本当は日本代表がベスト4を目指して戦うところが見られるんじゃないかと期待していたこの時間帯に、よりによってセネガル対トルコとは……。正直なところ、なんて地味なカードを見ることになってしまったんだろうと残念に思っていたのだけれど。
これが「失礼しました」と謝りたくなるくらいおもしろい試合だった。
試合前は驚異的な身体能力を誇るセネガル有利というのが大方の予想だったように思う。ところがいざ試合が始まってみると、終始ゲームを支配するのはトルコの方だった。中盤での小気味よいパス回しからバラエティに富んだ攻撃を仕掛けるその姿は、まるで日本戦とは違うチームのようだった。
一番の違いは多分MFのエムレという選手の存在だろう。インテルのレギュラーだというこの21歳の選手が中盤の基点となり、素晴らしいプレーを見せてくれていた。こんな選手が日本戦では累積警告で出場停止だったなんて。それなのに勝ちを逃してしまうなんて。なんて惜しいチャンスを逃したことやら。
とにかく彼が加わったことでトルコのパスはおもしろいように回っていた。森島似の10番のバストゥルクも今日はかなり効いていた。中盤にそうした優れたプレーヤーがいるおかげで、ツートップの攻撃力も日本戦の比ではない。何度となくセネガルのゴール前を脅かし続ける。けれどしかし。
エース・ストライカーのハカン・シュキュルが絶不調だった。いや、日本戦ではほとんど存在感がなかったことを思えば、あれだけチャンスに顔を出していたというのは逆に調子がよかった証拠なのかもしれない。それにしても今日の彼は打てなさ過ぎた。ゴール前の決定的チャンスでパスをもらいながら、前代未聞のトラップミスをしてみたり、あと一歩伸ばせば届きそうなボールを見逃してみたり。とにかく上手いことゴール前には入り込むものの、肝心なところでボールに触れない。あまりに惜しいチャンスを逃しまくるので、いつの間にかトルコ贔屓な応援をしていた僕は、なんだそれはと憤慨すること頻りだった。
トルコが日本戦とは見違えるようなパフォーマンスを展開していた一方、対するセネガルは前回のスウェーデン戦で出場停止だった10番ファディガ、15番ディアオという中心選手が戻って来たにもかかわらず、ディウフらが前の試合で見せたあの驚くような切れ味は影を潜め、受身、受身の試合運びになってしまっていた。このセネガルならば開幕戦と同じ印象だ。それを見ていて、もしかしたらこのチームは中盤でのボール回しを得意とするチームは苦手なんじゃないだろうかと、ふと思った。だとしたら日本だって結構善戦できたかもと思うと、それがまた無念で仕方ないのだけれど……。
ま、そうは言ってもセネガルはやはりセネガル、球ぎわのスピードにはものすごいものがある。ゴール前での混戦からこぼれるようにゴールマウスへ転がったトルコのシュートに、瞬時に追いついてクリアした2番ダフのプレーには、思わず笑ってしまった。アナウンサーも絶叫していたけれど、本当にどうしてあれがクリアできるんだ?
そんな風に、終始トルコが組織的な攻撃で攻めたて、時おりセネガルが個人技の切れで反撃を見せるという展開の中、時間はあっという間に過ぎ去っていった。こんなに90分が短く感じられたのは、日本代表の試合を除くと初めてかもしれない。僕にとっては今大会のベスト・マッチのうちのひとつだった。
結局試合はスコアレスのまま前後半を終わってしまう。熱戦の決着は意外とあっけなく、延長戦の前半4分にやって来た。途中交替で出場していたトルコの6番アリフが右サイドをドリブルで駆け上がる。これをセネガルがつぶすものの、そのこぼれ球を日本戦で決勝ゴールをあげたモヒカンヘアのダバラ(なんとACミランの選手だそうだ)が拾って、ドリブルで攻め上がり、斜めにクロスを入れる。このボールを、後半途中からシュキュルに替わって出場していた17番のイルハンがダイレクトボレーでゴールへ流し込み、ゴールデンゴール! 長髪を頭の上で結わいた可愛い顔のFWが、不発だったシュキュルの替わりに見事な活躍を見せ、トルコが初のベスト4進出を決めた。
しかしまあ、おもしろい試合だった。日本代表の試合が見られなかった無念をある程度晴らしてくれる素晴らしい試合だったと思う。これでトルコはグループリーグで負けたブラジルと、準決勝で再戦することになった。今日の出来を維持できるようだと、またおもしろい試合が期待できるだろう。こりゃ楽しみだ。
(Jun 23, 2002)