『男はつらいよ』@BS2特集(3)

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Index

  1. 男はつらいよ 寅次郎忘れな草
  2. 男はつらいよ 私の寅さん
  3. 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ
  4. 男はつらいよ 寅次郎子守唄
  5. 男はつらいよ 寅次郎相合い傘

男はつらいよ 寅次郎忘れな草

山田洋次監督/渥美清、浅丘ルリ子/1973年/BS2録画

第11作 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 HDリマスター版 [DVD]

 父親の法事の日に帰ってきた寅が、おいちゃんが死んだものと思って騒ぎ出すというオープニング。ピアノが欲しいと憂うさくらにおもちゃのピアノを買ってやって得意げな寅と、そのボケに困るとらやの面々。最初からとてもテンションが高い。
 自分の的外れに気づいてさっさと家を飛び出した寅は、北海道・網走で行商をやっていてリリーと知り合う。でもって彼女との会話──「あたしたちの人生なんてあぶくみたいなもんだよね」──に感じ入って、堅気になるべく牧場で働き始めてみたはいいけれど、当然のごとく三日坊主でダウンする羽目に……。わざわざ北海道まで迎えにゆくさくらに連れられ、柴又に戻った寅は、そこで偶然リリーと再会することになる。
 印象に残るエピソード満載、内容の濃さはこれまでで一番だろう。間違いなくシリーズを代表する一本だ。
 本人のいうとおり、かなり化粧は濃すぎるけれど、それでも浅丘ルリ子はとても綺麗だと思うし、なにより現代的なそのフランクさがとても魅力的だ。彼女がクラブで歌う『港の見える丘』という歌もとてもいい。ちゃんとした音で聴きたいと思ってiTunes Music Storeを検索してみたくらい──だけれどカタログに入ってなくて残念でした、で終わってしまった。僕個人の趣味からすると、いまのところiTMSは品揃えに問題があり過ぎて使えない。
 あと、寅が騒動を起こしたあとで、ひろしに「地平線がまっすぐに見えるような広いところへ行ってみたい」と、しみじみと云わせておいて、その後、そんな真面目なひろしが夢に見る地そのものという北海道で、寅がのんびり過ごしていたり、その寅が問題を起こしたために、さくらもそこへ行くことになる(でも全然楽しめなくてちょっと可哀想)というシニカルな話の持っていき方もうまいと思う。
(Oct 08, 2005)

男はつらいよ 私の寅さん

山田洋次監督/渥美清、岸恵子/1973年/BS2録画

第12作 男はつらいよ 私の寅さん HDリマスター版 [DVD]

 とらやの一行が九州旅行に行こうとしているところに、タイミングが悪いことに寅が帰宅。一人で留守番することになった寅さんは旅先の一行を心配してやきもき、一方のおいちゃんたちも寅が気になって行楽気分を満喫できない。結局予定を切り上げて早めに帰宅する羽目になる。旅に疲れた人の気分が誰よりもわかる寅は、風呂を沸かし、食事を用意して一行の帰りを待ちわびる。そんな彼の思いやりに帰ってきた一同が素直に感動しちゃう、というのがオープニングのエピソード。このあまりに人のいい展開には(イージーだとは思いつつも)心温まるものがある。
 その後、寅は小学生時代の同級生(前田武彦)と再会。その妹・りつこ(岸恵子)とも出会う。ところが珍しく寅さん、出会うなり彼女に喧嘩をふっかけられて──どう見たって悪いのは寅さんだけれど──、二人はいきなり犬猿の仲になってしまう。翌日彼女がとらやに訪ねてくると知った時には「あんな女、うちに入れるな。塩をまけ、塩を」という剣幕だ。でも相手が謝りに来たとわかった途端、態度が一変。なんたって相手は美女だから、いつもどおりメロメロに……。
 この作品で最高なのは、そんな寅とマドンナの和解のシーン。寅の名前を間違えて覚えてしまった岸恵子が、とらやの軒先をくぐって入ってくるなり、寅に向かって「あら~、くまさん」と呼びかけるやつ。あのシーンはとびきりの傑作だと思う。本当、この映画の放送予定のCMでそのシーンが放送されるたびに、わかっていながら毎回のように笑ってしまった。
 あと、またもや恋わずらいで寝込んだ寅が、見舞いに来た岸恵子をさくらと勘違いして、「さくらがあの人に見えるようじゃ、この手の病気も重傷だなあ」みたいなことを言うくだりがとてもうまい。そんなことあるはずないだろうという展開にもかかわらず、図らずも自らの思いを告白してしまった寅のあわてぶりと、相手の気持ちを知ったマドンナの困惑には、どちらもちゃんと共感できるリアリティがあって、見ているだけのこちらまでが、笑いながらも両者の困った気分を共有できてしまう。
(Oct 08, 2005)

男はつらいよ 寅次郎恋やつれ

山田洋次監督/渥美清、吉永小百合/1974年/BS2録画

第13作 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ HDリマスター版 [DVD]

 この話はふるっている。冒頭の夢のシーンで描くのが花嫁行列。しかもその新郎が寅さんが自身だ。ついにお嫁さんを見つけた彼が、花嫁をともなって、おいちゃんたちの家(とらやではない)に戻ってくるという話。でも帰ってみると、時すでに遅しで、おいちゃんたちは一年前に他界していた……、という、めでたいのか、めでたくないのかわからない夢を寅さんが見ていました、というところからこの作品は始まる。
 でもってその後、すぐに寅の帰宅シーンがあって、寅さんがいうところには、今は島根の旅館で番頭をしていて、その近所で焼き物作りの手伝いをしていた絹代さんという女性と所帯を持とうかと思っているとのこと。そりゃめでたい、お祝いだと盛り上がる一同だけれど、いざ詳しい話を聞くと、今回も結局、寅の一人相撲であることがわかって……。
 いやー、この話の持って行き方は実に見事だと思った。シリーズものだからこそ許されるシナリオで、実に素晴らしい。どこぞの旅館で働き始めて、そこの女性に恋をするというのは、第三作『フーテンの寅』で既に扱ったパターンだ。それを今回は、マドンナ不在のまま──のちにその女性も出てくるけれど、リアリストの寅さんが結婚相手として考えるくらいだから、この人はいわゆる美女というタイプではない──、寅の語りによって再現してみせている。寅さんの失恋話はこれまでに散々繰り返されて来ているだけに、見ている僕らには、相手がいなくてもなんのその、話のなりゆきが痛いほどよくわかってしまう。
 結局、寅はこの女性──とうぜん相手にはそんなつもりは微塵もない──に振られ、その後に今回ヒロインとして二度目の出演を果たした吉永小百合と再会して、またもや振られることになる。グリコじゃないけれど、一話で二度も振られるかわいそうな寅さんだった。いやしかしこのシナリオは、ほんと見事だと思った。とても感心した。
 後半の話の中心となるのは、旦那さんと死に別れて自立を目指すヒロイン歌子と、頑固な小説家の父親(宮口精二)の和解の物語。この親子二人がとらやの店先でお互いに言葉を交わす感動的なシーンが、この作品のクライマックスとなっている。
 ちなみにNHKで放送のあとの案内役を務めている渡辺さんも指摘していたけれど、マドンナの父親役の宮口精二さんは、登場したニ作品において、どちらもおばちゃんからカキ氷でもてなしを受けている。前回はメロン味、今回はイチゴ味。いくら暑いからって、初老のお客さんにカキ氷を出すおばちゃんって、どうなのと思う。昔はあれが普通? それとも山田洋次さんのギャグ? そのへんがわからないのが困りものだ。
(Oct 10, 2005)

男はつらいよ 寅次郎子守唄

山田洋次監督/渥美清、十朱幸代/1974年/BS2録画

第14作 男はつらいよ 寅次郎子守唄 HDリマスター版 [DVD]

 旅先で赤ん坊を押しつけられてとらやに帰ってきた寅さん、仕事中に手を怪我した博の通院先の看護婦さんに惚れるの巻。
 寅に赤ん坊を託して逃げ出してしまう男に月亭八方(顔には見覚えがあったけれど、名前が出てこなかった)。彼の昔馴染みのストリッパー役には、第三作で寅の見合い相手を演じた春川ますみさん。でもって寅の恋敵──というか寅さんは彼に恋愛指南をして、結局マドンナとの仲を取り持っちゃうことになるのだけれど──が上條恒彦というゲスト陣。
 マドンナの十朱幸代さんという人は、僕が少年時代に憧れた女優さんのうちの一人だったのだけれど、今見ると特に惹かれるほどでもないというか……。このあいだゴールディ・ホーンを見ても思ったことだけれど、なんだかこの頃はそういうのが多いなあと。どうにも僕はこれまでの人生のどこかで、女性に対する趣味が思いきり変ったに違いない。それとも単に年をとったってことなんだろうか? よくわからない。
 とにかく、そんなことを云いつつも、彼女が上條さんに告白された翌日、彼のもとを訪れて、ちょっと照れながら「あなたにあいたかったの……」とか云うシーンはけっこう胸にくるものがあった。ああいう純情なシーンって最近は少年マンガでさえ、とんと見かけないので──気恥ずかしさをおぼえつつも──、いいなあと思ってしまった。
 この話からおいちゃん役が下条正巳さんに交替。僕が(というかやっぱり一般的に?)一番なじみのあるおいちゃんは、この作品から最後までを務めたこの人だ。とはいっても、こうしてここまで続けて見てきてしまうと、やっぱり喜劇色の強い森川信さんや松村達雄さんのおいちゃんの方が好きだったかなあと思ってしまったりする。それでもきっと、これから先ずっと見続けているうちにはきっと、下条さんのおいちゃんにも慣れて、やっぱりこの人も捨てがたいと思うようになるんだろう……。本当かな?
(Oct 23, 2005)

男はつらいよ 寅次郎相合い傘

山田洋次監督/渥美清、浅丘ルリ子/1975年/BS2録画

第15作 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 HDリマスター版 [DVD]

 冒頭の夢のシーンは力作の海賊もの。海賊タイガーと妹チェリーとか名乗って笑わせる。レギュラー総出演に加え、米倉斉加年と上條恒彦という、ちょっと前に寅さんにキューピッド役をつとめてもらったゲスト俳優二人も出演してる。特に米倉さんの木っ端海賊ぶりは、ちょい役には惜しい嵌まり具合だ。
 続くタイトル・ロールのシーケンスには寅さんが出てこない。自転車に乗って江戸川の土手や街中を走るさくらを追いながら、柴又の風景を活写してゆく。これがとても叙情的でいいシーンだった。おかげで海賊が上條さんや米倉さんだったことを確認しようと思っていたのに、思わず見とれていて、クレジットを見落としてしまったくらいだ。
 この作品ではさらに本編の導入部でもちょっぴり意表をついてみせる。今ごろ寅はどうしているかととらやのみんなで話をしているところへ、その寅さんのかわりに登場するのがあのリリーなのだから。寅より先にマドンナを登場させちゃうという、ささやかながら意表をつく展開。シリーズとしてマンネリ化しなかったのは、こういう細かい気の使い方をしているからなんだろうなあと思わされる、冴えた演出だった。
 その後ようやく寅さん登場。ここでもまたサプライズがある。なんと彼はいきなり、東京を逃げ出してきた変わり者のエリート・サラリーマンと一緒に旅をしているのだった。この兵藤というサラリーマン──寅さんたちからはパパと呼ばれている──を演じる船越英二さんがまたいい味を出している。おっとりとしてとぼけていながら、そこはかとなくペーソスを漂わせていて、寅さんとの絡み具合が最高だ。この二人に偶然再会したリリーが加わる。三人揃ってからの旅のシーンはこの作品のクライマックスのひとつだと思う。
 でも、楽しい三人の旅物語は、兵頭の初恋の人とのせつない再会と、寅とリリーの仲たがいによって幕となってしまう。その後、リリーと喧嘩したことを気に病みながら柴又に帰ってきた寅は、そこへタイミングよく訪ねてきた彼女と無事再会。なにもなかったように仲直りして、腕を組んだまま柴又界隈を徘徊、近所の噂の的となるのだった。
 兵藤が土産に持ってきたメロンを自分のために取っておかなかったからと家族を罵倒する寅を、リリーが啖呵一発で言い負かす場面も傑作。自分より悲しい境遇のリリーにけなされたんでは、寅にも返す言葉がない。子供みたいにふてくされて家を出てゆく寅さんがおかしい。そしてその夜、雨の中、寅が唐傘を持って、仕事帰りのリリーを駅へと迎えにいき、名場面との誉れの高い相合い傘のシーンとなる……。
 結局二人の仲は、さくらが結婚話を持ち出したことが原因となって、上手くゆかずに終わってしまう。でもまあ、それはもう当然のなりゆき。所帯を持っても決して長続きはしないんだろうと思わせる儚さが二人にはある。だからこそリリーは魅力的なのだし、寅さんもまた魅力的なのだと思う。
 この作品をシリーズ最高作に押す人が多いというのも納得の出来だった。大変楽しませていただきました。次にリリーが再び登場する二十五作目の放送は年明けらしい。そりゃちょっと待ち遠しいかも……。
(Oct 23, 2005)