さぁ、この試合が終われば、いよいよ次はW杯本番!──というこの期におよんで。
いったいなんて試合をしているんだか。
ザッケローニが本番前の最後の親善試合に選んだ先発メンバーは、GK西川、DF内田、吉田、今野、長友、MF山口、遠藤、岡崎、本田、香川、FW柿谷という顔ぶれだった。
要するに、川島、長谷部がスタメンをはずれたことを除けば、あとはおそらく本番でもスタメンに選ばれるだろうという面々。
山口蛍はこれで6試合連続スタメンだそうで(そんなになるのか)、たしかにこの試合を観ていても存在感がハンパない。もやは中盤の底に欠かすことのできない戦力になっている感あり。遠藤と長谷部はどちらもフル出場させるには体力的な心配があるので、本番でもおそらくこのどちらかとペアを組むことになるんじゃないだろうか。初戦を守備的に入るならば、山口・青山のダブル・ボランチも十分にあり得ると思う。
それにしても、ザンビアは思いのほか強かった。知名度が低いのであなどっていたけれど、十分すぎるほどに強かった。アジアでならば、まちがいなくトップレベル。予選敗退の国がこんなに強いとは、アフリカ恐ろしやと思った。
でもいくら相手が強かったとはいえ、それ以前に日本代表の守備のもろさが洒落にならない。この日は全体的に出来が悪くて、前半は運動量が少ない上にパスミスが多かった。序盤からボールを保持できない展開で、予想外の劣勢を強いられたあげく、前半なかばであっというまに0-2のビハインドとなる。
失点の場面では、ファーサイドに流れたクロスにウッチーが反応し切れずに許した1点目、コーナーキックからのトリック・プレーに引っかかって、フリーのミドル・シュートを許してしまった2点目と、どちらもマークずれまくりで守備がゆるゆる。全体でリズムよく守れているときはいいのだけれど、いざという場面での個の部分ではどうにも頼りなさが否めない。あぁ、最後の最後までこのチームの守備力のなさは変わらなかった。
でもそこから追いつき追い越せてしまう攻撃力もまた、今回の代表の特徴。
前半途中に岡崎が接触プレーで流血したりして(あとで5針縫ったらしい)、厭な空気が流れていたにもかかわらず、それをものともせずに2点のビハインドを跳ね返して逆転し、さらには土壇場でふたたび同点に追いつかれながらも、すぐさまもう1点取って、最終的に4-3で勝ってしまうなんて試合、なかなかできない。こんなドラマチックな試合が本番でもできたら、それこそ世界中から称賛されまくりでしょう? この勝負強さはいったいなに?
この日は出来自体は決してよくなかったのに、それでもこういう勝ち方ができてしまうところに、日本代表の大いなる成長を感じる。昔はこういう風に強豪国相手に惜しい戦いをしながらも、土壇場で実力差を見せつけられて負けるパターンがよくあったけれど、いまやそれを日本代表が反対にやってみせる立場にあるんだから。いやはや、逞しくなったもんです。すげーや、われらが代表。
まぁ、とはいえ同点に追いつくまでの展開は結果オーライなものだった。1点目は香川のクロスが相手のハンドを誘ってのPKだったし(キッカーは俺様が蹴って当然とボールを奪いとった本田)、同点ゴールはこれまた香川のクロスがGKの不意をつく形で、そのままゴールに吸い込まれたもの(ニアで相手DFと競り合った大久保が、ボールに触れこそしなかったものの、フェイントの役目を果たすことになった)。
要するに同点になるまでの展開は過分に運に恵まれていた。
それでも運も実力のうち。なによりその後の2ゴールは文句のつけようのないものだった。
3点目の逆転ゴールは、ペナルティエリア内まで攻め上がった森重が見事な切り返しでDFを振り切って繰り出したグラウンダーのクロスを、ゴール前に駆け込んでフリーになった本田がスライディング・シュートで決めたもの。
森重、なぜそこに?
しかも、とてもDFとは思えない見事なターンからのアシストだし。いやぁ、これには笑った。森重すげー。本田もあいかわらず出来はいまいちながら、あそこで得点に絡んでみせたのは偉かった。とはいえ、9割がたは森重の得点といってもいいゴールだった。
でも、さらに笑ったのは、そのあと同点に追いつかれてから奪い返した決勝ゴール。
3-3とされた同点ゴールは、相手の打ったミドルシュートが山口の足にあたってコースが変わって、西川の手が届かないところへと飛び込んでしまったもので、あそこでミドルを打たせてしまったのが問題かもしれないけど、まぁそれ自体はアンラッキーだった(あそこで失点してしまうこと自体が失笑ものだったけど)。
でもそこからふたたび決勝ゴールが決まるまでの流れがアンビリーバブル。
同点にされてすぐに、ザッケローニは遠藤にかえて青山を入れた。
時はすでにロスタイム。ピッチに立ったばかりの青山に、さっそくGK西川からのパスが渡る。青山はそこから得意と言われているロングフィードで、最前線へ斜めに駆け込んでいった大久保へ縦パス一本。大久保は相手DFと並走しながら、それを見事なトラップで受けて、左足を一閃! ドーン!
一瞬でスコアは4-3!
同点にされてから、ふたたび突き放すまでわずか2分。それが途中出場で出てきたばかりの青山のファーストタッチから生まれちゃうんだから、これはもう笑わずにはいられない。逆転してからは、もう笑いっぱなしの島(@メスカリン・ドライブ)。
僕を含め、これまでザッケローニが試合を打開する効果的な選手交替のカードを切れないことに不満を持っていた人も多いと思うのだけれど、ザック氏は本番直前最後のこの試合で、まさかというような劇的な采配を見せてくれたわけだ。
考えてみれば、後半に奪った2点目以降のゴールにはすべて途中出場の選手が絡んでいる。香川のゴールは後半頭から柿谷にかわって入った大久保が相手DFと競り合ったことから生まれたものだし、3点目は今野にかわって入った森重のアシスト。そして4点目も青山のアシストと、後半はサブのメンツの活躍がものすごい。
まぁ、大迫も後半15分くらいから出番をもらってワントップに入ったのだけれど、これといった見せ場は作れず。香川にかわって最後の15分だけ出てきた齋藤学も持ち味は出せずだった。ウッチーとかわった酒井宏も特に印象には残っていないから、全員が活躍したってわけでもないんだけれど、でも途中交替選手の得点関与率5割はすごい。
ずっとメンバー固定で変わり映えのしない印象だったザック・ジャパンなのに、ここへきて大久保、森重、青山らの活躍や、故障者の多さで、いまさらながら本番のスタメンが読めなくなってきた。
そうそう、途中出場といえば、清武は最終選考に残ったにもかかわらず(なおかつ怪我をしていないのにもかかわらず)、結局この3試合で一度も出番がもらえなかった。この分だと本田や香川が怪我でもしない限り、本番でも出番があるとは思えないし、このまま一度もピッチに立たずに終わるのは、さすがに不憫だなぁと思う。ドイツ大会で唯一出番がもらえなかった遠藤がいまや代表キャップ歴代一位となっているという事実を励みに精進してもらうっきゃない。
まぁ、なんにしろ、よくも悪くもおもしろい試合だった。本大会前の最後の試合がこんな内容でいいのかと思わないでもないけれど、前大会のようにつまらない試合をして、がっかりして本番を迎えるよりは、どれだけマシかわからない。
不安要素はたくさんあるけれど、期待値も過去最高というのが今回の代表の印象。十分に力を発揮できさえすれば、きっと世界を驚かせることができると思う。こんな風に思いながら臨めるW杯はこれまでで初めてでしょう。いやぁ、本番が楽しみになってきた。
初戦のコートジボワール戦まであと一週間。いざ、ブラジル。待ってろ、世界。
(Jun 08, 2014)