俺の道
エレファントカシマシ / CD / 2003
このアルバム、個人的にはもっとも好きなエレカシのアルバムのひとつなんだけれど、リリース前の期待はこれまた低かった(そんなのばっかりだな、俺)。
その理由も前作といっしょで、先行シングルに難があったから。
だって『生命賛歌』、『俺の道』、『ハロー人生!!』の三枚同時リリースってさぁ。しかもカップリング曲はみんなおんなじ『ろくでなし』ってのはいったいなんなですかね。もうちょっと普通にできないもんなのか。
三曲とも曲としては好きだけれど──とくに『生命賛歌』はこの時期最強のロック・ナンバーだと思う──シングルで切るにはちょっととっつきにく過ぎる。まるでエピック期に戻ってしまったかのよう。
僕はエピック時代のエレカシが大好きだけれど、それでもあの時期のシングルの切り方には大いに疑問を感じつづけていたので、ここでふたたびそのころの感じに戻ってしまったのには歯がゆい思いが否めなかった。ポニーキャニオンで売れ線ばかり狙っていたバンドが、あれからわずか二、三年でどうしてこうなっちゃうのかなと不思議でしょうがなかった。
おまけにこのアルバムはコピーコントロールCDでリリースされた。CDコレクターの僕はそうした風潮には批判的だったし、そんなのどうせすぐに廃れると思っていたので(実際にあっというまに廃れた)、そんな風にはんぱに時流にのる姿勢が気に入らなかった。
まぁ、エレカシというバンドは、ことセールスに関してはまわりのスタッフにまかせっきりって感じなので、レーベルの意向に逆らえなかった──というか、はなから逆らう発想さえなかった──ってことなんだろうなぁとは思うんだけど。
いずれにせよ、そんなわけで僕は特にこれといった期待もなく、どちらかというと最初から批判的な目を向けてこのアルバムを聴いた。それなのに思いがけず大いに盛りあがってしまった。
『浮世の夢』や『奴隷天国』のときもそうだったけれど、なまじ期待をしていないアルバムがよかったりすると、そのギャップでよけいに傑作に思えるというか、そういう傾向が僕には強いのかもしれない。
とにかく、これは本当によく聴いた。たぶん僕がこれほど繰り返し聴いたエレカシのアルバムはいまのところこれが最後だ。
このアルバムは先にあげた先行シングル3枚がそのまま並んだ冒頭部分から、ほぼそれ同等の音とメッセージの曲がずらりと並んでいる。
『覚醒(オマエに言った)』で宮本は「三十七なり、俺の青春は終わったけれど」と歌っているけれど、自分がもう若くないことを自覚しながらも、その若くない自分を真正面から受け止めて、自然体でいまを歌った、そんな曲ばかりが聴ける。
全体的にメジャーコードの曲が少ない点では『東京の空』に近い印象で、あのアルバムをいまいちといった僕が好きになるのはおかしい気もするんだけれど、この作品の場合はガリガリとしたラウドなロック・サウンドに等身大の歌詞を乗っけたその意匠が僕のつぼだったということだと思う。
『good morning』のような打ち込み主体でも、『ライフ』のようにウェルメイドなバラードたっぷりでもない。外部の力を借りることなく、いまの四人だけで出せる最高のロック・サウンドに乗せて、三十代後半の自分たちが感じるリアルな世界観を歌ってみせた。そこんところがとにかく最高。これこれ、こういうエレカシがずっと聴きたかったんだよって、その当時の僕は喝さいを叫んだ(心のなかで静かに)。
とにかくメロディー的にはエレカシ史上もっとも地味なアルバムだと思うし、ポニーキャニオン期や最近のポジティヴ路線が好きな人にとっては歌詞の面でも暗すぎるかもしれない。でもこれ、僕にはマジで最高のアルバムだった。
あえていうと一曲だけどうにも納得がゆかない曲があるんだけれど(まぁそれについては多くを語りません)、それ以外は全曲大好き。とくに『勉強オレ』は『待つ男』などと並ぶ僕の人生のテーマソングのひとつといってもいい。あと、先に書いた『覚醒』がかつての『絶好の歌』のアンサーソング的なところもこたえられない。
いずれにせよ、こんなに夢中で聴ける同い年のロック・バンドが日本にあるなんて、俺ってなんて幸せなんだろうって。心からそう思わせてくれた素晴らしき作品。
そういや、隠しトラックが入ったエレカシのアルバムってこれが最初でしたっけね。そのボーナス・トラックだけが唯一売れ線の明るい曲になっているのも、この激渋作品にはふさわしいかなと思う。
あぁ、なんか感想を書いていたら、その後に出た通常CDで買い直さないといけないかなって気がしてきました。
(Apr 02, 2017)