男はつらいよ
山田洋次監督/渥美清、光本幸子/1969年
記念すべき第一作は寅次郎が二十年ぶりとかで柴又に帰ってくるところから始まる。これはちょっと意外だった。あれだけ年中おいちゃん(森川信)、おばちゃん(三崎千恵子)に迷惑をかけている寅さんが──しかもその後は1年に数度、里帰りする習慣となる人が──、まさかそんな長い間、故郷を離れていたとは思わなかった。妹のさくら(倍賞千恵子)なんて、別れたのがあまりにちいさな時だったから寅の顔も覚えていないという。それなのに、あんな兄にいきなり「お前のお兄ちゃんだよ」とか登場されて、それを素直に受け入れてしまうという信じられない人のよさはいったい……。それはちょっと人が良すぎやしないかと思わずにはいられない。現代人の感覚からするとおとぎ話のようなそんな馬鹿げた素直さこそが、この長大なシリーズを支えているのかなと思った。こんな映画、おそらく僕らの世代には恥かしくて作れない。
個人的なところでは、初代マドンナ冬子(御前様の娘さん)を演じる光本幸子という女優さんが若いのには感銘を受けた。あの手の和服姿の落ち着いた容貌の女性を見て、若いなあと思う自分の年齢を感じたという意味で。いやでも、実際この人、おちついた感じがよくて、なかなか可愛いと思いました。少なくてもここまでに見た6作のヒロインの中では一番好みだった。
あ、そう言えば倍賞千恵子も若くて可愛い。まあ年をとってもきれいな人ではあるけれど、この作品ではちょっとエキセントリックな雰囲気があって、役柄はともかく──って、そんな言い方はないか。ごめんなさい──とても魅力的だと思う。
そのほか、博(前田吟)の父親役で志村喬氏が出演している。この辺であれっと思う。志村喬さんが結婚式で泣くシーンにはなんだか見覚えがあるような……。この作品を見るのは初めてだと思っていたのだけれど、どうやら以前に一度見たことがあったみたいだ。うーん、あてにならない記憶力。
もうひとつおやっと思ったのは、寅さんの舎弟ノボルの役が、クレジットでは津坂匡章となっている点。この人って秋野太作さんじゃないのかと思って調べてみたら、やはりそうだった。この人、どこかで名前変えてます。
(Aug 18, 2005)