Coishikawa Scraps / Music

2025年のコンサート

Index

  1. エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan. 3, 2025)
  2. エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan. 4, 2025)
  3. 米津玄師 @ 東京ドーム (Feb. 26, 2025)
  4. ずっと真夜中でいいのに。 @ 代々木第一体育館 (May. 17, 2025)
  5. ずっと真夜中でいいのに。 @ 代々木第一体育館 (May. 18, 2025)

エレファントカシマシ

新春ライブ2025/2025年1月3日(金)/日本武道館

 2025年は三箇日が明けないうちに、エレカシの新春ライブ2デイズ@日本武道館でスタート!

 このところ宮本のソロばかりで、エレカシを最後に観たのは2023年三月の有明アリーナだから、じつに二年ぶり近くになる。こりゃ絶対に観逃すわけにはいかないと、二公演とも申し込んだら、両方とも取れてしまった。でもって、取れたのは二公演ともアリーナ席だった。しかも二日目はなんと最前列。

 ん、もしかしてエレカシそれほど人気がない?――と思ったりしたのだけれど、うちの奥さんの友人は同じように二公演申し込んだのに片方外れたというし、取れたのも二階席だという話なので、単に僕らのチケット運があいかわずいいという話らしい。

 ということで、正月早々観てきました、ひさしぶりのエレファントカシマシ。新春武道館ライブの一日目。

 この日の席はアリーナとはいってもうしろのほうで、ステージ向かってななめ左寄り。ステージはよく見えたものの、音の分離が悪く、音響はいまいちだった。

 武道館というと客席を三百六十度解放して行われた三年前の公演のアングラ感が強烈な印象で残っているけれど、今回はあのときよりは良心的だった。

 なんたって、ステージの左右にスクリーンがある。映像演出とかはなく、宮本を中心としたメンバーの姿を映し出すだけだけれども、それだけでもう印象が段違い。ちゃんと遠くの席のお客さんにも自分と仲間たちの姿を見せようという姿勢に、宮本がソロ活動を経て身につけたサービス精神が表れている気がした。

 その辺の変化はセットリストにも表れていた。だってオープニングが『大地のシンフォニー』ですもん。こんなメローな曲でエレカシのライブが始まることがあるなんて、想像もしなかった。

 エレカシって一曲目が比較的固定され気味で、いつもだと「今日はこれかぁ」って感じなので――僕が予想(というか期待)していた曲は『俺の道』――オープニングにこの曲を持ってきた意外性は過去一だった。

 まぁ、今回のライブには金原千恵子ストリング楽団の四名様が参加していて、はやくもこの一曲目で登場して、以降も過半数の曲に参加していたので、金原さんたちの存在が少なからず選曲に影響していた気はする。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 大地のシンフォニー
  2. 新しい季節へキミと
  3. 悲しみの果て
  4. デーデ
  5. 星の砂
  6. 珍奇男
  7. 月と歩いた
  8. シャララ
  9. 今宵の月のように
  10. リッスントゥザミュージック
  11. 翳りゆく部屋
  12. RAINBOW
  13. ガストロンジャー
    [第二部]
  14. 桜の花、舞い上がる道を
  15. ズレてる方がいい
  16. 笑顔の未来へ
  17. so many people
  18. 友達がいるのさ
  19. 俺たちの明日
  20. yes. I. do
  21. Destiny
  22. 愛すべき今日
  23. ファイティングマン
  24. 男は行く
    [Encore]
  25. 待つ男

 『大地のシンフォニー』のあとは『新しい季節へキミと』に『悲しみの果て』と、僕個人にとっては愛着のない曲が並んだので、今回はもしかして期待外れかと思ったら、そこから先が振るっていた。

 「とっておきのバラードをお届けします」みたいなズレたコメントのついた『デーデ』、そして『星の砂』というお馴染みのメドレーを聴かせたあとに、いきなり飛び出したのが『珍奇男』!

 ――この曲がこんな序盤に演奏されたことってあったっけ?

 この曲ではいつになく「おっとっと」を連発していた宮本が、次に聞かせてくれたのが「後楽園からの帰り道を歌った」みたいな紹介で始まった『月と歩いた』! この『浮世の夢』メドレーはレアすぎた。基本弾き語りで途中一度だけバンドアレンジになる「ドライブたのしブブッブー!」のところもおもしろすぎた。

 嬉しいことに、さらにもう一曲、エピック時代のナンバーがつづく。それもストリングスつきの深みのあるアレンジで味わいの増した『シャララ』! この曲が僕にとってのこの日のクライマックスだった(一度目の)。いやぁ、最高でした。

 そのあと『今宵の月のように』からは再び売れて以降の路線へ戻る。金原楽団がゲストのときの定番『リッスントゥザミュージック』に、日本の名曲『翳りゆく部屋』ときて、爆発的な歌いだしが最高にカッコいい『RAINBOW』、そして『ガストロンジャー』という怒涛の攻めで第一部が終了。

 ここまでわずか十二曲ながら、メローでポップなオープニングから、エピック期のやんちゃな楽曲を挟んで、最大のヒット曲や珠玉のカバー曲を聴かせた上で、圧巻のアッパーチューンで締めるという構成が見事。エレファントカシマシというバンドの懐の広さを見せつける、バラエティ豊かで濃厚な第一部だった。これだけで終わっても文句ないかもって充実度だった。

 この日のサポートはキーボードがソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉で、ギターが最近ずとまよでの活動が激減した佐々木“コジロー”貴之。

 この二人の演奏をエレカシで聴けるってのも、僕としてはポイントが高かった。ソウル・フラワーとずとまよでお馴染みのプレーヤーをエレカシのステージで一緒に観れるなんて。この会場で二人の共演をいちばん喜んでいるのはおそらく俺だろうなって思った。

 奥野真哉はソウル・フラワーだとシンセの音作りが人工的な気がして、絶対的に好きとはいいきれないのだけれど、エレカシではオルガンとピアノを中心としたオーソドックスな音作りが中心なのが好印象だった。まぁ『so many poeple』のピコピコしたイントロがいつになく目立っていたのには、なるほど奥野っぽいかもって思ったりしたけれど。

 そういや、『リッスントゥザミュージック』では、後半にバンドアレンジで盛り上がるまでの演奏が、奥野氏のオルガンとコジローくんのアコギ、そして金原四重奏のストリングスだけで、エレカシのオリジナル・メンバーがずっとお休みってのもおかしかった。エレカシの正規メンバーなのに仕事が少ない。

 つづく第二部は『桜の花、舞い上がる道を』から始まる、エレカシのベストヒットメドレー的な構成。

 振り返ってみると、ここでの十一曲がほぼすべてシングル曲というのがすごい。唯一『ファイティングマン』だけが例外で――シングルじゃなかったのか!――あとはすべてシングル曲。ほかはともかく、ラストの『男は行く』までがシングルというのが普通じゃない(あれをシングルに切る宮本は常軌を逸している)。エレファントカシマシのキャリアを総括するような、そのバラエティの豊かさとポップさに感心せずにはいられない。

 第二部の最後のほうで演奏された『Destiny』と『愛すべき今日』――後者は不覚にもタイトルを思い出せなかった――がシングルなのにもかかわらずレア曲な印象を受けてしまうあたりも、エレカシのキャリアの長さを物語っていると思った。あまり好きな曲ではないんだけれど、構成の妙もあって今回のこの二曲はちょっといい感じだった。

 その二曲のあとの『ファイティングマン』もよかった。もったいつけずにあっさりと始まったのには「え、もう終わり?」という意外性があったし、演奏もいつもよりソリッドでクールな感じがしてカッコよかった。

 で、それで終わりかと思ったら、そのあとにもう一曲ある。それが『男が行く』!

 いやぁ、この選曲はこたえられない。そうそう、武道館だもんね。この曲やんなきゃだよな、やってくれてありがとー!――って思った。ほんと、この曲の演奏の迫力と宮本のボーカルの破格さときたら……。

 この曲で本編を終了したあと、ほとんど待ち時間なしで再登場してラストのアンコールはもちろん『待つ男』!!

 『男は行く』ではライティングがただ明るいだけでノーギミックだったのに対して、この曲は対照的に真っ暗。ただ宮本の顔だけが赤いライトに浮かび上がるところに鬼気迫るものがあった。この最後の二曲『男は行く』と『待つ男』には、宮本浩次というボーカリストの尋常ならぬ凄さが凝縮されていた。

 チケットが取れなかった人には申し訳ないけれど、ライブ前には「なにも新年早々同じライブを二回も観なくてもいいんだけれどな……」とか思っていたくせに、この日のライヴを観たあとは、翌日もう一度このステージを観られる俺って本当に幸せもんだよなぁと思っていたりして……。

 現金なことこの上なしの新年三日目だった。

(Jan. 13, 2025)

エレファントカシマシ

新春ライブ2025/2025年1月4日(土)/日本武道館

 エレカシ新年ライブ二日目。

 開演が前日よりも一時間早かったので、まだ明るいうちに武道館に着いた。

 この日の席はアリーナ一列目!――とはいっても、左手の隅のほうで、真正面にあるのは左のスクリーンとスピーカーだったので、特等席とまではいえなかった。

 前日はステージと左右のスクリーンが均等に視界に入る席だったのに対して、この日はステージを見るにはほぼ横を向く形になって、目の前にあるスクリーンは否応なく視野から外れる。

 要するにステージを見るか、スクリーンを見るか、二者択一を迫られる席だった。僕の右となりにいた女性(ステージを見ようと思うとどうしても視界に入る)は、ステージよりもスクリーンを観ているほうが多かった。

 まぁ、宮本のファンだと、近いといっても表情まではわからない距離のステージを見るより、スクリーンにどーんとアップで映し出される宮本の表情を追っていたほうが幸せだったりするんだろうなと思った。

 あと、すぐ目の前にスーツ姿の警備員のバイト君がいたのも残念ポイント。邪魔にならないようにライブ中にはしゃがんでいたけれど、ライブの熱狂には無関心な人が常に視野の片隅にいるというのが、どうにも気にかかった。最前列だから最高ってもんでもないのねと思いました。

 メンバーでいちばん近かったのはキーボードの奥野真哉で、そのうしろにいた金原ストリングスチームの皆さまは機材に視野をさえぎられて半分しか見えなかった。コジローくんも宮本の陰にかくれて見えない時間帯が多かった。

 でもまぁ、ひさしぶりに見るエレカシのオリジナル・メンバー四人の姿はちゃんと拝めたし、宮本が何度かすぐ近くにきてくれたりもしたし、それだけでも十分ラッキーだったとは思う。

 それによりなにより、スピーカーが目の前にあるから前日とは違って音がよかった。これがなにより大事。奥野のオルガン、コジロー君アコギ、金原チームのストリングの音色がしっかりと聴きとれる。この音のよさと、肉眼でステージが見えるからこそのライブならではの臨場感。これがこの二日目の醍醐味だった。

 セットリストは前日とまったく一緒。『男は行く』や『待つ男』をこの音響のよい最前列で聴けるというのは、どれほどの至福だろうと思っていたのだけれど、意外やそれほどでもない。

 ――というのも、この日の演奏は前日よりも安定感を欠いていたから。

 前日はこれといったミスのない、エレカシ史上初ではというくらいに安定した内容だったのに、この日は「いつものエレカシ」に戻ってしまった感じだった。宮本が渡されたアコギのチューニングをやり直したり(なんで出てきたばかりのアコギのチューニングが狂っているんだか)、トミのほうを再三振り返って指示を出したり、『珍奇男』での即興部分での掛けあいがぐだぐだったったり。そんな昔ながらのまとまりの悪さを感じさせるステージに戻っていた。なぜ?

 単に席の違いで印象が違っただけかとも思ったけれど、コジローくんがSNSで「同じセトリなのに、全く雰囲気も内容も変わる曲達」なんてコメントを残しているので、やっぱり当事者にとっても違ったんだろう。

 いちばん笑った(というか宮本ひでーと思った)のは『シャララ』で、宮本が冒頭の数小節を歌ったあとで演奏を中断して、アリーナの観客に向かって「そこの人、リズム感悪いから動かないでくれる?」とかいって演奏をやり直したシーン。

 宮本のソロでも観客の手拍子が気に入らなくて演奏を中断したことがあったけれど、あのときは不特定多数が相手だった。それにに対して、この日はある一部のファンだけを特定しての否定だもん。宮本、さすがにそれは駄目だと思うよ。指さされた人たちの心境を思うと心が痛む。この新春ライブを心から楽しみにしてきたんだろうに……。

(【追記】あとから聞いた話だと、宮本に注意されたのはひとりの男性で、二階席から見てもわかるくらい悪目立ちしていたというので、宮本が注意したのは英断だったらしい。失礼しました、宮本さん。)

 まぁ、そんな風に「それはどうなん?」と思うシーンもありはしたけれど、前述したとおり前日とは視界も音響も違ったことで、この日もじゅうぶん新鮮な気分でライブを楽しめた。二日同じセトリでライブを観ても、まったく飽きさせないところがさすがエレカシ。

 そういや、前日はステージの中頃でしていたメンバー紹介もこの日はなし。アンコールの『待つ男』が終わったあとで、おざなりに全員(たぶん全員)の名前を呼んだだけで済ませてしまった。昨日やったから今日はいいでしょうといわんばかりの宮本の姿勢がすごい。昔から礼儀正しいようでいてけっこう無礼なんだよなぁ……。

 そういや前日はスクリーン越しに宮本の顔だけが真っ赤に浮かび上がるのを見ていた『待つ男』は、近くで見てもステージは真っ暗で、宮本の赤い顔しか見えなかった。おかげで宮本の怒号とともに曲が終わるのとともに、ライトがぱっとついて明るくなった瞬間の解放感がすごいこと……。

 ソロではまったくギターを弾いていない宮本のヘタウマなギターを存分に楽しめるという意味でも貴重な体験だったし、やはりエレカシのほうが好きだなぁと思った正月明けの2デイズでした。幸せな新年の幕開け。

(Jan. 16, 2025)

米津玄師

2025 TOUR / JUNK/2025年2月26日(水)/東京ドーム

LOST CORNER (通常盤)

 米津玄師の新譜『LOST CORNER』の国内ツアー――そのとりを飾る初の東京ドーム公演2デイズの一日目を観た。

 アルバムについてきた先行抽選応募券でゲットした席は、スタンド一階席の十九列目、ステージ向かって右側のほぼ真横。後楽園駅にいちばん近いゲートからの入場だったので、入退出は楽だった。

 でもこの席ではステージのバックスクリーンを使った映像演出はほとんど見えなさそうだと思ったら、意外とそうでもなかった。

 ステージの背景が左右のスクリーンから扇型で弧を描く形でつながった全面スクリーンだったので、僕らの席からは左手半分の映像がだいたい見えた。たぶん全体の五分の三はちゃんと見えたはず。

 まぁ、全体像は俯瞰できず、右半分は欠けたようになってしまうので、アニメのキャラの顔がつぶれて、なにそれって感じになってしまうときもあったけれど、それでも視野に入る景色は十分に美麗。いまの舞台演出ってすごいなぁと素直に思いました。

 ライブはアルバムの一曲目『RED OUT』で始まり、アンコールでタイトルトラックの『LOST CORNER』を聴かせて〆。終演後にアルバム最後のインストナンバー『おはよう』をBGMにエンドクレジットが流れるという流れはほぼ予想通りだった。

 予想外だったのはそのセットリストの豪華さ。

 アルバム『LOST CORNER』はそれだけで全二十曲というボリュームなので、全曲完全再現したらそれだけで本編のほとんどの時間を使い切ってしまう。

 さてどうすると思っていたら、米津は思い切りよくアルバムの収録曲のうち、四分の一を切り落としてきた。具体的には『POP SONG』『死神』『月を見ていた』『Pale Blue』『POST HUMAN』の五曲が演奏されなかった。

 調べてみたら『POST HUMAN』は別の日に日替わりでやっているし、それ以外の曲は過去のツアーですでにお披露目済みなので、今回はあえてはずしたってことなんだろう。

 で、それらをはずした結果として選ばれた曲が強力すぎた。

 だって、『感電』に『アイネクライネ』、『Lemon』に『海の幽霊』、『LOSER』『ピースサイン』『ドーナツホール』だよ?

 加えてここに最新配信シングルの三曲、『Azalea』『BOW AND ARROW』『Plazma』が入ってくる。

 こんなベストアルバムみたいなセットリストある?

 いやはや、最強すぎる。

 アルバムではアイナ・ジ・エンドとデュエットしている『マルゲリータ』を米津の歌でフルコーラス聴けたのは、かえって貴重だと思ったし、それは最新MVのアニメをそのまま使って歌われた『ドーナツホール』も同じ。あのMVを初音ミクではなく、米津玄師のボーカルで聴けて喜んだファンも多かったろう。少なくても僕は嬉しかった。

【SET LIST】
  1. RED OUT
  2. 感電
  3. マルゲリータ
  4. アイネクライネ
  5. LADY
  6. Azalea
  7. ゆめうつつ
  8. さよーならまたいつか!
  9. 地球儀
  10. YELLOW GHOST
  11. M八七
  12. Lemon
  13. 海の幽霊
  14. とまれみよ
  15. LENS FLARE
  16. 毎日
  17. LOSER
  18. KICK BACK
  19. ピースサイン
  20. ドーナツホール
  21. がらくた
    [Encore]
  22. BOW AND ARROW
  23. Plazma
  24. LOST CORNER

 米津はごく普通の服装だったけれど(アンコールでも衣装替えなし)、演出はいろいろ多種多様だった。

 オープニングの『RED OUT』では、客電が消えたあとの暗さがすごかった。ドームの広さを意識するからかもしれない。こんなに真っ暗でなにも見えないオープニングは初めてかもって思った。やがてステージと花道に真っ赤なライトが点りはじめ、雨音まじりの雷鳴がとどろく。ハードなオープニング曲にあわせた不穏な幕開け。

 でも二曲目の『感電』で花道へと踊りだした米津玄師はニコニコ愛想がよく、とてもご機嫌そうだった。ダンサーもたくさんいる。

 『Azalea』~『ゆめうつつ』あたりでは、花道の上に巨大な絹みたいな布――ラグジュアリーな一反木綿といった感じ――がふわふわと浮かび上がる。その浮かび方はとても幻想的で、3Dフォノグラムかなにかかと思うような不思議な眺めだった。

 『さよーならまたいつか!』では女性ダンサーたちが『虎と翼』を思わせる着物と袴姿で登場。でもヘアスタイルはカラフルかつ多様でちっともレトロじゃないし、ダンスも『虎と翼』のオープニングのそれとは違うオリジナルの振り付けだったので、どうにもコレジャナイ感がすごかった。

 途中のどの曲か忘れたけれど、ステージに巨大なジャングルジムみたいな足場が登場して、ダンサーがその上で踊る場面があったりする。で、二、三曲くらいであっという間に撤収される。いちいちセットの入れ替えがすごい。

 ジブリ映画の主題歌『地球儀』では、ジブリではない(たぶん違う)けれどそれっぽいアニメが流れ、『M八七』では宇宙空間が広がり、『海の幽霊』では『海獣の子供』――を観ていないのでオリジナルかどうかは保証できないけれどそれ相当の――のアニメがフィーチャーされる。

 『KICK BACK』では炎が吹き上がり、その熱気がスタンドにいた僕らのところまで伝わってくる。

 最後の『LOST CORNER』では、巨大な「がらくたくん」オブジェとともに、ガラクタを積んだ黄色いオープンカーに乗る米津玄師が登場。ドライブをテーマにした曲ということで、その車に乗ったまま、場内のアリーナ席の通路を一周してみせる。

 そんな風に二時間ちょいのライヴの間に、さまざまな趣向を凝らした演出が盛り込まれていた。

 客席では『ピースサイン』で大多数のオーディエンスが「おーおーおおーおー」と合唱しながらピースサインを掲げている風景もかなりのインパクトだった。

 僕らの斜め前にいたギャルふたりはいけいけで可愛かったし、うしろにいたお兄さんはあれこれ熱く語っていたくせに、ラストの『LOST CORNER』で「この曲だけタイトルわからないや」とかのたまっていておかしかった。天井にライトでデカデカと書いてあったじゃん。

 まぁ、その曲での自動車の演出とかは、正直どうかと思った。意外性はたっぷりだったけれど、おかげでその間、僕らは車に乗ったまま動きがない米津玄師のアップの映像をスクリーンで延々と見ているだけという、いまいち楽しくないことになってしまっていたし。最後の最後がこれ?――って。

 そのちょっと前のメンバー紹介――ギターが米津玄師の幼なじみだという中島宏士、ベースが宮本浩次のサポートもしている須藤優、ドラムが堀正輝、キーボードに宮川純という五人組(知っている人は須藤くんしかいない)――では幼なじみ氏による、やったらめったら長いMCがあって、「なぜ俺はこんな初対面の人のMCを、疲れた体で突っ立ったまま聞かされているんだろう?」と思ってしまったりもした。正直いって、この二点でライブの高揚感にけっこう水を差された感あり。

 でもまぁ、主役の米津は楽しそうだったし、ケチをつけるのも野暮ってものか。

 いずれにせよ、とてもいいライヴだったのは間違いなし。

 かつての東京ドーム公演では音響の悪さにうんざりしたこともあったけれど、このところは技術的な進歩のためか、はたまた近頃いい席でしか観ていないからなのか、今回も音響に対する不満は一切なかった。米津玄師の歌はレコーディング音源と遜色のないクリアさだった。バンドの音も五人とは思えないほど表現力豊かだった。

 『地球儀』『海の幽霊』『がらくた』といった名バラードは限りなく感動的だったし、『LOSER』『KICK BACK』『ピースサイン』『ドーナツホール』とつづいた怒涛のクライマックスは最高だった。アンコールでややテンションが下がってしまったのは残念だったけれども、本編についてはもう完璧といえる内容。これぞ現在のJ-POPの最高峰といっていいようなライブだったと思う。

 いやはや、いいもの見せてもらいました。

 ちなみにうちの奥さんが米津玄師を聴かないので、今回はうちの子が一緒だった。娘とふたりでライブに行くのって、五年ぶり二度目だ。嫌われてなくてなにより。

(Mar. 10, 2025)

ずっと真夜中でいいのに。

YAKI YAKI YANKEE TOUR 続「名巧は愚なるが如し」/2025年5月17日(土)/国立代々木競技場 第一体育館

 ずとまよライブではすっかり恒例となった、全国ホールツアー終了後にテーマを拡大アレンジして行う〆のアリーナ公演。やきやきヤンキーツアー2の完結編。

 前回までは同一会場での二公演だったのが、今年は全国ツアーに拡大された。

 三月のぴあアリーナからスタートして、翌週が南船橋、そのあと名古屋、福岡、大阪を経て、最後が代々木というスケジュール。全会場二公演ずつで計十二公演。そのとりを飾る代々木第一体育館での2デイズを両方とも観た。

 二公演見たのは、このところの常で、チケットが取れなかったら嫌だからと、念のため二公演分申し込んだら両方取れてしまったから。

 ツアーは一ヵ月半以上に及ぶ長丁場なのだから、どうせ二日分申し込むのならば、最初の横浜か南船橋と最後の代々木にしておけばいいのに、わざわざ二日とも代々木にしたのは、いいかげん年を取って、東京から出るのがめんどくさくなってしまったため。

 自宅から三十分強でゆける代々木と、横浜や船橋では、移動時間が倍以上ちがう。夏フェスも今年からはもう行かないと決めたことだし、通常のライブもあまり高すぎるものや、東京以外の公演は、今後はできる限り避けることにした(すっかり年寄り)。でもって、代々木のチケットが外れて横浜だけ行くことになるのは嫌だったので、だったらもう二日間とも代々木でいいやって思った。

 でも、冷静になって考えると、今回は全国ツアーで、しかも全部アリーナ規模なんだから、よほどのことがない限り、チケットが取れないなんてことはないだろう。だったら、申し込むのは一公演だけでもよかったんじゃん?ってあとから思ったけれど、まぁ、それはそれ。結果的には二日目のほうが席がよかったし、つづけて二日観たからこその楽しさもあったので結果オーライ。

 そもそも、同じ公演を二回も観るのは確かに贅沢だけれど、洋楽チケットがあたりまえに二万円を超えるようになってしまった昨今、ずとまよの超豪華ステージが二日間あわせて二万円もしないで観られるというのは、かえってお得感さえある。

 さて、というわけで、代々木公園のとなりの会場で二年ぶりに観た、ずとまよの代々木公演(駄洒落)の一日目。

 ツアーが大阪万博の開催時期と重なったことで、昭和レトロ好きなACAねさんが過去の大阪万博にインスピレーションを受けたらしい。今回のツアーは「裏の万博」というコンセプトで、「永遠深夜万博」と題して行われた。

 ステージセットは去年までと同様、ツアーポスターのイラストを実体したもので、今回これらはすべて「スナネコ建設」が建設した万博のパビリオンだという設定だった。

 ということで、ステージの中央には大阪万博のシンボルである「太陽の塔」をもじった「十六夜月いざよいづきの塔」と題されたモニュメントが配されている。

 ただ、これは去年のツアーの扇風機を巨大化しただけって感じで、それ自体のインパクトはいまいち。巨大な剣がコンビニに突き刺さっていた前々回や、とぐろを巻く龍が城に巻きついていた前回に比べると、いささか地味な感が否めない。

 塔の左手後方にはツアーキャラの巨大な首長竜ヨグネッシーも配されていたけれど、ライブ中には動くことはなくて、存在感は控えめだったし、それ以外では十六夜月の塔に設置されたお立ち台が上下したり、ステージ左右に丸い謎の球体が配されていた以外、とくに目を引くものもなかった。

 ACAねの登場シーンも奈落からせりあがってくるだけで、あまり奇をてらったものではなかったし、今回はステージセットやギミックに対するこだわりが以前より希薄な気がした。まぁ、去年までのステージセットが破格すぎたって話もある。

 ちなみにツアータイトルの「名巧は愚なるが如し」は「大賢は愚なるが如し」という格言のもじり。「名巧」はあまり一般的な熟語ではなく、うちにある電子辞書では『漢辞海』にしか載っていなかった。そんな言葉どこからひっぱってくるのやら。あいかわらず語彙力がすごい。

 「大賢は愚なるが如し」は『広辞苑』(第四版)によると「非常に賢い人は、知識をひけらかさないから、ちょっと見たところでは愚かな人のように見える」という意味なので、ステージが地味に感じられたのも、もしかしたらわざとだったのかもしれない。

 まあでも、ステージが地味めな分、演出は凝っていた。

 客電が落ちて、左右の縦長の小さめのスクリーンにナレーションとともに今回の「裏万博」の説明が映し出される。そのナレーターを務めているのがなんと――。

 石坂浩二氏だっ!

 なんでも石坂さん、七十年の大阪万博でもナレーターを務めていたそうで、今回はわざわざ依頼を受けて、このツアーのためのナレーションを担当していた。ACAねの書いた――ものなんでしょうおそらく――「永遠深夜万博」の説明を読み上げて、締めの一言に「夜露死苦」なんていっちゃったりして。御年八十三歳の名俳優にこんな仕事頼むACAねとそのスタッフさんたち、怖いもの知らず。

 石坂さんの挨拶につづく今回のオープニング・ナンバーは『虚仮にしてくれ』。

 アリーナ公演のときにはメインのツアーには参加していなかった楽器の奏者がスペシャルゲストとして参加して、オープニングでソロを聴かせるのが恒例になっているけれど、今回はそれがハープだったので、一曲目は当然この曲だろうって思った。

 冒頭のナレーション中に「開会式の間は席におかけのままご覧ください」みたいな注意書きがあったので、この曲のあいだ観客は全員座ったまま。開会式のテーマという扱いのため、この曲が短めで終わったあと、「起立~」という掛け声があって、会場の全員が立ち上がって、ACAねの開会宣言を見守るという趣向だった。

 開会宣言のセレモニーにつづく『嘘じゃない』(冒頭が弾き語り)からがライブ本編で、その次の三曲目で早くも『秒針を噛む』が演奏される。

 この曲の後半でしゃもじクラップと合唱のコール・アンド・レスポンスが起こるのも最近の定番だけれど、今回は直近に配信されたマリマリマリーというユーチューバーのネタを盛り込んで、「変な声で!」歌うように要求して、笑いを誘っていた。変な声でっていわれてもねぇ。どうしていいか、わかりません。

 この日の最初のクライマックスはその次の『消えてしまいそうです』。今回「万博」と並ぶもうひとつのテーマが「七十年代」で、この曲ではその時代のディスコやソウルを踏まえたファンキーなアレンジが施されていた。ステージの映像もそれっぽくグルービーでカラフルなものになっていて、ものすごくカッコよかった。この曲から次の『ミラーチューン』へとつづく部分での多幸感が前半部分の最高潮。

 とにかく今回のライヴはミラーボールでキラッキラ。ステージの上下左右に十個近くの変型ミラーボールが配されていて、それらが乱反射して会場は光の渦と化す。さらにはレーザーライトが縦横無尽に放たれる。ことライティングという点では過去最高に派手だった(当社比)。

 ACAねは赤いミニのレザースーツにハイソックス、白いキャップという衣装で、ギャル版の仮面ライダーか山本リンダみたいなその恰好も、いかにも七十年代風だった。豪華なステージセットよりも、むしろこの七十年代の再現というコンセプト、それこれが今回のツアーの要だったように思う。

 そのあとが前回ツアーのとりを飾った『勘ぐれい』のヤンキー・バージョンから、ロックンロール・アレンジの『馴れ合いサーブ』へという流れ。この辺の曲にもレトロ感があふれていた。さらには早々に『残機』が披露され、序盤から「踊らにゃ損々」なキラーチューン連発で大いに盛り上がる。

【SET LIST】
  1. 虚仮にしてくれ (Short ver.)
  2. 嘘じゃない
  3. 秒針を噛む
  4. 消えてしまいそうです
  5. ミラーチューン
  6. 勘ぐれい (ヤンキーver.)
  7. 馴れ合いサーブ
  8. 残機

  9. 上辺の私自身なんだよ (Acoustic ver.)
  10. クズリ念 (Acoustic ver.)
  11. 居眠り遠征隊 (味噌ーランver.)
  12. 微熱魔
  13. 胸の煙
  14. 海馬成長痛
  15. MILABO
  16. シェードの埃は延長
  17. お勉強しといてよ
  18. TAIDADA
  19. 暗く黒く
    [Encore]
  20. クリームで会いにいけますか
  21. あいつら全員同窓会
  22. 眩しいDNAだけ

 前半戦の締めはこれから公開される映画『ドールハウス』の挿入曲で、今ツアーの途中からセットリストに加わった未発表曲『形』。

 ホラー映画の主題歌ってことでシリアスな雰囲気の曲だったけれど、スローで始まったのでバラードかと思ったら、すぐにアッパーになっちゃうのがACAねらしい。初めて聴くので、スクリーンに映し出される歌詞に注目していたせいで、いまいちステージへの意識が薄くなってしまったのはもったいなかった。

 この日の僕らの席(北側スタンド一階Eブロック)からだと、スクリーンは小さめで、いまいち見にくかった。終演後に表示されたACAね直筆の縦書きメッセージなんて、字が小さすぎてまったく読めなかった。

 そのあとは花道の先に配されたサブステージ(と呼ぶほど広くはなかったけれど)でのアコースティック・コーナー。

 台座に固定された電飾バイクに乗ったACAねが花道をゆっくりと運ばれてゆき(天皇家の人たちみたいに上品に手を振って拍手をうけていた)、まずはその先に設置されたなんとかチェア(とんがった籠状のやつ)に座って余興を繰り広げる。

 内容は大きなトランシーバーを使って、月にいる(という設定でモニターに映し出された)ブラウン博士ことオープンリールの和田永と会話して、ルナストーン(要するに万博名物の月の石なんだろう)を受け取るとかいう話。

 「石はもう太陽系第三惑星の日本の代々木に送ってあります」みたいなことを言われて、ACAねが座っていた椅子の上方を見上げると、なにやら縦長のものがついている。そのオブジェを隠していた覆いをとると、回りながらキラキラ輝くミラーボール仕様の月の石が登場~。

 ということで、ルナストーンが光をまき散らすサブステージで『上辺の私自身なんだよ』と『クズリ念』が披露された。

 『上辺』はワンコーラス目がアコギの弾き語りで途中からバンド・アレンジ。『クズリ念』はハープ、ストリングス、キーボード、パーカッションだけでのバラード・バージョンだった。

 で、この『クズリ念』が最っ高によかった。バラードになったことで、そのメロディの素晴らしさとせつない世界観が際立っていた。アレンジの変更により、もともと楽曲が持っていたポテンシャルが露になったというか。いい曲だとは思ってけれど、ここまで感動的な曲に化けるとは驚きだった。いっそ最初からバラードとしてリリースしたほうがよかったんじゃないかと思ってしまった。まぁでも僕はもとのアレンジも好きだ。

 そのあとの恒例三択コーナーは、十六夜月の塔をルーレット仕様に模様替えして、矢印に止まった羽と同じの色のくすだまを割って曲を決めるという企画で、選ばれた曲は『居眠り遠征隊』だった。垂れ幕の表記はヤンキー風に『威音無離炎聖隊』的なやつ(とうぜん読めない)。

 ACAねのリクエストによる吉田兄弟の即興劇は、祖父と孫によるソーラン節ならぬ「味噌ーラン節」がどうしたというもので、バンドの演奏はキーボーで琴と尺八の音色を奏でた和風アレンジだった。即興でしっかりと和のテイストを出すバンドに拍手。

 ちなみに代々木体育館のスタンド席って、普通に座ると真正面は反対側のスタンドで、ステージを見るには首をねじらないといけないので、座ってみるライブには向かないと思った。ここまでの余興コーナーで長いこと座っていたら、首が痛くなった。

 後半戦は新曲『微熱魔』からスタート。あのぐしゃっとした音の洪水的なイントロやドラムンベース的なアレンジが生演奏できちんと再現されているのがすごい。

 これ以降の選曲で意外性があったのは『胸の煙』くらいで、あとは定番といっていい内容だった――と思ったんだけれど、よく見たら、終盤に演奏された八曲のうち、半分がここ一年にリリースされた曲だった。

 要するに新旧バランスよく並べたというべき内容で、定番と呼ぶには新曲が多すぎる。それでもこの盛りあがりと一体感ってのがすごい。『MILABO』(三年ぶりにフルで聴けて嬉しかった)と『お勉強しといてよ』に挟まれて演奏された初公開の『シェードの埃は延長』も、まったく違和感なくそれらの曲に溶け込んでいた。

 この後半戦でのマイフェイバリットは『TAIDADA』。この曲のACAねのボーカルが切れがよくクリスプで最高に気持ちよかった。しゃべりはあんなにたどたどしいのに、なぜ歌だとあんなに滑舌がいいんだろう。不思議。ダンスもノリノリで最高でした。

 本編ラストは「最後の曲です。Crack Clock」と紹介されたので新曲かと思ったら、『暗く黒く』だった。

 ずとまよのライブは全体的に陽性なイメージが強いから、ダークな感触のこの曲で終わると意外に思うことが多いのだけれど、この日はアンコールの最後も『眩しいDNA』だったし、元ツアーのラストは『正義』だったし(今回は演奏されなかった)、ずとまよって意外とライヴの最後にシリアスな楽曲を持ってくる比率が高いかもしれない。いまさらなにをいってんだって話だけれども。

 アンコールは新曲『クリームで会いにいけますか』から始まる三曲。

 お色直ししたACAねの衣装は、オフショルダーで超ミニな白いスパンコールのワンピース。ピンクレディーやキャンディーズを思い出させる大胆な七十年代風ファッションで、スパンコール(もしかしたら割れた鏡の破片?)がキラッキラ。光が当たるとまさに人間ミラーボール状態。キラキラだったこの日のライブの最後を、自らミラーボールになって飾ってみせるという趣向がおもしろすぎた。「シャバダバ、シャバダバ」というスキャットの入る、明るくキュートな新曲も七十年代風というコンセプトにベストマッチだった。

 つづく『あいつら全員同窓会』がメンバー紹介の入らない通常バージョンだったのもいい(「お世話になってます」のところのお辞儀タイムはこれまでより長かった)。軽く予想を裏切られる感じが楽しい。途中でマイクを落としたハプニングさえ楽しい。

 最後の『眩しいDNAだけ』の前に長めのMCで「孤独」について語った部分では、石坂氏のナレーションにもあった「孤独とは社会的な行為である」みたいな引用にぐっときた。岡本太郎氏の言葉でしょうか。いいこという。

 今回はこの曲でバンドのメンバー紹介があった。内訳はドラム、パーカッション、ベース、キーボード、ギター×2、ホーン×4、弦×4、オープンリールアンサンブルの三人組、そしてスペシャルゲストのハープに、ACAねの十九人編成。スクリーンの紹介が楽器名だけだったので、お馴染みのメンツ(コジロー、キッシー、菰口、二家本、神谷)以外の個人名は不明。ちなみにオープンリール、TVドラム、扇風琴は「未来楽器」と紹介されていた。

 メンバー紹介での各自のソロは短めで(基本四小節ずつ?)、個人のソロに加えてそのあとにパートのセッションがあるという流れだった。ギターだと、コジローのソロ、菰口のソロ、でもってふたりのツイン・ギターという形。三時間近いライブの最後で、いい加減疲れている時間帯だったので、適度なボリューム感がありがたかった。

 ということで今回のライブは以上。全曲が終わって、メンバーが花道をランウェイよろしく一周したあと、これまで動かなかったヨグネッシーがうなずくように首を上下して見送る中、ACAねはゆっくりと奈落へと消えていった。

 終演後には前述したマリマリマリーのYouTube動画を使った次回『コズミックどろ団子Tour』の発表もあったりして、最後までとても楽しい三時間弱でした。

(Jun. 01, 2025)

ずっと真夜中でいいのに。

YAKI YAKI YANKEE TOUR 続「名巧は愚なるが如し」/2025年5月18日(日)/国立代々木競技場 第一体育館

 ずとまよ代々木公演2デイズの二日目にしてツアー最終日。

 二日連続だし、できれば前日とは反対サイドから観たかったのだけれど、あいにく席は昨日と同じ北側スタンド一階。それでも、この日はHブロックということで、三ブロックほどステージに近かった。

 そしたら、この違いが思いのほか、でかかった。視覚的にも音響的にも解像度が違った。ステージも右手のスクリーンも断然よく見えるし、音も俄然とはっきりしていた。演出で時折あがる炎の熱さもちょっとだけ伝わってきた。

 まぁ、前日は遠かった分、ステージ全体が見渡せて、ライティングの美しさが際立っていたのと比べると、この日は近づいた分、右手にいたストリングの人たちが機材に遮られてよく見えなかったし、ライティングもそれほど意識することがなかった。

 それでもやっぱり、肉眼でACAねの動きがちゃんと追えるのは嬉しい。それ以前に前日はなんだかよくわからなかったことがちゃんとわかるのがいい。

 たとえば、開会宣言でのテープカット。前日はなんかよくわからない紐が出てきたくらいのイメージだったのが、この日はちゃんと開会式のテープカットだってわかった。

 たとえば、サブステージへ向かう電飾バイクのうしろをついてゆく小さなメカうにぐり。前日は「なんかいる?」くらいのイメージだったリモコン操作のこのロボが、この日は目の前を通り過ぎてゆくのが肉眼で確認できた。

 たとえば、そのサブステージから本ステージに戻る前に、ACAねが背中につけたC字型の装着物。それがルナストーンを切り出して作ったルナモノリスというものだという説明がちゃんと聴きとれた。

 ステージ左手の隅にいたハープの人と佐々木コジローが前日はどこにいるのかさっぱりわからず、もしかしてコジローくんがハープを弾いているのかと思ったりしたんだけれど、この日は二人が別人なのがわかった。

 『お勉強しといてよ』のイントロ前に奈落からデコバイクが再登場した場面では、バイクにまたがっているのがトランペットの具志堅という人で、ACAねが乗っていたときには台座に固定されていたそのバイクが、この時にはふつうにタイヤで動いていること――なおかつ具志堅さんはそのバイクに乗ったまま、トランペットを吹いていたこと――がわかった。

 さらには、ラストナンバーの『眩しいDNAだけ』(ラストのACAねのロングトーンが圧巻だった)で、演奏の終わりにバーンと爆発音がさく裂した場面。前日はびっくりして跳ね上がってしまったけれど、この日は扇風機の中央にカウントダウンが表示されているのがわかったので、安心して爆発の瞬間を待てた。

 そのほか、『ミラーチューン』で最後のほうで転調ともに「パワーアップ!」とかいってミラーシューターを大きなやつに持ち替えるところとか、『クズリ念』でワンコーラス目をトランシーバーで歌っていたこととか、『クリームで会いにいけますか』のとき、前日は知らないうちに花道にいたうにぐりの着ぐるみが、花道のつけ根にある奈落から出入りしていたこととか。

 あと、『MILABO』のサビの「因果応報叱らないで」や、『お勉強しといてよ』の「乾かないや」というフレーズで、申し合わせたような大合唱が起こるのに感心していたら、ステージ上の小さなスクリーンに「SING」という文字が出ていることに途中で気がついたりとか。

 アンコールの終了後、奈落へ消えてゆくACAねは片手を高く掲げ、親指をたててグッドサインを作っていた。僕らが最後に見たのはそのグッドサインだった。

 そういう前日は遠くてよくわからなかったディテールの数々がこの日はわかった。基本的には同じ内容なのに、それだけで全体のイメージがよりくっきりとしてくる。やっぱライヴはステージが近いほうが楽しいなぁって思った。

【SET LIST】
  1. 虚仮にしてくれ (Short ver.)
  2. 嘘じゃない
  3. 秒針を噛む
  4. 消えてしまいそうです
  5. ミラーチューン
  6. 勘ぐれい (ヤンキーver.)
  7. 馴れ合いサーブ
  8. 残機
  9. 形 [新曲]
  10. 上辺の私自身なんだよ (Acoustic ver.)
  11. クズリ念 (Acoustic ver.)
  12. ろんりねす (フラメンコよさこいver.)
  13. 微熱魔
  14. 胸の煙
  15. 海馬成長痛
  16. MILABO
  17. シェードの埃は延長
  18. お勉強しといてよ
  19. TAIDADA
  20. 暗く黒く
    [Encore]
  21. クリームで会いにいけますか
  22. あいつら全員同窓会
  23. 眩しいDNAだけ

 二日つづけて観てよかったことのもうひとつは、演出の違いが楽しめたこと。

 日替わりメニューの選曲とアレンジが違うのは当然として、その前のルナストーンにまつわる余興の内容が違っていたり、ライヴ後の告知が違っていたりする。

 日替わりメニューでは、この日のルーレットも前日と同じブルーが止まったのに、選曲は『ろんりねす』(ヤンキー表記は『孤独寝巣』)で、アレンジはよさこいフラメンコ風だった(でも後半の合いの手はソーラン節だった)。

 ルナストーンのくだりでは、ACAねの通信相手を務めていたのが、前日と同じブラウン博士ではなく、HARU1987こと吉田悠だった。また、この日はパーカッションの神谷氏も登場。まずはブルースクリーンのせいで着ているツナギが消えて、顔だけが浮いている状態になって笑わせる。さらに前日はルナストーンに大きな石の模型を使っていたのに、今回は宙に浮くその顔をルナストーンだといって、さらなる爆笑を誘っていた。

 前日はこのルナストーンのパートから日替わり曲のコーナーまで、正直ちょっと長すぎやしないかと思ってしまったけれど(おそらくその部分の三曲だけで三十分くらい費やしている)、二日目のこの日は流れが把握できていた上にギャグが倍増していたこともあって、ずっと笑って観ていられた。

 終演後の告知もまるで違った。マリマリマリーは登場せず、ツアー最終日ということで、これまでに発表したことのおさらい的な内容に変更になっていた。そして最後には「アルバム曲も作ってます」という報告あり!

 そういや、前日は終演後に出口で配られた『コズミックどろ団子ツアー』の告知ポストカードを、この日は入場の際にもらった。

 そんな風にツアーの進行にあわせて、演出も運営もちょっとずつやり方を変えてゆく。今回も会場周辺は文化祭のようだったし、そうやってお客さんを少しでも楽しませようとする創意工夫が見て取れるのも、ずとまよライブの魅力のひとつだ。

 演奏についてもそう。TVドラムのイントロを聴くと、次は『お勉強しといてよ』だと思うよう習慣づけられている僕らに、この日は『勘ぐれい』や『海馬成長痛』をかまして意表をついてきた(逆に『お勉強しといてよ』のイントロにはTVドラムのソロがなかった)。そういうところもいい。

 あれとかこれとか当然演奏されると思っていた名曲群をあえてセットリストから外してくる姿勢も含めて――まぁ、そこは嬉しいわけではないけれど(『花一匁』聴きたかった……)――同じことはそうそうつづけませんよって。そういう予定調和を嫌う姿勢が素晴らしい。

 コンサートチケットの高騰がすさまじくて、最近はすっかり洋楽のライブにいけなくなってしまったけれど――ここ一年くらいのあいだに、トム・ヨーク、PJハーヴィー、ベックなど、悩んだあげくにスルーしたライブがたくさんある――こういうコンサートをやってくれている限り、今後どれだけチケットが高くなっても、ずとまよのライヴには通いつづけないではいられないよなって思った。

(Jun. 03, 2025)