなかった人には申し訳ないけれど、ライブ前には「なにも新年早々同じライブを二回も観なくてもいいんだけれどな……」とか思っていたくせに、この日のライヴを観たあとは、翌日もう一度このステージを観られる俺って本当に幸せもんだよなぁと思っていたりして……。
現金なことこの上なしの新年三日目だった。
(Jan. 13, 2025)