哀れなるものたち
アラスター・グレイ/高橋和久・訳/ハヤカワepi文庫
エマ・ストーン主演でアカデミー賞・四部門に輝いた同名映画の原作。
これも映画を観る前にということで読んだ作品。最近は読んでいる本の大半が映像絡みだ。まぁ、それだけ観たい映画が多いということでもある(最近はほとんど観れてないけど)。
いやしかし、エマ・ストーン主演ということで油断していた。こんなにセクシャルな内容だとは思ってもみなかった。ベッドシーンはひとつもないけれど、主人公の女性のイノセントな性的奔放さが物語全体を引っぱってゆく。
作者のアラスター・グレイはイギリスの小説家で、じつは僕はこの人の処女長編『ラナーク』もずいぶん前に買って所持しているのだけれど、なぜかエンタメ系の作品だと勘違いしていて、いままで読まずに放置してしまっていた。
今回この作品を読んでみて、そのツイストの効いた文学センスに脱帽。『ラナーク』をさっさと読んでおかなかったことを後悔した(読もうにもいまとなると積読に埋もれてどこにあるんだか……)。
この作品に関しては説明が難しい。
内容的には、ある種の書簡小説の形を取っていることからも、『フランケンシュタイン』を意識しているのだと思うのだけれど、単純に人造人間をテーマにしたファンタジー小説かというと、それもまた違う――というかまったく違うように思う。設定はともかく、物語的にはファンタジー色はゼロ。
とにかく、なんの先入観もなしに「この小説ってなに?」と首をかしげながら読むのが正しいのではと個人的には思います。意外性たっぷりのおもしろい小説だった。
最後についたボリューム満点の原注は読み飛ばしがちだけれど、その部分がなにげに作品に影響を及ぼしているところもすごい。
(Jun. 05, 2024)