『男はつらいよ』@BS2特集(5)

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Index

  1. 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく
  2. 男はつらいよ 噂の寅次郎
  3. 男はつらいよ 翔んでる寅次郎
  4. 男はつらいよ 寅次郎春の夢
  5. 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花

男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく

山田洋次監督/渥美清、木の実ナナ/1978年

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 『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』が公開され、ピンクレディーの『UFO』がヒットした頃の作品ということで、冒頭の夢のシーンは宇宙人もの。寅さんが実は宇宙人で、彼を迎えに宇宙人がUFOでやってきたというかぐや姫のパロディだ。迎えにくるエイリアンが『猿の惑星』の猿とゲンちゃんというギャグがかなり恥かしい。
 マドンナはさくらの同級生だった松竹歌劇団のダンサー、奈々子(木の実ナナ)。この人にはすでに結婚を申し込まれている恋人がいるので、寅さんの恋もあまり深入りしないであっさりと終わる。
 ちなみに奈々子の恋人と言うのが『太陽にほえろ』のゴリさんこと、竜雷太。彼が雨のなか、恋人のアパートの窓を見上げているシーンを見て、「あ、ゴリさんが張り込みしている」と思わない日本人は、おそらくいないのではないかと思う──少なくても僕らと同世代以上ならば。
 あと、寅さんが熊本で知り合う青年、留吉(米吉だと思っていた)役が武田鉄矢。前作の中村雅俊に続いて、寅さんが恋愛道の師匠に近い役をつとめることになる。とはいってもこの人、『男はつらいよ』における寅次郎的失恋の美学はぜんぜん持ち合わせていない。意外とこういう人の方が最終的にはしあわせになれてしまうんだろうなと思わせる、寅さんのゆがんだデリカシーとは無縁のキャラだ。
(May 28, 2006)

男はつらいよ 噂の寅次郎

山田洋次監督/渥美清、大原麗子/1978年

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 寅さんが旅先で偶然、博の父(志村喬)と出会い、今昔物語からのエピソードを聞かされて、またもや感化される。で、とらやに戻ってきてみると、店では夫と別居中の美女・早苗がパートで働いていて。一泊で旅に出るという約束をごまかすため仮病を使ったら、早苗に救急車を呼ばれてしまって大騒動に……。
 以前にも『寅次郎恋歌』で博のお父さんに感化されたことのある寅さん。あの時は平凡な生活の大切さがどうたらという話だったけれど、今回は亡き妻に焦がれるあまり、墓をあばいて腐り果てたその亡骸{なきがら}を目にし、この世の無常を知って出家した男の話。そう言えばどこぞのお寺の住職に学問の大切さを説かれてその気になったこともあったけれど、思えばあの時の住職さんが、今回、旅の雲水のちょい役で出演している大滝秀治さんだ。その辺の配役は、もしかしたらわざとなのかもしれない。
 とにかく寅さん、博の父から聞かされたその話を、いつものとおり帰ってくるなり、とらやの面々の前で披露におよぶわけだけれど、その語りが実に見事。自分が聞かせてもらった話に、尾びれ背びれをつけて、話を盛りあげること、盛りあげること。志村喬さんが淡々と語った古典の一節が、寅次郎のフィルターを経由した途端、まるで怪談のようになってしまう。その語りのおもしろさが今作の見どころのひとつだと思う。
 もうひとつ、『寅次郎恋歌』との類似点があるとするならば、それはこの話でも寅が失恋する前に自ら身を引いてしまうこと。あの話では、池内淳子演じる喫茶店のママに、かなりの好意を受けながら、わけもなく身を引いた。今回も大原麗子から「寅さん、好きよ」なんて、女子高生みたいな──それゆえに深刻には受け取りかねる──告白を受けていながら、彼女の従兄(室田日出男)が彼女に惚れていることに気がつくと、さっさと身を引いて旅に出てしまう。これは二人の関係を深読みしすぎて勘違いした結果というよりも、自分とマドンナとの関係のアンバランスさを意識して、相手の幸福を願うあまり、身持ちのいいライバルに塩を送った格好だと僕は解釈している。
 そういえば室田日出男さんの役は、大滝秀治さんが住職役で出た『葛飾立志篇』で寅の恋のライバルだった考古学の先生、あの人ともかなり印象がかぶる。あれもマドンナに片想いをする冴えない男に、寅が塩を送る話だった。そう考えてみると、今回のこのエピソードはかなりの部分が過去の作品からの使いまわしで成り立っているようだ。ある意味、シリーズの定番ともいうスタイルの作品だと言える。おかげで新鮮味はほとんどないけれど、そのかわりに『男がつらいよ』が好きな人ならば、安心して楽しめそうな一作。
(Jun 04, 2006)

男はつらいよ 翔んでる寅次郎

山田洋次監督/渥美清、桃井かおり/1979年

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 この辺になると、さすがに寅次郎も自分の歳をわきまえるようになったようで、年の離れた女の子に対して、いきなりメロメロになったりしない。桃井かおり演じるマドンナから先に声をかけられても、平然としたものだ。「見知らぬ男に気軽に声をかけちゃいけないよ」なんて軽く諭してみせたりして、立派な大人の対応をみせている。
 ところが、お嬢さん育ちで疑うことを知らないという設定の桃井さん演じるひとみちゃんは、そんな寅の言葉なんて右から左、一人旅の途中でクルマがガス欠で止まってしまったところへ通りかかった旅館の若旦那(湯原昌幸)にレイプされかけ、あやうく寅に助けられることになる。この辺の話の流れは、下品なギャグが目立って、誰にでも安心して見られるのが売りのこのシリーズにはふさわしくないように思えた。
 物語は二人の出会いを描いた後、東京へ。親の決めた相手との結婚に乗り気がしないひとみは、結婚式の途中で逃亡、ウェディング・ドレス姿のまま、とらやの玄関先に姿をあらわすことになる。このシーンはなかなか傑作。とらやの庶民的な{たたず}まいと、ひとみの豪華なウェディングドレス姿のアンマッチさに、おもわず笑ってしまう。
 旅先では大人の対応を見せていた寅さんだったけれども(当然ながらご都合主義でこの時はタイミングよく帰ってきている)、ここでは唐突に態度を変えて、女性に滅法甘い、いつもの寅さんに──。どうもとらやの家庭的な雰囲気と美女の組み合わせが寅さんの理性をぶっ飛ばすらしい。あの日の大人らしい態度はどこ吹く風かとばかりに、ひとみがとらやに居候するようになると、その先はいきなりメロメロの毎日を送り始める。
 結局ひとみは一度はふった新郎の布施明──ひとみのことが忘れられず、裕福な実家を飛び出して下町の自動車工場で働いている──が実は自分にべた惚れなことを知ると、途端に態度を急変させ、結局二人はもう一度結婚式を挙げることになる。二人の仲を取り持ったとの誤解から仲人を頼まれた寅は、「わかった」と言っておきながら、いつものとおり逃げ出そうとする。
 けれどそこから先の対応が、やはり若い頃とは違う。さくらに無責任をとがめられると、「つれえところだな」とか言いながらも居残って、嫌々ながらその大任をつとめてみせるのだった。薄暗いとらやの二階で荷物を降ろしながら寅のつぶやく、この「つれえところだな」というセリフがとてもいい。ささやかながらも寅次郎の成長のあとが見てとれて、心温まるものがあった。
 しかしながら、お坊ちゃんお嬢ちゃんの新郎新婦が、親を頼らずに貧乏ったらしい披露宴を開くという展開には、なかなか気恥ずかしいものを感じてしまって困る。
(Jul 17, 2006)

男はつらいよ 寅次郎春の夢

山田洋次監督/渥美清、香川京子/1979年

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 中折帽にジャケット姿、片手には四角い古びた手提げの旅行カバン。商売は薬のセールスマン。この映画でとらやに居候することになるアメリカ人、マイケル・ジョーダン(いまとなるとすごい名前だ)のキャラクターは、あきらかにアメリカ人版の寅さんとして設定されている。
 ルックスや職業が似通っている一方で、その性格は寅とは正反対だ。マイコさん(とらやではこう呼ばれている)は、母親をハワイ旅行に連れていってあげたいと言って、儲からない行商に精を出す親孝行ものにして、健康のためにジョギングを欠かさないような真面目な人。家族を捨てて気ままな旅を続け、あちらこちらで迷惑をかけまくっている寅とは対照的だ。
 そんな彼がなりゆきでとらやに居候することになり、人妻であるさくらに恋をする。もうこのシナリオだけで、この作品はシリーズきっての名編の一本となることが決まったも同然という気がする。彼がひとりで関西をまわっている時に、寅さんも馴染みにしている旅芸人一座と出逢うという、本編とはまるで関係がないエピソードが織り込まれているのも、妙なせつなさがあっていい。
 マイケルがさくらに愛を告白するシーンに先立って、そういう場合に断わる時には「インパッシブル」と言うのだと教えておくシナリオも上手い。告白しないことを美学とする寅さんと、告白しないではいられないアメリカ人の代表マイコさん。最後の最後までふたりの対比が見事に決まっている。
 マイケル役を演じるのはハーブ・エデルマンという人で、僕が知っている映画だと、ニール・サイモン脚本の『裸足で散歩』や『カリフォルニア・スイート』に出演しているらしい。それらの映画でどんな演技を見せていたかはまるで記憶にはないけれど、この映画での彼は、これ以上ないくらいのはまり役だと思う。
 あまりにマイケルの存在感が強すぎて、今回は香川京子さん演じるマドンナの存在感が希薄だ。前作の桃井かおりの時と違って、年が近いこの女性に対しては、寅はいきなり一目惚れ状態となる(その娘役の林寛子はまるで眼中にないところもおもしろい)。最後も強力なライバル(石油船の船長さん)の存在があきらかになるというもので、初めから終わりまで見事に定番の失恋劇という感じになっている。
 なんにしろ今回はあくまでマイケルが主役だと見るべきだろう。正月ものの定番として、いつもならば寅かマドンナからの年賀状で締めくくられるラストシーンも、今回はマイケルからの手紙になっている(当然英語)。寅さんが大嫌いなはずのアメリカ人に最後まで花を持たせた格好だ。シリーズの特性を見事に生かした、とても良くできた作品だと思う。
(Jul 17, 2006)

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花

山田洋次監督/渥美清、浅丘ルリ子/1980年

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 シリーズ最多登場となるマドンナ、浅丘ルリ子演じる松岡リリーの登場する第三弾。今回は沖縄で病気になったリリーを寅が見舞いにゆき、そのまま現地で一緒に生活を始めてしまうという、思い切った話になっている。
 僕はこの作品を見るのは多分二度目だと思うのだけれど、記憶がいい加減なので、一緒に暮すという部分で、二人がちゃんと深い関係になるものだと思い込んでいた。まさか別々の屋根の下で寝泊りしているなんて展開だとは思ってもみなかった。この話の展開で性的な関係がないまま終わってしまう方が不自然だ。なんでこのシリーズはここまで男と女の関係を描くことに対して消極的なんだろう。不思議でしかたない。
 もしかして山田洋次と渥美清との間では、寅次郎はいまだに童貞っていう設定なんだろうかとさえ思ってしまう。シリーズ第2作で38歳だった寅さんだから、この作品ではかれこれ50歳に近い。ヤクザな商売をしていてその歳で童貞って、それはあまりに不自然だ。でも女性を知っているとしたらば、あの奥手さはちょっと信じられない。ここまで極端に女性と深い関係にならないようにしているのを見せられると、かえってそれには別の変な理由(もしくは深刻な?)があるんではないかと、勘ぐりたくなってしまう。なんてのは、まあ冗談ですけど。
 いずれにせよ、このシリーズ全般における寅次郎とマドンナの間の不自然な距離感には、違和感を覚えずにいられないものがあるなと。ひさしぶりに見たせいか、そんなことを再認識させられた一作だった。
 まあ不自然っていうならば、リリーが沖縄でひとりぼっちで見舞いもないかわいそうな状況に陥るってのも、あの気風{きっぷ}のいい性格を考えると不自然きわまりないし(かまってくれる男のひとりやふたり、いるって絶対)、沖縄に置き去りにされた寅次郎が、金がなくなって三日三晩飲まず食わずでとらやにたどり着くって展開も無理がある(普段から住所不定な男が、そこまで無理してとらやに帰って来ないだろう、普通)。
 『男はつらいよ』のシナリオは、ギャグだからといって受け入れるにしても、ちょっとばかり子供っぽ過ぎるだろうと思うような都合主義で満ちている。そのせいで僕にはどうしてもこのシリーズを手放しで受け入れることができないのだった。
 というわけで、渥美さんの死後に特別編が作られたくらいだから、シリーズのなかでは人気の高い一品なのだろうけれど、個人的にはあまり感心のできない作品だった。
(Aug 15, 2006)