もはや呪いがかかっているとしか思えない。
ここまで勝てないというのはすでに超常現象のレベルでは。
今回のフロンターレ戦は始まる前から鹿島に有利な風が吹いていた。
ジェジエウは開幕戦でレッドカードをもらって出場停止だし、車屋、登里のベテランDFふたりも怪我で欠場。さらには小林悠とレアンドロ・ダミアンもいない。
敵の苦境を喜ぶのも情けないけれど、7年も勝ってないとなると、背に腹は代えられない。今回はこれまでの悪い流れを断ち切る千載一遇のチャンスだと思った。
逆にいえば、これで勝てないようだと、この先も鬼木が監督をしているあいだは二度と川崎には勝てないのでは……と思ってしまうくらいの状況だった。そしたらまさかの逆転負け……。それもクラブ史上、最悪じゃないかってレベルの。
まじで呪いや魔術のたぐいを疑いたくなる。
この試合、入り方は最高だった。
開始わずか4分で優磨が斜めに入れたクロスに知念が頭であわせて先制。知念にとっては二戦連発となる、素晴らしい古巣への恩返し弾。
幸先よし!――これであともう1点取れれば、さすがにきょうは勝てるだろう――と思ったのに……。
その後はゴールの匂いさえしなくなる。でもって、川崎に一方的に攻め込まれて、しのぎつづける展開になる。ボール保持率は川崎が71%と圧倒的だった。
それでもこの日の鹿島は開幕戦同様しっかりと守れていた。佐野、ピトゥカ、樋口のトライアングを中心に的確に相手の攻撃の芽をつぶし、相手に得点機を与えない。
とくに高めの位置から積極的に相手の最終ラインにプレスをかけてゆくピトゥカのハードワークぶりがすさまじかった。この一戦にかける彼のモチベーションの高さを感じさせた(まぁ、ほぼすべて無駄走りって感じだったけど)。
守備的な展開になったこともあり、今回は佐野海舟のプレーもじっくりと観た。
なるほど、中盤の底にしっかりと蓋として、不思議なくらいに見事に相手ボールを刈り取りまくってすごかった。守備的な戦い方をするならば、この先、彼は外せないかもしれない。
ということで、先制したあとはただひたすら守りまくるだけって展開だったけれど、それでもそれって鹿島らしいっちゃらしい――というか、これでもし1-0のまま勝てていれば、これぞ鹿島の伝統っていえる会心の一勝だったと思う。
――それなのに。
なぜに残り時間が10分を切ってから逆転を許すかな?
それも相手は山村がレッドカードで退場して(仲間の突破を阻止したプレーがVARの介入によりDOGSOと判断された)、数的不利になっていたのにだよ?
その状況での逆転負けは失態以外のなんでもない。
僕が思う敗戦の理由は、単純に岩政のベンチワークのミスだ。
この日の鹿島のスタメンは前節と一緒で、ベンチ入りしていたのは沖、広瀬、土居、荒木、仲間、松村、垣田の7人だった。
要するに、GKとDFがひとりずつで、あとはすべて攻撃的な選手だった。
つまりこの日のような専守防衛の試合で、途中から使える駒がなかったってことだ。このサブのメンツを見るかぎり、岩政の頭には守り切って勝つというゲームプランは最初からなかったんだろう。それでは守り切れなくてもしかたない。
岩政が切ったカードも場当たり的すぎた。
一人目は足を痛めた藤井→松村で、まぁこれはいい。スピードスターどうしの交替だったので、フォーメーション的には影響がなかった。
守りに徹するならば、この時点で広瀬を入れて、常本をひとつ前にあげるという選択肢もありだった気がするけれど、まぁ、それは結果論だ。いまだからそう思うって話。
それより問題はそのあとの三枚だ。
知念、樋口にかえて荒木、仲間。そして優磨→垣田。
単純計算すれば、ボランチの樋口がさがって攻撃的なふたりが入った分、守備力は低下している。そして現時点で垣田に優磨のかわりが務まるわけがない。
さらにいうならば、5枚のカードを使い切らなかった点も納得がゆかない。鬼木が5枚をすべて使い切って攻撃を活性化させたのとは対照的だ――って、去年もそんなことを思った気がする。あぁ、進歩がない。
まぁ、展開的に佐野とピトゥカを下げたくなかったのはわかるけれど、でもそれだったら使うべきは故障明けでいまだ本調子ではない荒木ではなくて、ベテランの土居でしょう?
樋口が担っていた中盤の守備のタスクをそのまま仲間が引き継いだようにも見えなかったし、荒木、仲間の投入がそこまで機能していた守備的な戦い方を破綻させてしまった。色気を出して、あわよくばもう1点と思った采配が裏目に出た形。
とはいえ、その結果が引き分けならばまだしも、逆転負けにつながるなんて……。
さすがにその展開は予想できなかった。
同点の場面は、川崎のCKから、垣田が簡単にクリアできそうなボールをたたきつけるヘディングで相手ボールにしてしまったのが始まりだった。垣田、FWとしての本能なのかもしれないけれど、たたきつけるヘディングは敵陣のゴール前でやってくれ。自陣の守備では遠くへ跳ね返してくれ。
まぁ、そこから入れたクロスを、家長がバイシクルでゴール前に放り込み、大卒ルーキーの山田新が決めた川崎の攻撃はそりゃ見事だったですけどねぇ。家長、さすがすぎる。そこまで目立っていなかった彼をいまさら活躍させてしまったのが運の尽きだ。マルシーニョも脇坂もいいとこなく交替に追い込んだのに、最後に残っていた最年長選手にやられるとは……。
それにしても一昨年の宮城天、去年の佐々木旭につづき、今年も山田にJ初ゴールを許すって巡り合わせはなんなんだかな。ちゃんとルーキーにプロの厳しさを教えようぜ。逆に記念のゴールを献上してどうする。ここまで同じパターンがつづくと、まじで変な呪いがかかっているのではって気がしてくる。
逆転ゴールにつながるシーンも、右サイドから突破を許した時点で、PA内に川崎の選手が数名入り込んできていたので、あ、こりゃまずいと思ったんだよなぁ……。
案の定、そこから波状攻撃を受けて、なんとかしのいだかと思ったら、最後は荒木がシュートを腕で止めたという判定で、レッドカードをもらい退場。そしてPK……。あれは腕じゃなくて肩であって欲しかった……。
というか、腕に当たったにしてもあれは故意ではないでしょう? 荒木はあくまで肩で止めようとしていたし、あそこはイエロー止まりでよくない、西村さん?
そのPKにもまた余計なドラマがあった。
一度は早川が止めた!――と喜んだのもつかの間。
動き出すのが早かったということで蹴り直し。さすがにPKの名手・家長が二回連続で失敗するわけもなかった。
あぁ、なぜ最後にそんな最悪のおまけがついてくるんだ……。
ということで、7年ぶりの勝利まであと10分を切るところまで迫っていた今回の川崎戦は、長~いアディショナル・タイムでの劇的な逆転劇を含む最後の約15分でひっくり返って、最悪の結末に終わった。
いまはただこの敗戦を糧に岩政が監督として一皮むけてくれることを祈るばかりだ。
(Feb. 26, 2023)