最後の最後になんちゅう試合をしてくれちゃうんだか。
メッシとエムバペという新旧スーパースターを擁するアルゼンチンとフランスによる決勝戦は、誰ひとり予想もできないような、W杯史上に残る大激戦となった。
ここまでの内容からすれば、下馬評は圧倒的にフランス有利だったのだと思う。久保建英は「フランスは強すぎるのでほかの国に優勝して欲しい」みたいなことをいっていたし。ABEMAで解説をつとめていた本田圭佑も、解説者という中立的な立場を無視して、あからさまにアルゼンチンを応援していた。
まぁ、ここ十五年くらい世界のサッカー界をリードしてきたメッシが、最後のW杯で決勝戦まで駒を進めてきたら、そりゃもう有終の美を飾らせてあげたいと思うのが人情ってもの。しかもこの試合でW杯の出場試合数と出場時間の歴代記録を更新したというし。しかも現時点で大会得点王。そんなアニバーサリーな試合だ。誰もがアルゼンチンの優勝を願っても不思議じゃない。連覇のかかったフランスには気の毒だったけれど、世間の風は完全にアルゼンチンびいきに吹いていたように思う。
あと、アルゼンチン人気の理由のひとつは、対するエムベパがあまりに怪物すぎるってのもあったと思う。今大会の彼はチートすぎた。23歳の彼はこの先まだ3回くらいW杯に出られるだろうし。彼を筆頭にフランスはやたらと若い選手も多いし、今回はメッシに譲ってもよくない?――って。特にメッシに思い入れがない僕にしたって、今回はそう思ってしまうところがあった。
ということで、試合が始まるまでは若くてフレッシュなフランスの猛攻にどれだけアルゼンチンが抵抗できるのかがポイントなんだろうと思っていたのに、いざ試合が始まって見たら、まったく様相が違った。
やはり試合間隔の違いが大きかったんだろうか。中4日だったアルゼンチンに対してフランスは中3日。おまけに風邪のような症状で体調を崩した選手が複数いたという話もあった。おそらくコンディションがよくなかったのは本当なんだろう。前半のフランスはまさかのシュート0で終わってしまう。
対するアルゼンチンは、決勝トーナメントに入ってから一度もスタメン出場してなかったディマリアがこの日はふたたびスタメンに復帰していた。でもグループリーグではずっと右だったのに、この日のポジションはなぜか左。
え、なんで左?――と思ったら、この起用がズバリ。先制点はディマリアがうしろからデンベレに倒されてもらったPKだったし(決めたのはもちろんメッシ)、見事な連携から崩した2点目も最後に決めたのはディマリアだった。この期に及んで彼を左サイドにもってきたアルゼンチンのスカローニ監督の采配にはびっくりだ。すげー。
ということで、前半はフランスにいいところがひとつもない一方的にアルゼンチン優勢な内容。でもフランスには怪物エムバペがいる。1点でも返すようだとわからないよな~と思うので一方的な試合なのに意外と緊張感が途切れない(川崎相手に2-0で勝っていても油断ならないのと同じ理屈)。
とはいえ、後半になってもそのままスコアは動かなかったから、あぁ、これはこのままアルゼンチンが逃げ切って大団円か――と思っていたら、残り時間が10分となったところでドラマが待っていた。
アルゼンチンがいささかイージーなPKを献上してしまい、それをエムバペが決めて1点差。これで本当にわからなくなったかも……と思ったそのわずか1分後。ふたたびエムバペがとんでもないワンツーからスーパーな右足ボレー弾を決めて、あっという間にフランスが同点に追いついてしまう。マジか?
試合前は5点で並んでいたメッシとエムバペの得点王争いも、この2点でエムバペが一歩リード。おいおい、エムバペ、空気読まないにもほどがあるだろう。
同点になったあと試合の流れはすっかりフランスに傾いていたし、これはアルゼンチンが勝つにはもう延長戦もしのいでPK戦に持ち込むしかないって、解説の本田が力説するような展開になっていた。
でもそんな試合にまたもやサプライズ。延長後半3分にアルゼンチンが右から仕掛けて、よもやのメッシのゴールが生まれる。オフサイドかと思ったシュート直前のプレーはぎりぎりオンサイド! そこから打った最初のシュートはGKのウーゴ・ロリスに止められるも、その跳ね返りにメッシが詰めていた。
さすがスーパースター、ここで決めるかっ! これでメッシが得点王ランキングでもトップタイ! ここで終われば大団円!――と思ったのに。
この出来すぎたシナリオに待ったをかけたのがまたもやエムバペだった。延長後半も残り5分を切っているのに、そこからアルゼンチンのハンドを誘ってPKを得て、これを自ら決めてハットトリックで試合を振り出しに戻してしまう。なにそれ……。
ということで、史上稀なる才能に恵まれた両エースの活躍により、120分を戦って3-3となったところで今回の決勝戦は試合終了。W杯のゆくえはPK戦に委ねられた。
ここで男をみせたのが、アルゼンチンのGKエミリアー・マルティネス。フランスの2本目を止めて、3本目は枠を外れた。対するアルゼンチンは4本すべて成功。かくして激戦を制して2022年のワールドカップを手にしたのはメッシ率いるアルゼンチンだった。大会MVPももちろんメッシ。でも得点王はエムバペという。ほんとこの人はとんでもないぜ。
いやはや、ほんと最後の最後にものすごい試合を観させていただきました。間違いなく今大会いちばんの熱戦だった。
それにしても、初戦でアルゼンチンがサウジアラビアに負けたときにはこんな結末はさすがに想像できなかった。もしかして今大会でアルゼンチンに勝ったのってサウジだけじゃん。それはそれですげー。サウジ大金星。日本もがんばったし(なんと総合9位だそうだ)、とりあえず二度目のアジア地区開催のメンツは立った感じ。まぁ、開催国のカタールは散々だったですけどね。
ということで、FIFAワールドカップ・カタール大会もこれにて全日程終了~。途中で流行り病に倒れたせいもあって、前回大会よりも十試合近く記録が少なくなってしまったけれど、それでもなんとか最後までたどり着きました。あぁ、疲れた。もうW杯の記録を残すのは本当に今回で最後だな。いい加減、ここいらが限界だなって思った。
それとも喉元過ぎれば熱さを忘れる……のかな。結論は四年後。
(Dec. 19, 2022)