あぁ、終わってしまった……。
まあ、もとよりグループリーグ敗退を覚悟していた大会だったから、決勝トーナメントで戦う日本代表を観られただけで本望、しかも決勝トーナメントならではの延長戦とPK戦まで経験させてもらったのだから、それだけでもお釣りがくるようなものだ……と。
素直に思えればいいんだけれど、そこはやはり欲深いというかなんというか。正直なところ、やっぱりもの足りない。前回、僕はデンマーク戦のあとで、もう岡田さんにケチをつけるのはやめようと思うと書いたけれど、こうやって120分を戦ってスコアレス・ドローに終わり、PK戦で敗退が決まってみると、やはり不満を漏らさずにはいられない。
確かにこの大会の日本代表は、それなりにいいサッカーをした。それは認める。決勝トーナメントに残ったんだから、弱かったとはいわない。異国でのベスト16入りは日韓大会を超える快挙だ。この試合にしたって、PK戦で負けはしたけれど、FIFAの公式記録上は引き分けとクレジットされるそうだから、同じベスト16での敗退とはいっても、結果としては黒星を喫した日韓大会を成績を上回っている。
でもさ、じゃあ今回の日本代表が繰りひろげたサッカーが僕の観たかったサッカーか、好きなサッカーかと問われれば、答えはノーなわけですよ。僕が日本代表に望んでいるサッカーはこんなんじゃない。つねにボール支配率が40%前後だなんてサッカー、僕にはちっともおもしろくない。もとから守備的なパラグアイにさえボール支配率で負けてしまうようなサッカー、どんなに守備が安定していようと好きになれない。
そう、僕にとっての理想はあくまで攻撃的なパス・サッカーなのだなと。今回、日本代表に限らず、この大会全般を見てきて、僕はあらためて思った。
守備的なチームが一概に悪いとはいわない。スイスくらいになると、あれはあれで一芸に秀でているというか、守備的であることがひとつの個性にまで高まっていて、それはそれで見事だと思う。でも正直なところ、観ていていいなぁと思うチームは、やっぱパスワークに優れているところなわけです。連係がきちんと決まるチーム。僕は日本代表にはそういうチームであって欲しい。
で、実際、日本には俊輔や遠藤、憲剛、松井など──呼ばれはしなかったけれど小野や小笠原も含めて──、パス・センスに優れた攻撃的MFがたくさんいる。長谷部や稲本、阿部、今野ら、運動量豊富なボランチだっている。いかに彼らを生かして中盤で競り勝ち、得点につなげてゆくか──それが日本の課題だと僕は思っている。そしてこれまで日本はそういうサッカーを目指してきたはずだと思っている。いや、思っていたのに。
いざ本番になってみれば、俊輔が調子を落としたというだけで、それまでやろうとしていたサッカーを放棄して、本番ではそれまでとまったく違う守備的なスタイルで戦う始末。本田が点をとってくれた試合しか勝てないなんてんじゃ、仕方ないだろう。守ってばっかりだから、ハラハラしっぱなしである意味スリリングだったけれど、でもやっぱそんなサッカーが観たかったわけじゃないって。
僕はもっときれいなパスがたくさんつながるところが見たかった。組織的に相手の行く手をふさぐばかりじゃなく、組織立って相手の懐に飛び込んでゆくようなサッカーが見たかった。きわどいクロスが左右からガンガン飛び交うところが見たかった。そしてなにより、もっともっとゴールが見たかった。
いや、なにも日本ばかりがゴールが少なかったわけじゃない。大会全体を見ても、そりゃほとんどの国がゴール不足でしょう。一部の強豪を除けば、ほとんどどこも勝ち上がるために、まずは守備からという姿勢をとっているチームばかりだ。そういう意味では今回の日本代表は、しっかり大会のトレンドに乗っていた。
でもだからこそ、なおさら僕は日本にはもっと攻撃的なサッカーを見せて欲しかった。まわりとは違うサッカーで世界をあっと言わせて欲しかった。日本にはそういうサッカーができる人材が揃っていると僕は信じているし──過信している、というべきなのかもしれないけれど、それでもヒデや松井、長谷部らの海外でプレーをしている選手たちが、口をそろえて「日本人の技術は十分海外で通用する」といい切っているんだから、あながち自惚れではないんじゃないかと思う──、足りないものがあるとすれば、それは経験と自信だろうと思っている。
だからこそ、この4年に一度の大舞台、どの国も絶対に手を抜いてこない真剣勝負の場で、そういう僕の理想からはほど遠い、とても守備的なサッカーしか見せてもらえなかったことに、がっかりせずにはいられない。なまじそういうサッカーで決勝トーナメント進出を果たしてしまったことで、これが日本の生きる道、みたいな風潮がまかり通ってしまうのだけは勘弁して欲しいと思う。
まあ、といいつつ、日本人は基本的に温和で、あまり攻撃的ではない民族なので、もしかしたらこういう守備的なサッカーってのは、意外と性にあっているのかな……という気がしてきたりもしたんだけれど。ラーメン屋の前で長蛇の列をつくって待っている人たちが、相手の猛攻にじっと耐えしのぶ日本代表の姿に自分たちの姿を重ねあわせて共感したりってこと……ないですかね? ないといいと思う。
なんにしろ、僕が日本代表に目指して欲しいのは、パラグアイやスイスではなく、アルゼンチンやスペインなので──どれだけ身のほど知らずといわれようと、叶わぬ夢を追いつづけてしまうのがロック・ファンの性だ──、日本代表が今回の成功を踏まえて、守備重視のスタイルへと方向転換すべきだなんてことになるのだけは、勘弁してもらいたいと思う。そんなことにならないよう、もっとおもしろいサッカーを見せてくれる人が次の代表監督に就任してくれるよう、心から祈らずにいられない。
ああ、それにしてもウッチーと森本、見たかったなぁ……。憲剛がなんとか出場機会をもらえたのが救いだけれど、それだって動くのが遅すぎた感があるし。結局、最後の最後まで岡田さんの選手起用には納得いかなかった。4試合スタメンをまったく変えなかったのも、単にどう変えたらいいかわからなかっただけじゃないかって気がして仕方ない。
PKだって、なぜに駒野をキッカーに選ぶかな。大会が始まるまでサブ扱いだった選手に、あの重圧のかかる場面で。はずした駒野を攻める気なんて当然これっぽっちもないけれど、駒野を選んだ岡田さんはどうかと思う。はずしてしまったからそう思ったのではなく、駒野が出てきた時点でおいおいと思った。
彼はPKが得意なんだそうだけれど、あの状況で大事なのは、そういう技術よりもまずは精神力でしょう。初のベスト8がかかったあの場面で、駒野のようなおとなしそうな選手にPKのキッカーは酷だと思う。憲剛や玉田だっていたんだし、それこそ岡崎だってよかった。三人とも途中出場だったから、肉体的にも精神的にも余裕があったはずだし。それなのに(直前の練習でもっとも成功率が高かったからという理由で?)駒野を選んでしまう──そんな岡田さんに僕は最後まで違和感をおぼえずにいられなかった。
そういや、翌日の発言では「しばらくサッカーから離れます」とか言っていたらしいけれど、それもどうなんだと思う。ほんと、この人からはサッカーに対する情熱や愛情がほとんど感じられない。病院のベッドで意識を取り戻すなり、サッカーの結果を問いただしたというオシム氏とは、じつに対照的だ。
試合直後のインタビューでは「今は日本サッカー界のことまで考える余裕がないです」とか言っていたけれど、あれもどうかと思った。岡田さんのあとにつづけてインタビューを受けた長谷部が「Jリーグも盛りあげてもらいたい」と言っていたのとも、えれぇ違いだ(ハセベえらい)。海外でプレーしている長谷部がちゃんとJリーグのことを気にかけているのに、代表監督たる人は日本サッカーのことを考える余裕がないってんだから。どっちが年長者か、わかったもんじゃない。
でもまあ、監督が駄目だったおかげで、選手たちが前大会とは比べものにならないほど団結していたのが、好成績のなによりの要因だったんだろうから、そういう意味では岡田さんが監督でよかったのかもしれない。これぞまさに怪我の功名。負けて「このメンバーでもう一緒にプレーできないのが悲しい」って泣けるのって、とても幸せなことのような気がする。
日本代表の今大会最後の試合だったというのに、試合の内容そっちのけで、結局また文句ばっかり並べてしまった。岡田さんも問題ありだけれど、僕も人のことはいえない。きちんと反省して、4年後はもっとましな大人になっていたい。
(Jul 02, 2010)