不安的中。最低最悪。今までに何度も見せられたような不甲斐ない試合を、さらに最悪の形にグレードアップしてワールドカップ本大会のグループ・リーグ初戦という大事な舞台で見せられようとは……。
僕はとにかく大会前の合宿で、ジーコが3バックで練習していると聞いた時から、かなりの不安をもっていたのだった。これまでに3バックで内容がいい試合を見た記憶がないのだから、期待しろってのが無理だ。今の日本代表の強みは中盤のタレントの豊富さにあるのに、その部分を削ってディフェンスの枚数を増やして強くなるはずがない。なのにジーコは海外組も揃ってフルメンバーになった上でなお、本来ならば好きなはずの4バックではなく、3バックを採用してきた。なぜか?
思うにそれは、彼の重用している中心メンバー3人の存在がゆえなのだろう。
一人は宮本。彼は所属クラブのガンバ大阪が4バックを採用するにあたって、スタメンを外されてしまうような選手だ。リーダーシップやサッカーセンスにケチをつけるつもりはないけれども、4バックの真ん中を任すにはやはり身体能力的にものたりない。
二人目はアレックス。以前に比べれば随分とディフェンス力は向上したけれども、それでも4バックの左を任せ切るには心許ない。
そして最後が攻撃の中心選手、中村俊輔。彼もどちらかというとディフェンスはうしろに任せて、攻撃に専念させておきたいタイプだ。これまでの試合を見てもあきらかなように、あまりディフェンスに気をつかわせてしまうと、その本来の攻撃的センスが生かせないで終わってしまう。
この三人はジーコの構想上、はずすことのできないメンバーだ。そんな彼らの存在に加え、もう一人の中心選手、中田英寿がボランチをこなせるユーティリティを備えていたこと。それがこのチームのフォーメーションとして、本来ならば理想であるはずの攻撃的な4バックではなく、守備的な3バックを選択させることになってしまったのだと思う。ある意味、それは最初に人ありきというジーコの基本方針により導き出された、理想的とはいえないながらも現実的で最善の形だったのだろう。
そんな風にいまさら3バックと4バックとどちらがいいという議論を蒸し返しても始まらないのだけれど、それにしても僕はこんな不甲斐ない戦い方をして、みすみす勝ち点3を逃したことが、もう悔しくてならない。どうせ守りきれないのならば、下手にディフェンダーを増やさずに、攻撃的な選手を一人でも多く起用して欲しかった。
なにはともあれ川口、坪井、宮本、中沢、駒野、ヒデ、福西、アレックス、俊輔、高原、柳沢というスタメンでのぞんで、惨敗を喫したオーストラリア戦だ。
試合は戦前の予想どおり、最大のアドバンテージである高さを生かしたオーストラリアの攻撃に苦しみつつ、日本がなんとかその攻撃をしのぎ続けるという形に終始した。さすがに試合前からさかんに名前があがっていただけあって、9番のビドゥカが上手い。パワーのあるポストプレイにはやたらと手を焼かされた。彼を中心とした前線の選手をめがけて徹底してロングボールを放り込んでくる戦術は、わかっていたとは言え厄介きわまりなかった。
それに対して日本の攻撃はと言えば、ああ、いつもどおりだ。たまにチャンスがあっても、ゴール前での消極性がわざわいして、シュートさえ打てないで終わってしまう。「なんでそこで打たない!」と叫ばされたシーンが一体何度あったことか……。なんでゴール前まで詰めておきながらシュートを打たずにパスを出すかな。柳沢はともかく高原まで? あんなプレーばかりしていて、勝てるわけがない。
そもそもキーパーチャージと判定されなかったのが不思議なくらいのラッキーなゴールで先制したのをいいことに、その1点を守りきって勝とうなんて調子のいいことを思うから負けるんだ。あれで勝ったんじゃ恥かしいから、ぜひ2点目は文句なしの形で決めようぜ、というくらいの強い気持ちは出ないものか。
結局30度を優に超える暑さのなか──ピッチ上は38度だったという話もある──、暑い方が有利だと言っていたはずの日本の選手たちもすっかりばててしまった。終盤は高原などはまるで動けなくなっていたように見える。それでもジーコは彼を代えずに、最後まで起用し続けた。僕にはその采配がまるで理解できなかった。ヒディンクが交替カードを的確に使い、結局オーストラリアは途中出場の選手が3得点全部を記録するという活躍を見せたのとは対照的だ。もう本当に嫌になってしまった。
確かにアジアカップの時は選手交替をせずに、耐えに耐えてしのぎ切れた。でもあれはやっぱり相手がアジアのレベルだったからこそだ。ワールドカップでそんなことをしていたらば、みすみすチャンスを逃すだけだ。しかもジーコ氏、ようやく動いたと思ったらば、柳沢をさげて小野を投入する。中盤のタレントを増やしてボールをキープしたかったのだろうけれど、これが失敗。前線の駒が減った分、チームはさらに下がり目になってしまった。選手たちは疲労困憊してしまい、なすすべもないように見えた。それでもジーコはまだ動かない。
そうこうするうちに残り時間5分でついに日本は力尽きる。それまで驚異的ながんばりを見せていた川口のミスから同点ゴールを許し、さらには逆転ゴールも許し、おまけに駄目押しゴールまでプレゼントしてしまうことになる。やっていられない。
結局、最後のカードを切って大黒を送り出したのは、負け越してロスタイムに入ってからだ。絶~っ対に遅すぎる。とにかくジーコの選手交替のタイミングの悪さは目に余る。せめてもっと早い時間に、三人のサブのFWのうち、二人を一気に投入して前線をかき回しておけば、またちがった結果になっていたんじゃないか。結果論だとは知りつつも、そういう風に打てる手を打たなかったことで、最善を尽くさずに負けたというわだかまりが残ってしまって仕方ない。残り10分たらずで逆転負けを喫したこともあり、悔いばかりが残る敗戦だった。
この試合では、後半途中で坪井が足がつったかなんかで途中退場するハプニングがあった。ある意味、あれがゲームプランを狂わせた部分もあったのだろう。彼が交代していなかったらば、その後の選手交替のカードも代わっていたのかなという気がしないでもないけれど……。それにしても代わりに出場した茂庭はなんて強運な星の下にいるんだろう。まあせっかく出場できたとはいっても、試合がこの内容では嬉しくもなんともなさそうだけれど。
なんにしろ公式記録を見るとボールの支配率はオーストラリアが52%だ。ポゼッション・サッカーを指向していたはずの日本が、ボールの支配率で負けていて勝てるわけがない。ましてやシュート数は日本の6に対して、オーストラリアが実に20、そのうち枠内シュートなんて2-12だ。この数字を見る限り、負けるべくして負けた試合だろう。80分間は勝っていたとか言っている場合ではない。この大会はもう終わったも同然だ。ああ、もう本当に最悪……。
(Jun 13, 2006)