あぁ、やっぱりこんな展開に……。
初戦で逆転負けをくらい、2戦目でヨーロッパ勢とスコアレス・ドローって。まるで8年前のドイツ大会を再現するような、既視感あふれるこの展開はなんなのか。
大事なこの試合に向けて、僕がザッケローニに望んでいたことは、ただひとつだけだった。
遠藤をスタメンで使ってくれと。ただそれだけ。
いまの日本代表のストロング・ポイントは攻撃にあり、その攻撃力がもっとも発揮されるのは遠藤が出場しているときなのだから、その遠藤をベンチに置いてスタートするなんて選択肢はあり得ないと僕は思った。
慎重を期した初戦は、失点を避けたいから、攻撃力をやや落としてでも、守備的なバランスを重視するのはありかと思った。
でもこの二戦目はどうしても勝たないといけない試合だ。
前の試合での日本は、自らの長所をまったく発揮できないまま、受け身にまわって惨敗を喫した。
だとするならば、必勝を期して臨むこの試合は、現時点での最高のメンバーを並べて、最初から積極的にガンガンと攻めて出てでこそでしょう?
なのにこの試合で、またもやザッケローニは遠藤をスーパーサブとして使うことを選択する。
さらにはなんと、香川もベンチスタート?
さらにさらに、会場はこの日も初戦と同じく、あいにくの雨。
僕はスタメン発表とこの雨天の映像を見た時点で、あぁ、まずいと思ったんだった。
今大会は暑いブラジルが舞台ということで、夏場の試合が多くて暑さに慣れた日本の選手には有利だろうと思っていたのに、雨ではその暑さが緩和されてしまう。なにより細かいパスワークを命綱とする日本にとっては、スリッピーなピッチはミスが増えてマイナスな印象がある(かつて雨のフランスで惨敗した過去の記憶が鮮明なせいか、少なくても僕にはそういう印象がある)。
ザッケローニが香川をスタメンから外したのは、この雨のせいもあるのかなと思った。日本代表のなかでも、もっとも繊細なプレーを持ち味とする香川には、その分、ピッチ・コンディションの悪さに影響されそうな印象があるから。前の試合での出来の悪さとこの日の悪天候があいまって、香川のスタメン落ちという思い切った結論になったんじゃなかろうか。
ということで、この日ザッケローニが選んだスタメンは、川島、内田、今野、吉田、長友、長谷部、山口、岡崎、本田、大久保、大迫という11人だった。
最終ラインに今野が復帰して、香川のところへ大久保が入った形。
前の試合の森重はよかったと思うのだけれど、それでも替えてきたのは、やはり予選をずっと一緒に戦ってきた今野への信頼ゆえか。はたまた森重が初戦でイエローカードを1枚もらっていることを懸念したか。
大久保の起用はあると思っていたけれど、たぶんワントップでの起用だと予想していたので、ふたたび大迫が起用されたのも意外だった。まさか大迫のかわりに香川がはずれるなんて、予想外もいいところだ。
でも大迫、この試合は前の試合よりはまだよかった。少なくても遠目からでもシュートを打っていこうとする積極性が出ていた分、だんぜん印象がよかった。とくに2本目のゴールポスト右をわずかに外れたミドルシュートには、あぁ、あれが決まっていてくれたなら……と思わずにいられない。
ただ、大迫個人はともかく、チーム全体としての入りかたは、この日もあまりいいとは思えなかった。
今回の大会はどこの国も攻撃的で、キックオフと同時に前を向いて積極的にボールを運んでゆく印象があるのに、日本代表の場合、前の試合でもこの試合でも、最初はゆっくりとうしろからボールをまわして慎重に……みたいな感じの入りかたをしていた。
僕にはそんな姿勢が攻撃的サッカーを標榜するチームにはふさわしくなく思えてしかたなかった。「さぁ、試合だ、攻めて攻めて攻めまくるぞ!」って意気込みをちっとも感じさせない。そんな入り方をした日本代表には、正直なところがっかりした。実際、前の試合ではそこから一歩も踏み出せずに終わってしまったような印象だったし……。
まぁ、それでもこの日は前節と比べれば、格段にボールがまわせていた。なんたって試合途中でのボール保持率が70%(最終的には68%)ってんだから、50%を大きく切っていたコートジボワール戦とは雲泥の差だった。
ただ、それは相手が堅守速攻のギリシャだからってのは絶対にある。相手にボールをまわさせるのはあちらにとっても自然な流れだろうし。欧州予選でスペインやイタリアなどと対戦することがあるギリシャからしてみれば、日本のパスまわしなんて恐るるに足らずだろう。
実際、ボールはまわせていても、決定機は大迫のミドルなど、遠目からの個人技頼りって感じで、あまり怖さは感じさせなかった。
ただ、いまの日本代表の場合、そうやってボールを支配しているうちにファールを多く誘って、徐々に相手を不利な状況に追い込んでゆくというのが、アジアではよくあるパターン。
この試合でも前半の終わりごろに、そうやってギリシャのキャプテンで21番のMFカツラニスをイエローカード2枚で退場に追いやってしまう。ヨーロッパの国を相手にそういう戦いができたのが、この日のわずかばかりの収穫だと思った。
ただし、そのあとがいけない。数的にビハインドになった相手を崩し切れずにスコアレス・ドローって……。後半頭から長谷部→遠藤、さらには少し遅れて大迫→香川と選手交替のカードを切って、そこからは現時点でのベスト・メンバーと呼べる布陣になったのに、それでもスコアレスって……。
まぁ、堅守のチームが退場者を出して、さらに引いてがっちり守りに入ってしまうというのはありがちなパターンで、この日の日本代表はそんなパターンに見事にはまってしまったわけだ。攻撃をモットーとするいまの代表だからこそ、その守備の壁をこじ開けてみせるだけの力を見せてくれることを期待していたのだけれど。あぁ……。
そういや、香川を入れたあとは岡崎のワントップという形になったのを見て、僕はあぁ、なるほど、これはありかもと思った。今季の岡崎はブンデス・リーガでワントップでプレーして、15ゴールをあげているわけだし。ならばパスセンスに優れた日本代表で、同じように活躍できないはずがなかろう。
とはいえ、現実問題として、ザッケローニはこれまでその形をほとんど試してこなかったわけで。是が非でも1点を奪わないといけないこの大事な局面で、そんな付け焼刃なフォーメーションを試さなくてはいけないのは大いに問題だった。
なんにしろ、後半はその形で、内田、長友の両サイドの攻め上がりから何度となくクロスを入れるも、真ん中を固めるギリシャの守備にすべて跳ね返されてしまう、ということの繰り返し。で、延々とそんな展開をリピートしつづけるうちに、時間はどんどん過ぎてゆく。そしてこの日も残り時間が少なくなると、ザッケローニは吉田麻也を最前線にあげて、パワープレーを始めるのだった。なんでそうなるの?
まぁ、攻撃の枚数は足りていたし、前線の選手にはこれといって替えるべき選手がいなかったから、別に交替のカードを1枚残して終わったっていいと、僕自身は思っていた。でも麻也を攻撃に差し向けるくらいだったら、彼か今野に替えて攻撃的なサブの選手を使おうよ~。齋藤学とか、柿谷とか、清武とか控えているんだからさぁ。その方がよほどクリエイティヴだし、観ている僕たちも納得がいっただろう。
イーブンな人数で戦っているのならばともかく、こちらは相手よりもひとり多いわけですよ。なぜにDFをひとり削るリスクを払って、その分フレッシュな選手を入れて、攻撃を活性化させるって手が打てないかな。
ザッケローニは選手には勇気とバランスが大事とか言っているくせに、自分自身はいざというときにリスクを冒す勇気を持てないでいる気がしてならない。
ということで、結局試合はスコアレス・ドローで終了。日本が自力で決勝トーナメントに進出する可能性はなくなった。
かりに日本がこのあとコロンビアに勝ったとしても、同時にコートジボワールがギリシャに勝ったら、その時点でおしまい。コートジボワールが引き分け以下だった場合に限り、得失点差で日本にも決勝トーナメントへの道が見えてくる。
まぁ、ギリシャも勝ちさえすれば、コートジボワールを勝ち点で上回れる──つまり日本以上に2位以内になれる可能性が高い──わけだから、ヨーロッパ勢の意地として、そう簡単にコートジボワールに勝たせたりはしないだろう。なんとか勝ってくれるよう祈ろう。そして僕らは僕らで勝利をめざそう。
願わくば、次こそ遠藤スタメンで。勝つにしろ負けるにしろ、今回の代表の集大成となるような試合を見せて欲しい。
(Jun 20, 2014)